聖母教会が第2次世界大戦時の爆撃の傷跡から復興して以来、観光客で賑わうノイマルクトの一角。地下に下りると、ワインや思わず手に取りたくなるようなお土産が所狭しと並ぶお店があります。そこは、ドレスデンに住む日本人が気軽に立ち寄ることができる居心地の良い店、若きソムリエ沼尻慎一さんが経営するワインショップです。
店内の様子。ワインとお土産がぎっしり並びます。
沼尻さんとドイツワインとの運命的な出会いは、ドイツに留学していた大学時代に遡ります。名前は覚えていないそうですが、そのとき飲んだ白ワインに魅了されたとのこと。これをきっかけに、ドイツで働き、自身が経営するドイツワインの店を持つことを将来の夢に据えたそうです。そのための第一歩として、飲食関係の会社に就職し、3年間勤務。その後、偶然に見付けたドイツワイン関連の会社の求人に応募したところ、すぐに採用され、その約1カ月後にはこの会社が運営するリューデスハイムの店に勤務することになりました。
そうして1997年からドイツで仕事をする傍ら、本格的なワイン探求の旅が始まりました。週末になると列車に自転車ごと乗り込み、リュックサックを背負ってワイン醸造所を訪ねて回りました。行く先々で醸造家の話を聞き、試飲をしてワインを1本買っては次の醸造所へ向かう、ということを繰り返しました。自分の足で生産地をめぐることで、土壌や地形を把握し、さらには各醸造家の事情や特徴を直接知ることができました。ワイン学を身をもって習得するという、意義深い経験を積まれました。
その店に10年ほど勤務した後、沼尻さんは2008年に、満を持してワイン造りの北限の地ドレスデンに自身の店をオープン。現在、取り扱っているワインはドイツ全地域を網羅し、約300種類にも上ります。ほとんどのワインは、沼尻さんがワイン醸造所を直接訪ねて選び抜いたもので、ワインそれぞれに物語やエピソードがあるため、沼尻さんにとっては愛おしい子どものような存在です。輸出にも力を入れており、商品の発送も格安で提供しています。ワイン販売以外にも、醸造所見学ツアーやワインセミナーを企画し、意欲的に活躍の場を広げています。
沼尻慎一さん。自慢のワインがずらりと並ぶ棚の前にて
若い頃の夢をすべて実現し、藤原道長が詠んだ「望月の欠けたることもなしと思へば(自分の思うようにならないことは1つもない)」のように見えますが、当のご本人はこれからもワインへの愛と知識を深めるべく、勉強して難関資格に挑戦する予定だそうです。沼尻さんのワイン探求の旅はまだまだ続きます。
DWG Handel: http://dwghandel.com
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/