ジャパンダイジェスト

G7が広島サミットでウクライナ支援強化を確認

日独米などG7(主要7カ国)首脳は、5月19日から21日まで広島で開催したサミットで、ウクライナ支援を「必要な限り継続する」という姿勢を打ち出した。

5月19日、G7首脳がそろって原爆死没者慰霊碑に献花した5月19日、G7首脳がそろって原爆死没者慰霊碑に献花した

対ロシア制裁措置を強化

今回のサミットの中心は、ウクライナ危機だった。G7諸国は共同声明の中で、「ロシアのウクライナ侵攻は国際社会のルールや規範を破るものであり、世界全体への脅威だ」とロシアのプーチン政権を非難。その上で、「ウクライナへの外交、財政、人道、軍事面での支援を今後さらに強化する」と強調した。

G7諸国は、ロシアに対するテクノロジーや機械輸出に関する経済制裁措置をさらに強化する。ウクライナの復興も重要な課題だ。欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)をはじめとして、世界各国は戦争でインフラが破壊されつつあるウクライナに対して、総額1150億ドル(16兆1000億円・1ドル=140円換算)の復興支援を行う。日本政府は法律により、ウクライナに兵器を送ることを禁止されているので、復興支援で大きな役割を演じることが期待されている。

今回のサミットで注目されたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が協議に参加するために初めて日本を訪れたことだ。彼は中東での会議後、フランス政府の飛行機で広島に到着した。同氏は、世界で最も暗殺の危険が高い人物であるため、米軍の空中警戒機などが常時監視し、彼の乗った飛行機の安全を確保した。

米国がウクライナへの戦闘機供与に青信号

ウクライナの大統領があえて日本に来たのは、西側の戦闘機供与の重要性を訴えるためだった。ロシアのウクライナ侵攻開始から1年以上たったが、戦争終結の見通しは立っていない。ゼレンスキー政権は、ロシア軍が領土から完全に撤退するまで、和平交渉に応じない。ウクライナ軍は春から夏に反転攻勢を実施するとみられているが、ゼレンスキー政権はウクライナに展開するロシア軍を攻撃するために、米国のF16戦闘機などの供与を要求してきた。

ゼレンスキー大統領の訴えは実を結び、米国政府は5月22日、同盟国がウクライナにF16などの戦闘機を供与することを承認すると発表した。米軍は今後ウクライナのパイロットがF16の操縦に習熟できるように、訓練を実施する。バイデン政権は今年2月の時点では、同盟国がウクライナに米国製の戦闘機を供与することに反対していた。しかしバイデン大統領は、ウクライナが「ロシア国内の目標を攻撃しない」という条件で、戦闘機の供与にゴーサインを出した。

ロシア政府は「F16などの供与により、欧米諸国は事態をエスカレートさせる。われわれは対抗措置を取るだろう」と警告している。

ゼレンスキー大統領は5月14日に初めてドイツを訪問したが、ショルツ政権はウクライナへの軍事支援額をこれまでの2倍に増やすと発表した。同国はレオパルド1型戦車30両、マルダー装甲歩兵戦闘車20両、IRIS-T対空ミサイル4基など総額27億ユーロ(3780億円・1ユーロ=140円換算)相当の兵器をウクライナに供与する。ドイツは米国に次いで、ウクライナに対する軍事支援額が世界で2番目に多い国になった。欧米諸国が「最後のタブーの一つ」と見られていた西側戦闘機まで供与するのは、ウクライナ戦争の長期化の危険が高まっていることを示している。

G7首脳が原爆資料館を訪問

日本は世界で唯一、核兵器による攻撃を受けた国だ。ロシアがウクライナ戦争で核兵器使用の可能性をちらつかせるなか、1945年に原爆で廃墟と化した広島にG7諸国が集ったことには、大きな意義がある。5月19日に、G7首脳は広島の平和記念資料館を訪問した。ここには犠牲者が着ていた服や原爆の熱線で溶けたガラス瓶、真っ赤に焼けただれた被害者の背中の写真などが展示されている。ショルツ首相は記帳の際に、「この場所は、想像を絶する苦しみを思い起こさせる。私たちは今日ここでパートナーたちと共に、この上なく強い決意で平和と自由を守っていくとの約束を新たにする。核戦争は決して再び繰り返されてはならない」と書いた。首脳たちは、これらの展示物を見て、核兵器の恐ろしさを肌身に感じたかもしれない。

実際サミットの共同声明には、「核兵器のない世界を作るために努力する」という一文が盛り込まれた。だがこれとは別のG7サミット外相声明には、核兵器を「戦争や脅迫を防ぐための抑止手段」として保有を容認する文章が含まれている。この一文によって、G7は「わが国の核兵器は抑止力だ」と正当化できる。「核兵器のない世界」に矛盾する、一種の抜け穴だ。

ロシア、中国、北朝鮮が核兵器を自主的に放棄することはない。したがって、米英仏も核兵器を放棄することはあり得ない。このようにして、核兵器をめぐる議論は平行線をたどる。「核兵器のない世界」は崇高だが、残念ながら実現が極めて困難な努力目標だ。

今回ウクライナ問題が重視されるあまり、地球温暖化対策では大きな進展がなかった。対中戦略についても、前進はなかった。共同声明は、「世界のいかなる地域でも、領土を武力によって変更してはならない」と述べるにとどめた。中国の封じ込めを目指す米国と、中国との経済関係を重視する日独仏の意図が対立したために、G7は強硬なメッセージの発信を避けた。宮島の美しい風景を背に、結束を強調する首脳たちのにこやかな表情も、国際政治・経済の上に垂れ込める暗雲を完全に覆い隠すことはできなかった。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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