ビジネス関係者から、一般来場者まで
今注目すべき
ドイツのメッセ
ドイツは言わずと知れた見本市大国。世界中の人々とさまざまな製品が集まり、古くから商談に利用されてきた見本市は、現代ドイツにおいてもビジネスには欠かせない重要な場だ。今回はその背景や理由を紐解くとともに、近年、特に日本企業からも注目されている見本市を中心にピックアップした。さらにビジネス関係者には見本市への参加を成功させるヒントを、一般来場者にはプライベートでも楽しめる見本市をご紹介。ビジネスチャンスをつかみに、そして自分の世界を広げに、見本市へ足を運んでみよう。 (Text:編集部、参考:ジェトロ「ドイツ展示会動向調査報告書2019年3月」)
メッセの歴史と現在 - 始まりはなんと850年前!
歴史上最も古いメッセ(見本市)とされるのが、ライプツィヒの見本市だ。1165年にマイセン辺境伯オットーがライプツィヒに都市権と市場権を与えたことが始まりで、当時は各地を旅する商人たちが物と情報を交換する場だったという。さらに、神聖ローマ皇帝のマクシミリアン1世が1497年と1507年にライプツィヒの市場に特権を与えたことで、国際見本市へと発展していった。
見本市が現代のように屋内会場で開催される形式になったのは、産業革命後の19世紀半ば以降のこと。鉄道が発達したことで、見本となる商品を持ってライプツィヒにやってくる出展者が徐々に増え、露店での開催が限界に達した。そして、1893年にライプツィヒは大きな展示ホールの建設を開始し、1901年に世界初の見本市会場が完成。現代見本市の基礎をつくったライプツィヒのアイデアは他都市にも波及し、その後ロンドンやフランクフルトでも同様の展示ホールが建設された。今日においても、ライプツィヒ・メッセはドイツの重要なメッセ会場の1つとなっている。
ドイツ見本市産業連盟(AUMA)によると、世界最大の見本市会場の8つのうち4つがドイツにあり、主要な国際見本市の3分の2がドイツで開催される。ちなみに、世界一の総面積を誇るのはハノーファー国際見本市会場(Hannover Messegelände)だ。2014〜2017年の直接的な経済支出の平均は年間約145億ユーロで、さらに全体的な経済効果も合わせると280億ユーロ、23万1000名分の雇用を生んでいるという。
また、ドイツで行われる国際見本市と全国見本市を合わせると、毎年出展者数は約18万社・団体、来場者数は1000万人で、国際見本市の約60%の出展者、約30%の来場者が海外から参加している。国別では1位が中国、それ以降はイタリア、フランス、オランダとドイツの隣国が続く。アジアからの来場者が増加傾向にある一方で、来場者数の約8割弱は欧州域内から参加するため、欧州への企業進出や事業拡大を図る上でドイツの見本市は重要な役割を担っていると言える。
参考:Leipziger Messe「Geschichte als Antrieb: 850 Jahre Leipziger Messen」、citytourist「Leipzig: Messestadt von Anfang an」
ドイツの10大見本市会場
❶ Deutsche Messe
ドイチェメッセ・ハノーファー
展示総面積世界第1位 46万3165平米
❷ Messe Frankfurt
メッセ・フランクフルト
展示総面積世界第3位 36万6637平米
❸ Koelnmesse
ケルン・メッセ
展示総面積世界第7位 28万4000平米
❹ Messe Düsseldorf
メッセ・デュッセルドルフ
展示総面積世界第9位 24万8580平米
❺ Messe München International
メッセ・ミュンヘン
展示総面積世界第15位 20万平米
❻ Messe Berlin
メッセ・ベルリン
18万平米
❼ NürnbergMesse
ニュルンベルク・メッセ
18万平米
❽ Messe Stuttgart
メッセ・シュトゥットガルト
12万平米
❾ Leipziger Messe
ライプツィヒ・メッセ
11万1900平米
❿ Messe Hamburg
メッセ・ハンブルク
9万7000平米
ビジネスチャンスがたくさん!
ドイツの見本市への参加を、
より充実させるには?
