更年期とはどういう時期を指すのでしょうか
ドイツ語では更年期をWechseljahreと言います。一般的には女性の「性成熟期」から「老年期」への移行期を指します。これは卵巣の機能が低下し始め、女性ホルモンの分泌が減少する閉経前後5年くらいの期間を指します。この時期にみられる様々な症状を更年期症状( Wechseljahre Beschwerde, 医学用語ではKlimakterische Symptome)と呼んでいます。女性特有のものと思われがちでしたが、近年は男性の更年期障害も注目されています。
具体的にはいつ頃から更年期障害の症状が現れますか?
日本人女性の平均閉経年齢は50歳くらいといわれていますので、更年期はだいたい45~55歳くらいと言えるでしょう。50代前半に更年期の症状のピークを迎える人が多いですが、早い人だと40歳頃から更年期の症状が現れる人もいます。卵巣摘出手術の後も更年期と同じ状態になります。一方、子宮を摘出すると月経はなくなりますが、卵巣が十分機能していれば更年期障害の症状が見られることはありません。
どのような症状があるのでしょうか?
更年期の女性の60~70%の方が何らかの症状を訴えます。「顔や体が急にほてる」「異常な発汗」といった自律神経失調が主な症状ですが、痛みなどを伴わないため、更年期不定愁訴(ふていしゅうそ)とも呼ばれます。イライラしたり、不安感に襲われるといった精神神経系の症状や、萎縮性膣炎による性器の乾燥感、かゆみなど泌尿生殖器系の症状も出てきます(表1)。
表1 主な更年期症状 | |
自律神経系の症状 | 突然のほてり感、異常な発汗、動悸、のぼせ |
泌尿・生殖器系の症状 | 外陰部のかゆみ、乾燥感、頻尿、排尿時の痛み |
精神面での訴え | 不眠、めまい、不安、ゆううつ |
更年期障害を惹き起こす原因は何でしょう?
閉経期に入ると、卵巣で作られているエストロゲン(卵胞ホルモン)という女性ホルモンの分泌が減ります。このエストロゲンが減少することでホルモンバランスが乱れ、更年期障害の原因となります。更年期障害を迎える年代は、子供の自立や親の介護など、人生において様々な問題と直面する時期でもあります。それらから来るストレスも一因となっている場合があります。
更年期障害の診断・検査は?
①更年期障害にかかる年齢であるかどうか②心身両面に見られる症状③診察や検査によってその他の病気が原因でないかの確認-など総合的な観点から診断が下されます。血液検査では血中エストロゲン値の減少、反対に脳下垂体からの卵胞刺激ホルモンが増加していないかどうかに注目します。また内診や細胞診により婦人科系の病気がないかを調べます。
その他どのような障害が起こりますか?
更年期以降の女性に「骨粗しょう症(Osteoprose)」と「高脂血症」が増えてきます。どちらも自覚症状などはありませんが、更に年齢を重ねると前者は骨折の原因に、後者は脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化性疾患の危険因子となります(表2)。閉経後の人生は30年近くあり、いかにこれらの「更年期障害」を予防するかが大切になってきます。
表2 更年期から起こる問題点 | ||
更年期障害 | 問題点 | 時期 |
更年期症状 (更年期不定愁訴) | 主に自律神経症状 | 閉経前後の数年間 |
泌尿生殖器の不快感 | 乾燥性膣炎など | 閉経から数年間 |
骨粗しょう症 | 晩年に骨折しやすくなる | 閉経から徐々に |
高脂血症 | 動脈硬化の原因となる | 閉経から徐々に |
なぜ骨粗しょう症になりやすくなるのですか?
女性ホルモンのエストロゲンは、骨の維持に重要な働きをしています。そのためエストロゲンの分泌が少なくなると、骨からカルシウムが溶け出して骨量・骨密度が減り、骨粗しょう症状になるのです。厚生省研究班の推計(1998年)によると、60代前半で4人に1人、70代では半数の女性に骨粗しょう症がみられます。
男性にも更年期障害があるって本当ですか?
