現在は文化財になっているプレンツラウアー・ベルク市営浴場
「アルトバウ」と呼ばれるベルリンの古いアパートは、19世紀末から20世紀初頭に建てられた、つまり築100年を越えるものが多い。私が今住んでいるアパートもその時代の建物なのだが、ときどきバスルームでふと思う。「昔の人々はどうやって、そしてどのぐらいの頻度で体を洗っていたのだろうか。湯船に浸かる機会などあったのだろうか」と。
こんな素朴な疑問に対して、1つの答えを得る機会があった。プレンツラウアー・ベルク地区の賑やかなカスタニエン・アレーから一歩入ったオーダーベルガー通り。近年、外国からの観光客も増え、頻繁に英語の会話が耳に入ってくる界隈だ。この一角に、石造りの重々しい建物が建っている。これが「プレンツラウアー・ベルク市営浴場」。実際は、浴場として使われなくなってから大分経つのだが、この週末、毎年恒例の「文化財の日」で一般に公開された。
プレンツラウアー・ベルクは、普仏戦争(1870~71年)後のいわゆるグリュンダーツァイトと呼ばれるバブル期に集中的に開発された地区だ。ベルリンの人口が急激に増え、当初はもっぱら住宅が造られ、その後、マーケットホール、病院といった公共の施設が必要に応じて建てられた。1902年、こういった流れの中、ルートヴィヒ・ホフマンの設計によって市営浴場がオープンしたのだった。
普段は人が入っていない建物に特有の、ややカビ臭いにおいを感じながら中に入ると、突然大きな空間が目の前に開けた。正面の大きな窓から光が差し込み、アーチ状の天井や、列柱の豊かな装飾を照らし出している。この荘厳な場が市民のための公共浴場だったとは、にわかには思えないほどだ。
私は、かつて水が溜められていたプールに降りて、芸術作品を見るようにしばらく眺め渡していた。
1人の女性がマイクを持って、来場者に説明を始めた。この建物が公共浴場として使われていたのは、東ドイツ時代の1986年までだったという。東西ドイツ統一後、再利用の案がいくつも出されたが、どれも実現には至らなかった。ようやく2011年、近くにある語学学校GLSがこの場所に興味を示し、売却されることになったそうだ。GLSのマネージング・ディレクター、バーバラ・イェシュケさんの話では、この建物内にある部屋は、75のホテルの部屋と18の会議室に生まれ変わる。市民にとってうれしいのは、私が今立つ場所が最新設備を備えたプールとして再び利用できるようになることだろう。
2階に上がってみた。プールの周りは、無数といってもよい小部屋が並んでいる。ここは昔シャワー室、浴槽のある個室として使われていた。家庭にまだシャワーなどなかった時代、この場所が市民にとってどれほど重要だったかは想像に難くない。ベルリンが世界都市に向かって邁進する時代の人々の賑やかな声が、現在はがらんとした部屋にこだまするかのようだった。
かつてシャワーや浴槽があった部屋は、会議室、ホテルなどに生まれ変わる
イェシュケさんは、最後にこう語り掛けた。「来年9月の『文化財の日』で工事の進展をご覧ください。そして、3年後には水着を持ってここに来てください!」
文化財一般公開の日
Tag des offenen Denkmals
「ヨーロッパ文化遺産の日」に合わせて、1993年以降毎年ドイツ中の都市で開催される行事。普段は内部に入れない文化財や、改装中の歴史的建造物が市民に公開され、今年はベルリンだけでその数は310に上った。毎年テーマが設けられ、2012年のテーマはHolz(木)だった。
日時:毎年9月第2週の週末
URL:www.berlin.de/denkmaltag
ノイケルン市営浴場
Stadtbad Neukölln
今すぐにプレンツラウアー・ベルク市営浴場の雰囲気を味わってみたいという方にお勧めなのが、同時期の1914年にオープンしたノイケルンの市営浴場。新古典様式で造られており、大小2つのホールの内装は古代ギリシャの神殿を思わせるほど。設立当時はヨーロッパで最大規模の浴場だった。現在はプールだけでなく、サウナの設備も備えている。
オープン:月~日(時間の詳細は下記URLを参照)
住所:Ganghoferstr. 3, 12043 Berlin
電話場号:(030)68 24 98 0
URL:www.berlinerbaederbetriebe.de