国際的にも重要視されているドイツの見本市には、多くのビジネスチャンスが転がっている。しかし、出展者や来場者が見本市への参加にメリットを感じられるには、ちょっとした秘訣があるよう。ここでは、日系企業の海外進出を支援するジェトロ(日本貿易振興機構)・デュッセルドルフ事務所の木場さんに教わった、ドイツの見本市の特徴やトレンドに加え、見本市への参加をより一層充実させるためのヒントを紹介する。
ドイツの見本市は「商談の場」
日本で見本市というと「ショー」のイメージが大きく、国内の既存のお客さんを相手にしていることがほとんどです。それに対して、ドイツの見本市は基本的に「商談の場」。1年分の商売をここで決める、という場なのです。たしかにドイツ国内からの出展者がメインですが、欧州最大や世界最大とうたわれる見本市がいくつもあり、外国からの出展者が多いことも特徴です。日本からドイツの見本市に参加すると、ドイツだけではなく、アジアやアフリカなど全く異なる地域のお客さんと出会うことも少なくありません。その一方で、会場内にドイツ語の表記しかなかったりするなど、完全に国際化できていない見本市もあります。
独企業も感じる見本市のメリット
ドイツの見本市に参加することのメリットは、なんと言っても、その場で商談ができること。というのも、ドイツの企業には、とりあえず話だけ聞いてみようという考え方がなく、メリットが感じられたり、人脈を通じてという場合でない限り、なかなか会ってくれません。そのため、日本企業にとってドイツで営業するというのは本当に難しいことなのです。しかし見本市は、誰でもブースを訪れることができる、というのが前提になっているので、基本的には話を聞いてくれます。そういった意味で、いろいろな企業の方と話ができることは見本市の大きなメリットではないでしょうか。
ちなみにこういったメリットは、多くのドイツ企業も実感しているようです。2019年1月にドイツ見本市産業連盟(AUMA)が発表したところによると、見本市参加のメリットについて、99%の企業が「担当者との直接的なコンタクトが取れること」と回答。さらに、82%の企業が「デジタルなコミュニケーションと比較し、見本市を活用することで自社製品をより信頼できる形で紹介できる」と答えています。
見本市でもスタートアップが熱い!
最近の見本市のトレンドで言うと、スタートアップゾーンを設けることが増えてきています。昨今、国や各連邦州レベルでも優秀なスタートアップの輩出のため、出展を支援するという動きも目立ってきました。見本市に出展すると、規模にもよるのですが、約100万円単位でお金がかかるんですね。しかし、スタートアップゾーンは出展料がかなり抑えられている上、ブースにパソコンとポスターさえ持っていけば、すぐに展示ができたり、プレゼンテーションの機会が与えられることもあります。ただし、スタートアップゾーンが入り口から遠い場所や会場の端っこに割り当てられているため、人の流れが少ないというケースも。ですので、見本市によってスタートアップゾーンの盛り上がり方には大きく差があるようです。
業界ごとのトレンドを知りたいという場合は、その年の見本市のテーマをウェブサイトなどで確認してみるといいでしょう。さらに会場にはそのテーマで特集されたゾーンがあるため、そういった場所でキーワードになっている言葉がその年のトレンドとも言えます。たとえば「省エネ」であれば、省エネにまつわる技術が特集されているといった具合です。また、ほとんどの見本市でツアーが組まれていて、無料で参加することができます。ツアーはドイツ語や英語ですが、注目すべきパビリオンを効率よくまわってくれるので、手っ取り早く業界のトレンドを知ることができますよ。
基本こそ大切!
