入口の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのが大きな無垢材のテーブル。華美な装飾がないすっきりとした店内に流れる空気は、神社の境内のように凛としていて、雑多なベルリンにいることを忘れてしまいそうです。
オーナー自らが手がけた内装は、静謐で落ち着いた雰囲気
「内装は自分で施工しました。テーブルは木材そのままの状態で買ってきて、やすりがけして仕上げています。毎日作業して3カ月かかりましたけど」。笑顔でそう話すのは、Restaurant YUUMIのオーナー、水谷優太さん。自分の店を持ちたいという夢を抱き、日本をはじめオーストラリアやフランス、イタリアと多くの国で修行し、最後にたどり着いたのがベルリンでした。「移住のきっかけは友人が住んでいたからだったのですが、とても良い出会いに恵まれました。デンマーク風ドイツ料理のお店で5~6年働いたのですが、そこのシェフに出会っていなければ、お店を持つことはできなかったと思います」。
ベルリンの中心部から少し外れた、ネルドナープラッツ駅から徒歩5分の場所で、水谷さんは妻ミヒャエラさんと二人でYUUMIを開店しました。人が多いミッテなどからは離れた場所で、完全予約制のコース料理のみにも関わらず、地元の人々を中心に予約で満席になるほどの評判を得ていました。そんな矢先、新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われます。
ラクトースフリー、グルテンフリー、ベジタリアン、各種アレルギーにも対応
当時、ベルリンの多くの飲食店は持ち帰り中心の営業を行っていましたが、水谷さんは葛藤で苦しみました。レストランが作るお弁当とは? そもそも自分にとってレストランの存在意義とは何か? 料理人としての自分は、地元の人々のために一体何ができるのか? ……自問自答の末に水谷さんが導いた答えは、「レストランに来ていただいている時間を、お客様にとってその日の中の特別な出来事にしたい」というものでした。「持ち帰りでしか営業できない時期でも、このポリシーを貫きたかった。ですから、お弁当の受け取りも1組15分おきの予約制にして、最終的な仕上げはその場で行いました。そして、お料理の説明もきちんとしてからお渡しするようにしたのです」。常連の人々が買い求めたのはもちろんのこと、今回のお弁当がきっかけで新しくYUUMIのことを知ってくれた方もいたとか。
オーナーの水谷優太さんと妻のミヒャエラさん
「パンデミックは、自分の料理人としての核を改めて見直すきっかけになりました。これからも妻と二人で、ズルをしない、正直な商売をしていきたいです」。料理とお店に訪れる人々に対し、どこまでも誠実に向き合う水谷さんとミヒャエラさん。困難な状況でもポリシーを貫いた真摯な姿勢のなかに、アフターコロナを生き抜くヒントが隠されているように感じました。
Restaurant YUUMI:www.restaurantyuumi.com