男性も30歳前後より次第に男性ホルモンであるテストステ ロンの分泌が低下してきます。40代後半頃から勃起不全などの更年期症状が出てくることもありますが、ホルモン減少の程度が穏やかなため劇的な臨床症状としては出にくいのです。
更年期障害の治療法を教えてください
以前は精神的なものとして精神安定剤が多用されたり、加齢に伴う自然の道に逆らうのは良くないとして、病院での診察を好まない傾向もありました。しかし、最近では不足している女性ホルモンを補充するホルモン補充療法が行われ、症状緩和に進んで取り組もうという流れになってきています。ホルモン補充療法(Hormon Replacement Therapy、略してHRT)はドイツではHormonersatztherapie (略してHET)と呼ばれています。ハーブ療法、漢方療法、カウンセリングなども治療として用いられます(表3)。
表3 主な治療法 | |
・ホルモン補充療法 ・ハーブ療法 ・漢方 ・カウンセリング ・安定剤、睡眠剤は必要最小限に |
ホルモン補充療法は効果がありますか?
エストロゲン投与により、異常な発汗やのぼせなどの自律神経症状、性交痛などが減少します。骨粗しょう症に関しては、大腿骨骨折が約25%、椎間板骨折が50%減るとの報告があります。血中コレステロール値の減少や善玉コレステロール値(HDL)の増加がみられますが、脳卒中や心筋梗塞に罹る頻度が減るといった効果や因果関係については明らかになっていません。
ホルモン補充療法はどのように行われるのですか?
一般には卵巣から分泌されているエストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)の両者を組み合わせて服用します。更年期症状を緩和してくれるのはエストロゲンの作用によるものですが、子宮内膜がん発生予防の観点(後述)から両者を併用します。投与法は、月経の再現を希望するか、避けたいか、子宮摘出術の既往の有無などで違ってきます。補充ホルモン用のエストロゲンには貼り薬も開発されています。
ホルモン補充療法でガンになる心配は?
エストロゲンだけの単独療法を5年以上続けた場合には、子宮内膜がんの発生率が4倍も高くなります。プロゲステロンを併用することにより、子宮内膜がんの発生は抑えられます。乳がんの罹患に関してはホルモン補充療法により若干増えるという報告と、変わらないという報告の両方があります。
ホルモン補充療法の副作用は?
不正性器出血、乳房痛、頭痛、はきけ、動悸など、補充ホルモンの薬理作用に基づくものが主です。エストロゲンは肝臓で作られている血圧の維持に関係する物質を増やすため、血圧が上昇する場合があります。
ホルモン補充療法を行ってはいけない人はいますか?
子宮内膜がん、乳がんはエストロゲン依存性があるので、これらを患ったことのある方は原則的に対象外です。血栓症の既往や肝障害の強い場合も避けるべきです。子宮筋腫もエストロゲン依存性があるため注意が必要です。高血圧患者の場合も、その使用に対し細心の注意を払う必要があります。(表4)
表4 ホルモン補充療法を受けてはいけない人、受けない方がよい人 | |
受けてはいけない人 | 受けない方がよい人 |
・乳がんの既往がある ・子宮がんの既往がある ・血栓症の既往がある ・肝機能の障害がある |
・子宮筋腫がある ・子宮内膜症がある ・高血圧がある |
生活面で注意すべきことはありますか?
軽い運動や散歩による気分転換は効果的です。不眠時には焦らず、音楽を聴いたり本を読んでリラックスしましょう。更年期障害用の特別な食事はありませんが、豆腐や大豆製品には植物エストロゲンが含まれているので、積極的に食事メニューの中に取り入れると良いでしょう。一方、強い香辛料を含む食物はのぼせ感などの症状を助長するので避けましょう。骨粗しょう症と高脂血症の予防には、普段からカルシウムやビタミンDを多く含み、脂肪分の少ないものを摂るように心がけてみましょう。更年期に入る年齢は、精神的にも経済的にもストレスの多い時期です。治療においてはパートナーとのコミュニケーションが大切です。
何科を受診すればよいでしょうか?
気になることがあったら我慢しないで内科でも婦人科でも、まず診察を受けましょう。更年期障害と思って様子をみていたら別の病気が隠れていたということもあります。検査でどこにも異常が見つからず「気のせい」などとされたら、更年期症状である疑いが濃厚です。専門は婦人科です。ホルモン補充療法を希望される方は婦人科の先生に相談されると良いでしょう。