古紙のコレクションを
蘇らせたブランド
ノートのように人に使いこなしてもらえる
新しい商品を生み出したい
リザ・ブルーム=ミンケル
ヘッセン州出身。ファッションデザインを勉強すると同時に、仕立職人のゲゼレ資格を取得。パリでテキスタイル見本市の仕事に携わる。帰国後、フリーのスタイリストとして独立。2010年からは自身のブランド「june and august」のプロダクトデザイナーとして古紙を再利用した製品を製作・販売している。
リザ・ブルーム=ミンケル(44)と出会ったのは、彼女がまだハンブルクに引っ越して間もない1990年代半ばのこと。独立したばかりの彼女と同じイベントに関わり、1カ月ほど一緒に仕事をした。あれから17年、長年ファッションの世界にいた彼女が、プロダクトデザイナーとして新たなスタートを切ったと知り、久々に再会した。
純粋美術ではなく、応用美術の道へ
リザはヘッセン州の専業農家で生まれ育った。父親はテンサイと穀物を栽培、母親は家政学のマイステリン。母方の祖父は室内装飾、塗装業を営み、リザが美術に興味を持ったのはこの祖父の影響ではないかと言う。「幼い頃から紙や布をたくさん集めていたの。絵を描くことも大好きだったわ」。4歳の時には、集めた紙で絵本やノートを手作りしていた。
リザはギムナジウム在学中も絵を描き続け、卒業後はデュッセルドルフ芸術アカデミーの彫刻学科に進学するつもりだったが、父親が反対した。「美術をやるなら、応用美術を専攻した方がいい。純粋美術だけで食べて行くのは大変だよ」と言われたのだ。
それならファッションデザインの道に進もうと思い、専門学校に通いながら仕立職人の元で修業、ゲゼレの資格を取った。しかし、マイスターになるつもりはなく、クリエイティブな仕事がしたくてディプロマを取得すると、フランス語もできないのにパリへと向かった。
パリでは、友人の紹介でジル・ドゥヴァヴランのアシスタントを務め、半年後には世界最大規模のテキスタイル見本市「Première Vision」の実習生を経てスタッフに。配属されたのはオーディオ・ビジュアル部門だった。「ここで言葉の壁にぶつかってね。英語で通すこともできたけれど、フランス語に挑戦することにしたの。仕事は出展者から送られてくる膨大な量のサンプル生地を分類し、その年のトレンドを分析しながらプレゼンテーションパネルやオブジェなどを製作するというもので、手仕事も多く、手にした道具の名前を聞いたりしながら、子どものようにフランス語を学んだ」と振り返る。また、3年目には知り合いのカメラマンを手伝ってスタイリングの仕事を始め、その面白さにも開眼する。
パリからハンブルクへ
1993年、3年にわたるパリでの修業を打ち切ってドイツに戻った。「実家には帰りたくなかった。とにかく都会で暮らしたかったの」。そして、ハンブルクでファッション関係の仕事をしている知人のWG(シェアハウス)に転がり込む。クリエイティブな人たちが集まるロフト・アパートで、そこにスタジオを構えるカメラマンのスタイリングを手伝いながら、自らの作品集を手に出版社を回った。やがて「Petra」「MAX」「Schöner Wohnen」といったライフスタイル誌のスタイリングの仕事が舞い込むようになり、リザは自分のアイデアを活かせるだろうと期待したが、現実は違った。「雑誌のスタイリングは、ほとんどが編集段階で決まっていて、スタイリストは買い物や商品収集がメイン。クリエイティブな要素はあまりなかった」。しか し、そんな中でも彼女は自分にぴったりの仕事に巡り会う。ファッション誌「Brigitte」の「selber machen」というページで、シーズンごとに手作りの商品を製作し、作り方を解説するというものだ。リザは12年間にわたってこのページの作品作りを担当した。ところが2011年に雑誌の編集方針が代わり、シリーズが中止となってしまう。
プロダクトデザインへの挑戦
その頃、リザは自分で何かを生み出したいと思うようになっていた。自宅には、スタイリストを始めてから撮影用に収集した100年前のアンティークの壁紙コレクションや古い地図など、思い入れのある紙や布が溢れていた。「苦労して集めたのだから、これから何か有用な物が生み出せないかしらと思ったの」。
アンティークの壁紙や昔の地図がノートの表紙としてよみがえる
彼女はまず、壁紙を貼った箱を作り始めた。帽子用の箱や小物入れなどだ。時々買いたいと言う人も現われた。「でも、箱はあまり実用性がない上、手間が掛かり過ぎる。そこである時、ノートを作りはじめたの。子どもの頃みたいにね」。ノートの表紙にはコレクションから厳選した紙を利用し、手作りの栞(しおり)を添えた。
2010年、コツコツと作り続けて溜まったノートをハンブルクのライフスタイル見本市「early bird」に出展した。もともと出展するつもりはなく、磁器の絵付けをしている友人に誘われて一緒にブースを借りたのだ。しかしこの時、彼女のノートには本人も驚くほどの反響があった。続いて、フランクフルトの消費材見本市「Tendence」にも出展。2度の出展で、1人では捌ききれないほどの注文が舞い込む。顧客のほとんどが各地のミュージアムショップと書店だった。数百冊 単位の注文を1冊1冊手作りしていては納期に間に合わない。彼女は、表紙とノート用紙の裁断と綴じを印刷業者に委託し、表紙のカッティングの指示と栞の製作、梱包のみを自分で行うという態勢を整えた。
リザのノートは、古紙を再利用していることもあって、ほとんどが一点物。リサイクルは重要なコンセプトの1つだ。ショップ販売用の商品を、汚れを防ぐ透明の袋に入れなければならなくなった際は、ドイツではまだ商品化されていない生分解性のバイオプラスチックの袋を探し求め、ニューヨークの文具見本市「National Stationery Show」に出掛けた。「細部に至るまで、自分が納得できるものを使いたい。それにどんなに手間が掛かっても妥協はしたくないの」と言う。
「使いこなされて分厚くなったノートに出会うと、とても嬉しくなる。これからも、ノートのように人に使いこなしてもらえる商品を生み出したい」と意欲的だ。見本市に出展することでビジネスチャンスを掴み、固定客がついたが、彼女は目下、新規顧客の開拓のため、Etsy*というEコマースサイトでの販売を準備中だ。
*2005年にスタートしたサイトで、手作り商品の売買が中心。本部はニューヨーク、米国では大成功を収めている。最近は欧州市場にも注力しており、2012年10月にドイツ語バージョンがスタートした。
Lisa Blum-Minkel
june and august
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www.june-and-august.com