東西ドイツの統一前後から激しい人口流出を経験したライプツィヒ。「縮小都市」として様々な問題を抱える町ですが、現在、町おこしの一環として長期間放置されていた空き家や空き地を活用する動きがあちこちで起きています。初回はその1つ、2004年に始まった市西部リンデナウ地区の「隣人の庭」というプロジェクトをご紹介します。
この地区のヨーゼフ通りは、かつてはゴミが溢れる大変治安の悪い通りでした。公園には常に犬の糞とたばこの吸い殻が溜まっているという劣悪な環境の中、これでは小さな子どもたちを安心して遊ばせる場所がないと考えた地元の母親4人が住民を巻き込んで清掃を始めたのが、プロジェクトの発端です。まずは雑草が森のように覆い茂っていた空き地に目を付け、掃除を開始。同地区では通常、粗大ゴミを処理する際は袋に専用シールを貼らなければなりませんが、地域住人100人以上の寄付によって、シールの代わりに一斉掃除のために区から廃棄物処理用コンテナを1台支給してもらいました。さらに、放置されていた倉庫を改修。現在そこは、メンバー共有のキッチンとトイレ、そして自転車工房になっています。
砂場や温室など利用者の自由に使われている庭
隣人の庭の対象はヨーゼフ通りとジーメリング通りにまたがる、いくつもの区画を合わせた土地で、所有者はスイスの不動産業者からハノーファー在住の個人まで様々です。プロジェクトのメンバーは、活動開始と同時に各土地の所有者に連絡を取り、主旨を説明しました。放置しても固定資産税が課される土地ですが、パブリックな庭として解放することで税金が免除され、何より地元住民に喜ばれます。メンバーは実際に土地所有者全員と地元住民、そして行政職員を招いてそのメリットを説明し、問題点があればどのように解決できるかを全員で話し合ったのです。こうして、期限付きで土地の「Zwischennutzung(又借り使用)の許可が下りました。
放置されていた倉庫。現在は共有キッチンとトイレ、自転車工房になっている
その後2006年には、雨が降った際の居場所を確保すべく、寄付を募って4000ユーロを集め、多くのボランティアの力を借りて藁葺き小屋を建設しました。今はそこに釜戸を設けて、パンやケーキを焼いているそうです。
現在、隣人の庭の登録メンバーは50組を超えています。基本的に庭の使い方は自由で、砂場を作っている人がいれば、小さな温室を建てている人もいます。天気の良い日は子どもたちが裸で庭内を走り回り、大人たちはビール片手に庭の手入れを楽しみます。かつてゴミの山だった空き地は、住民の手によって地域の人たちが集う魅力的な庭に生まれ変わりました。
福岡県生まれ。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の建築設計事務所に所属し、10年に「ミンクス.アーキテクツ」の活動を開始。11年よりライプツィヒ「日本の家」の共同代表。www.djh-leipzig.de