出版社: 日経BP社
ISBN:978-4822248901
福島第1原発の炉心溶融事故が発生してから、まもなく1年が経ちます。今年春には、定期点検などのために日本の54基の原発すべてがストップする予定 ですが、我が国では長期的なエネルギー政策がまだ確定されていません。
物理学者でもあるメルケル首相は、福島事故が起きるまでは原発擁護派でした。メルケル氏は2010年の秋に、大手電力会社と産業界の意向を尊重して、2002年にシュレーダー政権が施行した「脱原子力法」を見直し、原子炉の稼動年数を平均12年延長しています。
そのメルケル氏が、なぜ2011年3 月11日以降は原発擁護派の立場を捨て、批判派に「転向」したのでしょうか。また、なぜドイツ人は日本から1万キロも離れた所に住んでいるのに、福島の映像を見て強い不安感を抱き、放射線測定器やヨード錠を買ったのでしょう。ドイツにお住まいの皆さんの中には、福島事故後のドイツ社会の反応にショックを受けた人も多いと思います。
ドイツに21年間住んでいるジャーナリストで、本紙に「独断時評」を連載している熊谷 徹さんが、これらのテーマについて本を書きました。「メルケルはなぜ“転向”したのか・ドイツ原子力四〇年戦争の真実」という本です。熊谷さんの12作目の著書となるこの本は、福島事故が浮き彫りにした日本とドイツの間のリスク意識の違いや、反原発運動の歴史、ドイツ人の悲観主義と批判精神、そして米英人から「ジャーマン・アングスト」と呼ばれる、ドイツ人独特の「不安」についても焦点を当てています。熊谷さんの21年間にわたる定点観測から生まれたドイツ観もあちこちにちりばめられているので、一種の日独文化比較論として読むこともできます。