ジャパンダイジェスト

国連気候保護会議 COP27に失望の声

エジプトのシャルム・エル・シェイクで11月6日から約2週間にわたり、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開かれた。参加国は地球温暖化の被害を受けている国々への援助について初めて合意したが、肝心の温室効果ガス(GHG)削減のための措置については前進できなかった。

11月17日、COP27で発言するベアボック外相11月17日、COP27で発言するベアボック外相

被害国向けの補償基金で初合意

COP27での唯一の前進は、気候変動による洪水や干ばつで苦しむ発展途上国などのために、補償基金を創設することで加盟国が初の合意にこぎ着けた点だ。発展途上国からは、「産業革命以来、主に先進国が排出してきたGHGのために地球温暖化が起き、われわれが最も被害を受けている。しかもわれわれは、先進国ほど大量のGHGを排出していない。したがって、豊かな国々はわれわれが受けている被害について、支援金を払う義務がある」という声が高まっていた。

これまで先進国は気候変動による被害の補償金について、COPで交渉することに消極的だった。この点が最終合意文書に明記されたことは、画期的だ。

しかし、予算規模や誰が金を払い込むのかなどは決まっておらず、来年11月にドバイで開かれるCOP28で協議される。米国や欧州連合(EU)加盟国、日本などが将来多額の資金の払い込みを求められることは必至だ。EUは、現在GHGの排出量が世界で最も多い中国や、国民1人当たりのGHG排出量が多い中東の産油国に対しても、資金拠出を求めている。しかし、これらの国々は今のところ支払いを拒否している。

GHG削減では前進なし

ただしこの基金は、気候変動による経済的損害の緩和には役立つが、地球温暖化に歯止めをかけるという、最も重要な目的には貢献しない。COP27の最終合意文書は、この点について全く前進できなかった。

例えば前回のCOP26で、参加国は初めて最終合意文書の中に「GHG削減措置を施していない石炭火力発電所を減らし、非効率な化石燃料に対する補助金を段階的に停止する」という一文を盛り込んだ。今回のCOP27で、EUとドイツ代表団は米国、インドと共に「天然ガスと石油の使用の段階的な削減」という一文を盛り込もうとした。しかし中国と中東の産油国が頑強に抵抗したため、最終合意文書は、脱ガス・石油という方向性に言及しなかった。

COP27の参加国は、「産業革命前の時代に比べて、地球の平均気温の上昇幅を1.5度以下に抑えるために、2030年までにGHG排出量を2019年比で43%減らす必要がある」という点では合意した。しかし最終合意文書は、どのようにしてGHG削減を実現するかについて、具体的な内容を欠いている。世界には、さらなる経済成長のために、今後も大量の化石燃料を使うことを計画している国々、さらに大量の化石燃料を売ろうとしている国々がある。彼らは国益を優先させて、COP26よりも踏み込んだ脱炭素措置が最終合意文書に盛り込まれることを阻止した。

ドイツ政府が不満を表明

このためドイツでは、COP27の結果について不満の声が圧倒的に強い。ドイツ政府の代表団を率いたアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「今回の会議の結果は、将来への希望だけではなく不満を抱かせるものだ。交渉は極めて難航した」と語った。

ロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣は、「EUとドイツの代表団の努力によって、最終合意文書が2015年のパリ合意や2021年のグラスゴーでのCOP26の内容よりも後退することは防げた。さらに、気候変動の脅威にさらされている国への資金援助が会議の中心の一つになったことも評価するべきだ」と述べる一方で、「われわれは今回の結果に、本当に満足することはできない」と批判した。大臣は、「各国はこれまでに約束した具体的な対策を一つひとつ地道に実行するしかない。世界全体がエネルギー転換と産業界の非炭素化によって、石炭、石油、ガスから脱却しなければ、1.5度目標を達成できない」と指摘した。

環境保護団体フライデーズ・フォー・フューチャーのドイツ支部長のルイーザ・ノイバウアー氏は、「COP27の参加国は、化石燃料が引き起こしている損害について協議する一方で、化石燃料の使用停止を決めなかった。これは大きな矛盾だ。参加国は、発展途上国に気候変動の被害緩和のための救援措置を決める一方で、将来気候変動によりさらに大きな被害が起きることを傍観している」と厳しい言葉で批判した。

ブレーメンのアルフレート・ヴェーゲナー極地海洋研究所で、気候変動が海の生物などに及ぼす影響を研究するペルトナー教授は、気候変動に関する政府間パネルの第2作業部会の共同座長の1人。同氏はCOP27での合意内容について、「科学者の一人として失望した。政治家たちは、科学者の提言をきちんと実行していない。合意文書の内容には、曖昧な点が多い。脱石炭だけでは不十分であり、石油と天然ガスも含めたあらゆる化石燃料からの脱却が必要なのに、参加国は具体的な措置を明記しなかった」と述べている。

国連政府間パネルは昨年発表した報告書で、「2011~2020年の平均気温は、1850~1900年に比べて1.1度高くなっている。今後30年間に二酸化炭素(CO2)排出量を現在に比べて少なくとも半分に減らさない限り、2040年以降、上昇幅が2度を超えることは避けられない」と述べている。われわれは将来の世代に、住みやすい地球を引き継げるのだろうか?

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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