2011年3月の東日本大震災では、東北地方で240人の子どもが両親を、1400人弱の子どもが片方の親を亡くしました。昨年秋、このような震災孤児を支援するNPO法人“KIBOU”がベルリンに発足。1月末、この法人が主宰するチャリティーコンサートに足を運ぶ機会がありました。
この夜登場したのは、エーブン・ユー(ピアノ)、ユージン・ナカムラ(ヴァイオリン)、ノルベルト・アンガー(チェロ)の若手3人からなるピアノトリオ“Take 3”。メインに選ばれたベートーヴェンのピアノトリオ《幽霊》の2楽章が始まると、みるみるうちに照明が落とされ、舞台中央でほのかに灯されたロウソクが、作品名にふさわしい幽玄な雰囲気を作り出しました。このユニークな演出の後、フィナーレでは一転して、音楽家たちが体を揺さぶりながらのエネルギッシュな演奏を披露。客席を埋めた聴衆からは、盛大な拍手が送られました。
1月30日に行われたチャリティーコンサートで、
見事な演奏を披露したピアノトリオ“Take 3”
“KIBOU”を主宰するベルリン在住の柏木博子さんに、話を伺いました。柏木さんはデュッセルドルフのドイチェ・オーパー・アム・ラインなど、長年ドイツのオペラ劇場で活躍したソプラノ歌手。震災によってこれだけ多くの孤児が生まれたことに衝撃を受け、また昨年春初めて被災地を訪れた際に案内してくれた地元の記者が、涙ながらに現状を伝える姿を前に、「何かしなければ」と思ったそうです。
そんなとき、柏木さんは「子どもの村東北」が仙台市に作られる計画を耳にします。「子どもの村」とは、親を亡くしたり、事情があって実の親と暮らせない子どもたちを、孤児院のように集団で養育するのではなく、「村」の敷地の中で里親やほかの子どもたち数人と共同で生活させることで、家庭に近い環境で育てるというもの。もともとSOS-Kinderdorfとして第2次世界大戦後のオーストリアで誕生し、現在は世界133カ国で活動しています。
「以前ドイツの『子どもの村』を支援していたこともあり、これは素晴らしいアイデアだと思いました。設立資金の援助をしたい気持ちと、若手の音楽家に演奏の場を提供したいというかねてからの想いが結び付いて、NPO法人にしようと決意したんです」(柏木さん)
ドイツでNPOを作るには煩雑な手続きが必要とされますが、専門知識を持つ友人の助けにより、わずか1カ月の準備期間で設立。活動の趣旨に共感したベルリン・フィルやシュターツカペレのメンバーをはじめとする優秀な音楽家が、無償で演奏を引き受けてくれることになりました。
「ギブ・アンド・テイクの関係を大事に、来てくださる方に募金をお願いするだけでなく、音楽的にも質の高いものを提供したかった。多くの方々の支援でここまでくることができましたが、目的は『子どもの村』を作ることだけではなく、その先にもあります。今後も継続してコンサートを開催していきたいと思います」と語る柏木さん。
震災2周年直前の3月6日(水)、ポツダム広場近くのマタイ教会(St. Matthäus-Kirche)で行われるコンサートでは、ベルリン・フィルの若手メンバーからなるカルテットがシューベルトの「死と乙女」などを演奏。また、仙台の河北新報の提供により、被災地の今を伝える写真パネルが会場に展示される予定です。詳細はwww.fk-kibou.orgより。