腫瘍マーカーとは?
悪性腫瘍の診断補助に用いる血液検査です。正常な細胞からはほとんど作られず、がん化した細胞から産生される物質を測定します。腫瘍マーカー(Tumormarker)は単一の検査項目ではなく、50種類近くもある測定項目の総称です。
どんな時に検査が行われますか?
大きく分けて3通りあります。1)健康な人の悪性腫瘍のスクリーニングとして(前立腺がんのPSA値)、2)症状や所見から悪性腫瘍が疑われる場合、3)がん治療の効果判定と再発の指標として。
早期がんは分かりますか?
PSA など一部の腫瘍マーカーを除くと、早期がんの陽性率は必ずしも十分とは言えません。例えば、CA19-9の病期I のすい臓がんでの陽性率は77% と高いものの、α フェトプロテインの病期I での肝がんの陽性率は40%弱、CEA の進行度A(デューク分類)の大腸がんでの陽性率は30%弱です。また、病期I の乳がんではいずれの腫瘍マーカー陽性率も4~25% と低く、残念ながら早期発見に役立つものではありません。CA72-4など胃がんに対する各種腫瘍マーカーも、進行してから陽性化するものが多いのが現状です。
がんの組織型を知ることができる?
肺がんの腫瘍マーカーは、がんの進行度と組織型を知る意味では重要です。例えば、腫瘍マーカーのNSEは肺がんの中の小細胞がんで陽性に、SCC抗原、シフラは扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんで陽性となります。組織型の診断は肺がんの治療法の選択に欠かせません。
偽陽性と偽陰性の問題は?
腫瘍マーカーの問題点は、がんの陽性率が100% ではないことです。悪性腫瘍がなくても値が高く出る偽陽性、がんがあるのに陰性の結果になる偽陰性がかなりあります。がん以外の良性疾患でも値が高く出る腫瘍マーカーもあります。
グレイゾーンとは?
健康な人の基準値と、がんの可能性が高くなるレベルの値の間の範囲をグレイゾーン(玉虫色の範囲)と呼びます。PSA のグレイゾーンの人の約1/4に前立腺がんが見付かるため、最近はフリーPSA の比率を計算して前立腺肥大との鑑別に努めています。
よく使われる腫瘍マーカー
数多くある腫瘍マーカーの中でも用いられる機会の多いものについて簡単に説明しましょう。
● PSA(前立腺特異抗原)―前立腺がん
前立腺がんのスクリーニング、治療後の評価に用います。PSA は前立腺肥大症でも上昇することがあるので、この値が高い場合には一度泌尿器科専門医で診てもらうことが大切です。
● CA 125―卵巣がん・子宮がん
主に卵巣がんの腫瘍マーカーです。子宮内膜症でも値が上昇します。卵巣がん全体での陽性率は70~80% と高く、病期I の早期でも約半数の人で陽性になります。基準値は35U/ml未満、異常値は70U/ml以上です。
● αフェトプロテイン(AFP)―肝がん
原発性肝細胞がん(肝がん)の腫瘍マーカーで、早期診断にも役立ちます(陽性率は40%弱程度)。慢性肝炎、肝硬変、妊娠によっても上昇することがあります。一方、PIVKA-IIはむしろ肝がんの進行度を知るのに役立ちます。
● CEA(癌胎児性抗原)―大腸がんなど
主に大腸がんの診断、進行度の予測、経過観察に用いられます。その他、胃がん、すい臓がん、胆道がんなど消化器系の悪性腫瘍や、肺がん、甲状腺がん、乳がんなどの腺癌(せんがん)と呼ばれる悪性腫瘍で上昇します。
● CA 19-9―すい臓がん
すい臓がんの腫瘍マーカーで、慢性膵炎とすい臓がんの鑑別に有用です。ほかに、胆道がん、胃がん、大腸がんや、子宮体がん、卵巣がんでも値が上昇します。
● フェリチン―各種の悪性腫瘍・白血病
本来は鉄代謝のマーカーです。がんの種類に限らずがん進行と共に値が高くなるので、各種がんの腫瘍マーカーや、がん治療の効果判定に用いられます。
● NSE(神経特異エノラーゼ)、シフラ(CYFRA 21-1)―肺がん
肺がん治療に欠かせないがんの組織型や進行度を知るのに役立ちます。NSE は小細胞癌で、SCC抗原、シフラは扁平上皮がんというタイプで陽性になります。ただし、肺がんの早期診断としての検出率は低く、早期診断には胸部写真や胸部CT のような画像診断の方が優れています。
図1 主な主要マーカーの一例
乳がんにはマンモグラフィーを
乳がんの早期診断のための腫瘍マーカーはなく、乳がんのスクリーニングにはマンモグラフィーまたは乳房超音波検査(もしくは両者併用)が最も効果的です。乳頭からの異常分泌が見られる際は、分泌液中のCEA を測定して乳がんのスクリーニングを行います。
腫瘍マーカーは診断補助の検査
悪性腫瘍の早期発見に役立つ腫瘍マーカーもいくつかありますが、進行してから陽性に出るものも少なくありません。腫瘍マーカーのほとんどは診断補助として用いられ、悪性腫瘍が疑われる場合には、症状・血液検査値・細胞診・超音波や放射線科による画像診断と合わせて判断します。