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ロンドンのゲストハウス
Do. 05. Dez. 2019

テューリンゲン州議会選挙に見る東西ドイツの「心の分断」

10月27日に行われた旧東独・テューリンゲン州議会選挙では、予想通り伝統政党が得票率を減らし、右翼政党が大きく躍進した。連立政権の構成も困難を極めている。旧東ドイツの地方選挙の結果は、ベルリンの壁崩壊から30年経った今なお、東側と西側の市民の間で「心の壁」が残っていることを浮き彫りにした。

10月28日にベルリンで開かれた記者会見に出席した、AfDのヘッケ氏(右から2番目)10月28日にベルリンで開かれた記者会見に出席した、AfDのヘッケ氏(右から2番目)

AfDが得票率を倍増

キリスト教民主同盟(CDU)は、得票率を前回の33.5%から21.8%に減らして第3党に転落。得票率が11.7ポイントも減ったことになる。社会民主党(SPD)も得票率を12.4%から4.2ポイント減らした。わずか8.2%の得票率では、泡沫政党と言われてもおかしくない。これに対して右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、得票率を10.6%から2倍以上の23.4%に増やし、第2党の座に躍り出た。今回の選挙でAfDほど大きく票を伸ばした党はほかにない。

AfDは、イスラム教徒やトルコ人を露骨に差別する政党だ。筆頭候補は、テューリンゲン州支部長のビョルン・ヘッケ氏。彼はAfDの中で最も右派に属する政治家だ。同党の内部組織「フリューゲル」の指導者の1人だが、この組織は連邦憲法擁護庁から「人種差別的」として監視されている。ベルリンにはナチスが虐殺した約600万人のユダヤ人のための追悼モニュメントがあるが、ヘッケ氏はこの慰霊碑を「恥のモニュメント」と呼んで批判したことがある。そうした人物が要職にある党を、約26万人の有権者が選んだ。

連立政権樹立が困難に

AfDの躍進は、政権樹立を難航させている。テューリンゲン州議会では、前回(2014年)の選挙でリンケ(左翼党)、SPD、緑の党が連立政権をつくっており、リンケのボド・ラメロウ氏が首相を務めている。旧西独出身のラメロウ氏は社会保障政策を重視する、リンケでは穏健派の政治家だ。テューリンゲン州での人気は高い。実際、同州の今年9月の失業率は5.1%で、ノルトライン=ヴェストファーレン州(6.5%)よりも低かった。今回の選挙でリンケは、得票率を0.8ポイント増やして31%を確保し首位に立った。しかしSPDと緑の党が得票率を減らしたため、これまでどおりに赤・赤・緑連立政権を続けられなくなった。

ラメロウ氏は「有権者がわが党に政府を率いる権利を委託したのは、明らかだ」として首相を続投する方針を打ち出した。彼はAfDを除くすべての政党と連立の可能性を探ることにしている。だがCDU執行部は、リンケとの連立を禁止。リンケは社会主義時代の東ドイツの政権党「ドイツ社会主義統一党(SED)」の流れをくむ政党だからである。

またCDU執行部は、AfDとの連立も禁じている。こう考えると、どの党にとっても過半数の確保は難しい。現在最も可能性が高いのは、ラメロウ首相を首班とする「少数派政権」であるとみられている。

旧東独3州でAfDが地盤を拡大

さて今年秋に旧東独の3州で行われた州議会選挙では、いずれも伝統的政党が後退してAfDが躍進し、第2党になった。ザクセン州議会選挙では、AfDの得票率が前回の選挙での9.7%から約3倍に増えて27.5%に。CDUの得票率が7.3ポイント減って32.1%だったのとは対照的である。SPDの得票率は4.7ポイント減ってわずか7.7%に下落。また、ブランデンブルク州でもAfDは得票率を前回(12.2%)の約2倍に増やして、23.5%を記録した。

AfDの人気は、旧西独よりも旧東独で高い。2017年の連邦議会選挙で、AfDの旧西独での得票率は10.7%。これに対し同党は旧東独で約2倍の得票率(21.9%)を記録。2019年5月の欧州議会選挙でも、旧西独でのAfDの得票率は8.8%だったのに対し、旧東独では2倍を超える21.1%だった。社会の右傾化は、われわれ外国人にとって不気味な現象だ。

統一後の変化に対する失望感

この背景には、旧東独の一部の市民が「自分は東西統一で負け組になった」という怨念を抱いているという事実がある。

統一後、旧東独では多くの旧国営企業が閉鎖され、多くの市民が生まれて初めて失業を経験。年配の労働者は、定年を繰り上げて退職させられた。旧東独の失業率は2005年には18.7%という高い水準に達し、一時東側の失業率は西側よりも約10ポイントも高かった。そのため多くの旧東独人、特に高等教育を受けた優秀な若者たちが統一後、職を求めて旧西独に移住したのだ。連邦統計庁によると1990年の旧東独(東ベルリンを含む)の人口は1603万人だったが、2000年には1512万人に減った。

統一から30年経った今も、社会主義時代に生まれ育った旧東独人の中には「われわれは二級市民のように扱われている」、「社会主義時代に自分がやってきたことは、今日のドイツでは全く価値のない物と見なされており、人生を否定されたような気がする」という不満を持つ者が少なくない。こうした不満がAfDにとって追い風となっている。

AfDに対する支持率は、今後旧西独では下がるが、旧東独では地域政党として地盤を中期的に確保するとみられている。旧東独では、高速道路や鉄道、住宅は見事に整備された。しかし東西間の目に見えない壁は、ベルリンの壁崩壊という歴史の輝かしい1ページに暗い影を落としている。政府にとっても、この壁を崩すのは容易なことではない。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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