ジャパンダイジェスト

眠りから覚めたシュプレーパーク

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バラバラの恐竜
バラバラの恐竜の前で戯れる人々の姿はどこかシュール

一見、行楽客で賑わうどこかの遊園地の写真かと思われるかもしれない。だが、よく見るとどこか違う。恐竜のオブジェは無惨にも肢体がバラバラになり横たわっている。奥の大きな観覧車は錆び付き、人を乗せて回ることはもはやない。

ここは「かつて」遊園地だった場所なのである。5月末、ベルリンの演劇シーンをリードするHAUことヘッベル劇場の企画「Lunapark Berlin」で、トレプトウ地区にある「シュプレーパーク」が長い眠りから覚めた。

シュプレー川に面した89ヘクタールの広大な森、プレンターヴァルトの北側にあるアミューズメントパークの歴史は東ドイツ時代にさかのぼる。1969年、東独唯一の常設遊園地である、クルトゥアパーク(文化公園)・プレンターヴァルトがオープンした。西側のテーマパークに比べると、アスファルトがむき出しのシンプルな外観だったそうだが、高さ45メートルの観覧車といった目玉のアトラクションが人々を引き寄せ、年間170万人が訪れたという。

1990年からは西独出身の経営者が引き継ぎ、シュプレーパークと名前を変えて再出発。観覧車の下のアスファルト部分を池に造り替え、さらにローラーコースターや西部劇村などが加わって、よりテーマパークらしくなった。一方で、90年代後半以降の経営は借金との戦いになり、訪問客も年間40万人にまで落ち込んだ。2001年、シュプレーパークは倒産、経営者たちはペルーに夜逃げした。

あれから10年、シュプレーパークは今どうなっているのか。東独時代からの遊園地が4日間限定でよみがえるという企画は多くのベルリーナーの心をとらえたのか、最終日に訪れてみたところ、入り口前には長い行列ができていた。5ユーロの入場料を払って中に入ると、遊園地はほぼ手つかずの状態で残っていたが、さすがに10年の間に、コースターの滑走路は錆び付き、草木は無造作に生い茂り、ところどころにビオトープが出現しているという具合。子どもたちは廃墟のアトラクションと戯れ、大人たちは物珍しそうにカメラのシャッターを切る。期間中、いくつもの見学ツアーのほか、ショーやコンサートも行われ、大いに盛り上がっていた。

チェックポイント・チャーリー
突如現れたチェックポイント・チャーリー

だが、これが遊園地だった過去を懐かしむだけのイベントでないことは、明らかだ。観覧車の近くに、1枚の大きなパネル写真が置かれていた。チェックポイント・チャーリー跡でアメリカ兵に模した青年と観光客が並び、2人の顔の部分だけ穴が空いている。そこに自分の顔をはめ込んで記念撮影をするという、観光地で見かけるあれだ。この東西検問所跡に行ったことのある人ならわかると思うが、ひっきりなしに訪れる観光客が兵隊の格好をした若者と笑顔で記念写真に収まり、あっという間に立ち去って行く様子は、遊園地のそれと何ら変わるところがない。現在ベルリンの観光業は右肩上がり、新しいホテルは増える一方だが、「ベルリンが観光客向けの1つの巨大なアミューズメントパークになりつつあることへの問いかけをしたかった」とキュレーターのシュテファニー・ヴェナー氏は語る。

シュプレーパークの将来はいまだ白紙だという。この場所の将来を考えることは、ベルリンの未来を問うことでもある。


information

シュプレーパーク
Spreepark

通常は中に入れないが、実は定期的に内部見学ツアーが行われている。旧シュプレーパーク入り口が集合場所で、約2時間ガイドの説明と共に、廃墟と化した遊園地をじっくり歩いて回る(要予約。参加費は15ユーロ。ツアーは基本的に週末に開催されるが、日程の詳細は以下ウェブサイトをご参照下さい)。

住所:Kiehnwerderallee 1-3, 12437 Berlin
電話番号:(0176)831 43 138
URL:www.berliner-spreepark.de

ヘッベル・アム・ウーファー
Hebbel am Ufer (HAU)

2003年、クロイツベルクの川沿いの大中小3つの劇場が統合して生まれた1つの劇場組織。芸術監督のマティアス・リリエンタールが「常に『摩擦を起こすこと』を試みている」と語る通り、革新的な作品を世に送り続けている。年間120ものプロジェクトが手掛けられ、今回のように舞台が都市そのものになることも。

住所:Hallesches Ufer 32, 10963 Berlin(チケットオフィス)
電話番号:(030)259004 0
URL:www.hebbel-am-ufer.de


 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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