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ビオワインの世界 10 ビオディナミ基礎講座 3

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宇宙の中の一惑星として、地球はほかの天体と関わりながら存在しています。地上の生物は、太陽からはもちろんのこと、月の満ち欠けやその他の惑星の動きからも何らかの影響を受けています。暦や季節の概念は、天体の動きを観察することから生まれたもの。ビオディナミ農法では、天体の影響を重要な要素と考えます。

もう1つの重要な要素が、雌牛の役割です。草食で、反芻(はんすう)する動物である牛は、3つの前胃と1つの後胃、そして長さ40メートルの腸管を持っています。第1胃の容量は200リットル以上あり、その中で活動する微生物の持つ酵素が、草の繊維質を十分に分解します。雌牛は牛乳のほか、貴重な植物素材の肥料をもたらしてくれるのです。

これら2つの要素を念頭に、ビオディナミ農法特有のプレパラートを2回に分けてご紹介します。主要なプレパラートは500番から507番まで8種類で、このうち最も大切なのが土壌に散布する500番とぶどうに散布する501番です。

ホルンミスト:雌牛の角に詰めた牛糞(500番) 
牛糞を雌牛の角に詰め、秋から復活祭の頃まで土中の一定の場所に埋めておくと、冬場の土壌と角の性質から、内部の微生物の活動が活性化されます。春に掘り起こした牛糞は規定量の雨水と混ぜ、約1時間掛けて水流が渦巻を形成するように撹拌(かくはん)します。撹拌作業は機械化されていることもあります。牛糞を水に均等に溶かし込むこの作業をディナミゼーションと言い、角4つ分の牛糞で1ヘクタールもの畑の肥料を賄えます。ディナミゼーションを行うため、少量の牛糞で済むのです。

ぶどう栽培では、主に畑を耕す前の日没時に散布します。500番を散布すると、土壌の微生物の活動が促進されて養分が根に行き渡りやすくなるほか、腐植土が豊かになり、ミミズの活動も活発になります。

ホルンキーゼル:雌牛の角に詰めた珪石(501番)
珪石(石英を主体とする珪化物=シリカストーン)は地殻を構成する重要な鉱物の1つ。砂の主成分であり、土壌によっては植物に取り込まれやすいコロイド状でも存在しています。特に牧草や砥草(トクサ)に多く届けられ、動物や人間の体内にも取り込まれます。人間の眼や肌の成分の1つでもあり、大気中にも存在します。光をよく反射するよう粉末状にした珪石を雌牛の角に詰め、復活祭の頃から秋に掛けて土中に埋めておくと、夏場の土壌と角の性質から、光の反射効果が強まります。取り出した粉末は、規定量を雨水に溶かし、500番と同様に撹拌します。501番は植物の成長期に、必要に応じて朝早くにぶどう樹に散布します。

501番を散布するとぶどうの成長バランスが改善されて成熟具合が安定し、光合成が促進されて植物の耐性が強化されます。また、養分の吸収バランスが良くなり、ぶどう自体がカビ菌、害虫などに対抗できる強さを獲得するようになります。

500番は地中の微生物などの生命とぶどうを繋ぎ、501番は太陽とぶどうの関係を繋ぐプレパラートと言えるでしょう。

 
Weingut Brüder Dr. Becker
ブリューダー・ドクター・ベッカー醸造所(ラインヘッセン地方)

ハンス&ロッテ夫妻
ハンス&ロッテ夫妻

 ブリューダー・ドクター・ベッカー醸造所は、1970年代からすでに、今日で言うビオワインを生産していた。現在のオーナーは、1980年代半ばに醸造所を継いだ5代目のハンス・ミュラー&ロッテ夫妻。ぶどうの栽培は主にハンスが担当、醸造は2人の共同作業だ。エコヴィンの設立時(1985年)からの会員で、2008年にデメターにも加盟した。ロッテは、かつてビオディナミの農家で研修した経験を持ち、ビオをさらに徹底させてビオディナミに移行することは、2人の目標でもあった。ビオ、ビオディナミを忠実に実践することで得られた宝物、それは微生物やミミズが活動する「生きた土壌」。水はけも改善され、ひどく乾燥する時期もぶどうがストレスなく成長するという。健康な土壌で育つぶどうは成熟のバランスも良く、粒もコンパクトになり、より「テロワール」が表現されたワインになるそうだ。

Weingut Brüder Dr. Becker
Familie Pfeffer-Müller
Mainzer Str. 3-7, 55278 Ludwigshöhe
Tel. 06249-8430
www.brueder-dr-becker.de


2012 Ludwigshöher Silvaner trocken
2012年 ルートヴィヒスヘーアー・ジルヴァーナー(辛口)10.50€

ワイン ルードヴィヒスヘーエのトイフェルスコップフという名の畑で栽培されているジルヴァーナーから作られたワイン。主にレス(黄土)で構成されるこの畑には、過去46年間にわたって化学農薬、化学肥料が投入されていないため、腐植土も豊かだ。ジルヴァーナーはいずれも樹齢40年を超える古樹。愛情を込めて育てられている1本1本のぶどう樹には、それぞれ個性が見られるという。収穫量がオークの大樽を満たすに至らないため、ステンレススティールタンクを使用。自然酵母で醗酵させたワインは、果実味とスパイシーさを併せ持ち、味わいのバランスが良く、力強さも感じられる。ロッテはハーブを多用した野菜料理やクリーミーなスープ、魚のムニエルなどに合わせて楽しんでいると言う。将来的には大型の木樽で醗酵させる予定。VDP基準のオルツワイン(村名ワイン)として販売されている。

 

 

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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