ドイツの現代アートでは、作品を通して社会的問題を指摘したり、政治的発言をするということがもともと盛んです。難民問題をきっかけに右派ポピュリズムの台頭が著しく勢いを増している昨今、アートの最先端を学んでいるシュトゥットガルト美術アカデミーの学生たちは、当然この分野でもイニシアチブを発揮しています。すでに長い間、このテーマに取り組んできたファインアート学部のギューデマン教授のクラスはざまざまなアクションを起こしています。
ギューデマン教授の演説
このクラスの学生たちは、昨年10月と11月にミュンヘン美術アカデミーの学生と政治をテーマとしたコラボレーション展示を2つ行い、今年5月に行われた欧州議会議員選挙の前に、街頭でアートポスター展を開催しました。そのポスター展示のテーマは、世界人権宣言で認めた30ヶ条。5人の学生とゲストアーティストがそれぞれ自分の興味のある条文を選び、ポスターサイズの作品を発表しました。筆者も3枚ほどの作品を制作し、ゲストとして参加させてもらいました。
世界人権宣言は1948年に開かれた第3回国際連合総会で、「あらゆる人と国が達成しなければならない共通の基準」として採択されました。これまで私はドイツに長期滞在する一外国人として、成熟したドイツの民主主義や文化の多様性に恵まれ、外国人だからと差別されることなく生活することが可能でした。しかし、それが今少しずつ壊されていくのを見て、違和感を覚えています。例えば、第26条では「すべての人は、教育を受ける権利を有する」とあります。しかし、バーデン=ヴュルテンベルク州では2017年冬学期から非EU圏の学生に対して1学期1500ユーロという、第26条に反する授業料制度が導入されています。このため、数多くの非EU圏留学生がこの州での勉強を断念せざるを得ないという残念な状況になっているのです。これは非EU圏の学生が教育のチャンスを失うだけではなく、長い目で見れば社会にとっても大きな損失になり得ると思っています。
第19条、すべての人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する
第26条、すべての人は、教育を受ける権利を有する
また、第28条には「すべての人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する」とありますが、過去のナチス犯罪に対する反省と、ここ最近急激に武器輸出量が増えたドイツの立場は矛盾していると感じています。こういった不条理を訴えたポスターは、街頭に展示されることによって多くの人の目に触れ、学生やアーティストに直接質問をする人もいました。今回のアートポスターは、今後もシュトゥットガルトのギャラリーなどで何回か展示される予定です。
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
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