今年5月26日の欧州議会選挙では、ドイツで緑の党が前回の選挙に比べて得票率を約2倍に増やし、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぐ第2党となった。また今年6月に発表された公共放送局ARDの政党支持率調査では、緑の党がトップの座に立った。どちらもドイツの政治史上初めてのことである。
1日に行われたザクセン州とブランデンブルク州の議会選挙の結果を聞く、緑の党のハベック共同党首
緑の党政権入りの可能性強まる
それに対し、現在大連立政権を構成するCDU・CSUと社会民主党(SPD)の支持率は低下する一方だ。90年代末に有権者がコール首相の長期政権に不満を強めたように、人々は政治の刷新を望んでいる。このため今日の状況が続いた場合、2021年の連邦議会選挙では、緑の党が連立政権に参加する可能性が濃厚だ。連立のオプションは、緑の党とSPD、左翼党(リンケ)が組む緑・赤・赤政権、もしくはCDU・CSUと緑の党が連立する黒緑政権などが考えられる。
政党支持率調査(2019年6月6日発表)
また今年6月にエムニード社が発表した世論調査では、「もしも首相を直接選べるとしたら誰を選ぶか」という設問に対し、緑の党の共同党首の1人ロベルト・ハベック氏を選んだ回答者の比率が51%となり、保守陣営の首相候補と目されているCDUのアンネグレート・クランプ=カレンバウアー幹事長への支持率(24%)を大きく上回った。つまりこの国の歴史で初めて、緑の党から「エコロジー首相」が生まれる可能性すら浮上しているのだ。
緑の党は今や、2年後に政権入りすることを目標にした準備を着々と進めている。経済界、産業界の一部では「緑の党は環境保護に関する新しい法律を企業に押し付け、コストを増加させるので、国際競争力を弱める」という先入観が抱かれている。緑の党はこうした懸念を緩和するために、昨年「経済評議会」を設け、毎年3回緑の党の幹部、議員と大手企業の役員らが共同でワークショップを開催し、討論を行っている。また同党は社会保障や雇用問題についても同様の評議会を創設して、組合関係者らと協議を始めた。
ドイツ産業界も緑の党と意見交換
産業界も緑の党が上昇気流に乗っていることを敏感に察知し、緑の党のハベック共同党首ら幹部を招き、積極的に意見交換を行っている。たとえばドイツ産業連盟(BDI)は、今年6月4日の「産業の日」記念式典で、緑の党のアンナレーナ・べーアボック共同党首を締めくくりの講演者に選出。彼女は地球温暖化問題や環境保護だけではなく、国民と経済界にとって「欧州」としての結束を強めることの重要性を強調した。
べーアボック氏は、ドイツの雇用と繁栄を守るためには、欧州が結束して米国の金融資本主義、中国の国家資本主義に対抗する第三の道を目指すべきということ、経済のデジタル化や人工知能(AI)の開発においても、欧州の意見を強く反映させるべきと語り、会場の財界人から大きな拍手を受けていた。だが緑の党が今最も重視している温室効果ガス削減と、経済成長・雇用確保のバランスをどのように取るかについて、産業界は同党の一挙手一投足をじっと観察している。
環境保護と経済成長のバランス
例えば、緑の党は「メルケル政権は2038年までに褐炭・石炭火力発電所を廃止することを決めたが、緑の党が政権入りした場合、脱石炭を2030年に前倒しするのか?」、「緑の党は温室効果ガスの排出量削減のために、自動車や航空機の燃料、暖房用の灯油に二酸化炭素税を導入して、交通手段や建物に関するコストを引き上げるのか?」、「電気自動車の普及を加速するのか?」、「緑の党は公約通り、ロシアからの天然ガス・パイプライン『ノルドストリーム2』の建設計画を中止させるのか?」、「再生可能エネルギー比率の大幅な引き上げに必要な、高圧送電線の建設をどのように加速するのか?」といった問いへの回答を求められる。
ドイツは電力料金が欧州で最も高い国の1つだ。環境保護のための政策を急テンポで進めた場合、この国で事業を継続するためのコストが増大し、企業が工場などを国外へ移す可能性もある。産業の空洞化は、雇用が減ることを意味する。企業経営者だけではなく、市民も恐れている事態だ。緑の党は実効性のある地球温暖化対策を進める一方で、経済界が抱いているこうした疑問に、一つひとつ答えていかなければならない。
緑の党は2011年の福島原発事故直後、バーデン=ヴュルテンベルク州の州議会選挙で躍進し、初めて州首相を輩出。だがCDU・CSUなどすべての政党が脱原子力を目指したために独自色を失い、2013年の連邦議会選挙の得票率は8.4%に留まった。緑の党は当時の失敗を繰り返さないために、慎重に戦略を練りつつある。ハベック氏とべーアボック氏は、どちらも緑の党内では左派でなく、現実路線を重んじる政治家だ。彼らが環境保護と経済成長・雇用保護のバランスをどのように取ろうとするかが、大いに注目される。