劇的な道を歩んだ20世紀のベルリンの歴史の中で、今でも燦然(さんぜん)と輝く伝説の時代があります。「黄金の20年代」と呼ばれる1920年代です。二つの大戦のはざまにあり、自由な雰囲気の中で文化や芸術が花開いた一方で、どこか危うげな香りを漂わせた時代。ミッテ地区のエフライム宮殿で開催中の「火山の上のダンス―ベルリン 芸術に映し出された20年代」という題名の展覧会をご紹介したいと思います。
1920年代のベルリンは、人口が400万人を越え(これは当時世界第3の規模でした)、大都市特有のせわしないテンポが街の性格を特徴付けていました。しかしあの時代が、第一次世界大戦の敗戦後の混乱と極度のインフレから始まったことも忘れてはならないでしょう。彫刻家ケーテ・コルヴィッツが描いた路上で生活する母子の姿は、大都市の陰の側面を静かに伝えていました。
パウル・グルンヴァルトの絵画「Varieté」(1925年)
ベルリンの20年代の記録映画を見ると、暗闇に浮かぶネオンサインの広告がよく出てきます。1928年には「光の週間」が初めてベルリンで開催され、街の主要名所が照明の光で彩られました(毎年10月に行われる「光のフェスティバル」の先駆けと言えるかもしれません)。現代につながる大量消費文化の基礎が作られたのもこの時代だったのです。
そんな時代のベルリンを格別に魅力あるものにしていたのが、前衛演劇からオペラ、華やかなレビュー、アクロバティックな見世物に至るまでの夜の娯楽。当時フリードリヒ通りにあった劇場グローセス・シャウシュピールハウスの模型では、つららのような内部装飾が目を引きます。別の部屋では、街角の娼婦を描いた絵画や写真が展示されていました。享楽と退廃もまた、20年代の風景の一コマといえます。
ほかにも、20年代のファッションや流行の髪型、さらにはラジオ放送といった新しいメディアについての展示もあり、後者では作家のデーブリーンや画家のリーバーマンといった歴史上の人物の肉声を聞けたのが貴重な体験でした。
1928年の靴店Leiserのショーウィンドウ
最後の部屋では、ヒトラーに熱狂する人々を捉えた写真が目に飛び込んできました。黄金の20年代はこれをもって終焉となったのです。表現主義の画家、マグヌス・ツェラーが1938年に秘密に描いた作品は、全体主義の不気味さと共に、その悲惨な末路をも暗示しているかのようでした。
展示の説明文(英独表記)はほどよい長さで、何よりビジュアル的に楽しめる展覧会となっています。最上階では、1856年創業のベルリンの老舗の香水メーカー、シュヴァルツローゼ社の歴史が展示されていました。香水のスプレーを押してみると、20年代への憧れを誘うような高雅な匂いが広がりました。同展は1月31日までの開催。