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Fr. 16. Apr. 2021

脱原子力決定から10年 日独の政策に大きな違い

メルケル政権が、日本の原子力災害を機にエネルギー政策を大転換して10年になる。ドイツ人たちは電力料金の上昇に頭を痛めながらもエネルギー転換を粛々と進め、来年末に最後の原発のスイッチを切る。

2011年3月26日にハンブルクの反原発デモの様子。事故直後、脱原発を求めるデモがドイツ各地で行われた2011年3月26日にハンブルクの反原発デモの様子。事故直後、脱原発を求めるデモがドイツ各地で行われた

メルケル首相が原子力批判派に「転向」

メルケル首相はもともと原子力推進派で、2010年10月には、電力業界や産業界の意向を受け入れて、原子炉の稼働年数を延長していた。だが翌年3月11日に東日本大震災が発生し、想定を上回る高さの津波が東京電力福島第一原発を襲った。炉心溶融、建屋の水素爆発によって放射性物質が外部に放出されるという、最悪レベルの原子炉事故となった。

メルケル首相は強い衝撃を受け、態度を180度変えて原子力批判派に転向した。首相は31年以上運転されていた7基の原子炉を直ちに停止させ、原子炉安全委員会に対し、国内の原子炉の緊急検査を命じた。同時に社会学者や哲学者から成る倫理委員会に対し、将来のエネルギー政策に関する提言を作成させた。

原子力発電の専門家たちは、「国内の発電所には十分な安全措置が講じられており、廃止の必要はない」と首相に報告した。これに対し倫理委員会は、「ドイツで万一原子炉の事故が起きた時の人的・物的損害は計り知れないので、原発を廃止して、再生可能エネルギーによって代替するべきだ」と提言した。

メルケル首相は原子力の専門家の意見ではなく倫理委員会の提言を尊重し、連邦議会に「2022年末までに原子力発電所を廃止する」という内容の法案を提出。連邦議会は2011年6月30日に、連邦参議院も7月8日に法案を可決した。つまりドイツ人たちは、福島の事故から4カ月足らずでエネルギー政策を転換し、原子力時代に終止符を打つことを決めたのだ。

「日本も原子炉事故を防げなかった」

メルケル首相は、2011年6月9日の演説で、原子力に対する自分の考え方は楽観的過ぎたと告白した。
「福島の事故は、全世界にとって強烈な一撃でした。この事故は私個人にとっても、強い衝撃を与えました。大災害に襲われた福島第一原発で、人々は事態がさらに悪化するのを防ぐために、海水を注入して原子炉を冷却しようとしていると聞いて、私は『日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない』ということを理解しました」
「日本で起きたような大地震や巨大津波は、ドイツでは起こらないでしょう。しかしそのことは、問題の核心ではありません。福島の事故がわれわれに突きつけている最も重要な問題は、リスクの想定と、事故の確率分析をどの程度信頼できるのかという点です。なぜならば、これらの分析は、われわれ政治家がドイツにとってどのエネルギー源が安全で、価格が高すぎず、環境に対する悪影響が少ないかを判断するための基礎となるからです。私があえて強調したいことがあります。私は昨年(2010年)秋に発表した長期エネルギー戦略のなかで、原子炉の稼動年数を延長させました。しかし私は今日はっきりと申し上げます。福島の事故は原子力についての私の態度を変えたのです」

2022年末に原発全廃へ

ドイツはエネルギー転換を着実に進めている。この国では、福島の事故が起きる直前に17基の原子炉が使われていた。このうち11基がすでに廃止されており、残りの6基も来年末までに廃止される。メルケル政権は福島原発事故以降、再生可能エネルギーを振興する政策を加速した。2010年には同国の発電量に原子力が占める比率は22.4%、再生可能エネルギーは16.8%だったが、2020年には原子力の比率が11.3%とほぼ半減し、逆に再生可能エネルギーの比率が44.9%と大幅に増えた。

メルケル政権は、「2030年までにドイツで消費される電力の65%を再生可能エネルギーでカバーする」という目標を打ち出している。ドイツはエネルギーの非炭素化政策も並行して進めており、2038年までに褐炭・火力発電所も全廃する方針だ。

われわれ消費者は、毎年多額の再生可能エネルギー賦課金を払う。ドイツの電力料金は、欧州で最も高い部類に属する。だが脱原子力政策は、国民に強く支持されている。一昨年9月の世論調査によると、回答者の60%が「原子力発電所を予定通り2022年末までに全廃するべきだ」と答えた。「原子力の使用を続けるべきだ」と答えた人の比率(17%)を大幅に上回る。

日本政府は原子力を不可欠と判断

もちろん2023年1月1日以降、ドイツで使われる電力から、原発による電力が一掃されるわけではない。フランスでは電力の約70%を原発で作っているが、ドイツはフランスから電力を輸入しているからだ。欧州では毎日電力の輸出入が行われており、原発由来の電力を国境でストップさせることは不可能である。しかしフランス政府も、徐々に原発依存度を減らす方針だ。

日本政府は中長期的に、再生可能エネルギーだけではなく、原子力と高効率の石炭を使用する方針を変えていない。他国と陸続きのドイツとは異なり、日本は外国から電力を輸入することが難しいからだ。菅政権は、「原子力は温室効果ガス削減にも貢献する」と主張している。国民の健康と安全を重視して脱原子力に踏み切ったドイツ。エネルギー自給と経済性を重視する日本。大きく異なる日独のエネルギー政策は、今後両国にどのような未来をもたらすのだろうか。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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