見本市出展を成功させるヒント
1最低でも3回は出展しよう
1回目は赤字となるケースが多く、効果を実感できないことがほとんどです。しかし、1回目でどういったお客さんが来てどんな製品が注目されるのかが分かるので、回数を重ねていくことで、次はここをアピールしてみようなど出展者側のブラッシュアップが図れます。さらに連続出展すると、ブースを確保しやすくなるというメリットも。ですから、最低でも3回は出展することをおすすめしています。
2事前準備に力を入れて成果をあげよう
大きな見本市には数百という企業が出展するため、単にブースを構えるだけでは期待するような成果は得られません。そこで大事になってくるのが、どれだけ事前に準備したかということ。特に中小企業の場合は人手が足りないこともあると思うのですが、少なくとも英語、できればドイツ語で資料を作ったり、当日に英語で製品説明ができる人を手配するなど、できる限りの準備を心掛けましょう。
3積極的に声をかけてチャンスをつかもう
特に日本の方の場合、異業種のブースは自社の製品とは関係ないと考え、話しかけるのを躊躇する傾向にあります。でも、出展者側は基本的にいろいろな人が話を聞きに来るというスタンスでいるので、ブースで待つだけでなく、むしろ積極的に訪ねて会話してみてください。一通り概要を説明されて終わってしまうこともありますが、そこにチャンスが転がっていることも十分に考えられます。
一般的なメッセ出展スケジュール
日程 | すること |
---|---|
9~12カ月前 | 見本市選定と出展・スペース申し込み |
6~9カ月前 | スペース確定 |
6~12カ月前 | スペース確定後すぐ、ホテルの予約 出展商品、輸送会社、装飾・施工会社決定 |
主催者指定の期日まで | 出展・スペース料の支払い |
スペース確定~1カ月半前 | 広報内容の確定と制作(招待状、会社概要や製品紹介 パンフレットなど)、輸送会社への搬入 |
2、3日前~前日 | 会場への貨物搬入、出展者会場入り |
2日前~前日 | 出品物の設置・装飾 |
終了前日~終了日 | 出品物の処分(売却/日本への返送/寄贈/廃棄) 貨物の搬出 |
帰国直後~1カ月 | 商談した企業のフォロー |
ビジネス関係者向け
日本企業も注目のメッセはこれ!
特に日本企業が力を入れている見本市を中心に、それぞれの業界のトレンドも交えながら、引き続きジェトロの木場さんに教えていただいた。※チケットは業界関係者しか入手できない場合もあるため、各ウェブサイトで詳細をご確認ください。
日本の医療技術が生きる
MEDICA / COMPAMED メディカ / コンパメッド
次回会期:2019年11月18日(月) ~ 21日(木)
会場:メッセ・デュッセルドルフ
来場者数:12万116人 出展社数:5286社 ※2018年実績
MEDICA:medica.messe-dus.co.jp
COMPAMED:compamed.messe-dus.co.jp
1969年にスタートした毎年11月に開かれる医療技術の見本市。完成品を展示するメディカと、医療機器を製造する材料や技術を紹介するコンパメッドの2つを同時開催。欧州最大規模であるため、医療系市場参入において、新規顧客の獲得や関係構築のための重要なプラットフォームになっている。
日本企業も注目!
日本とドイツは世界で最も少子高齢化が進んでおり、状況が似ているという背景からも、日本の最先端の技術は関心を集めています。特にコンパメッドでは、極細の注射針の製造など微細加工技術を得意とする地方の中小企業が多く出展しており、日本の技術がより生きると言えるでしょう。(木場さん)
日本から酒蔵が大規模出展
ProWein プロヴァイン
次回会期:2020年3月15日(日) ~17日(火)
会場:メッセ・デュッセルドルフ
来場者数:6万1500人 出展社数:6900社 ※2019年実績
prowein.messe-dus.co.jp
プロヴァインは、毎年3月に開催されるワインを中心としたアルコール飲料の見本市。世界各国のワインが集まり、試飲スペースが充実している。またドイツ見本市業者は近年経済成長の著しいアジア圏の開拓に力を入れており、同メッセはシンガポールや上海でも開催されている。
日本企業も注目!
昨年より日本酒造組合中央会がジャパン・パビリオンを出しているのですが、今年は日本から36社の酒蔵が出展しました。近年は日本食ブームも相まって、日本酒の人気が高まっており、ブースは大盛況。まだまだ市場が限られていますが、今後が楽しみです。(木場さん)
2年に1度の食メッセ
Anuga アヌーガ
食品業界最大規模の見本市
次回会期:2019年10月5日 (土)~ 9日(水)
会場:ケルン・メッセ
来場者数:16万5008人 出展社数:7405社 ※2017年実績
www.anuga.de
隔年で開催する食品業界最大規模の見本市で、100カ国以上からの出展、190カ国から来場がある。ジャパン・パビリオンでは約60社が出展し、特に日本産農水産物および食品の販路拡大を支援。日EU経済連合協定(EPA)の発効により、ほとんどの品目で関税が撤廃されたため、今後輸出が伸びることが期待される。
生活を彩るアイテムが大集合
Ambiente アンビエンテ
インテリアの総合見本市
次回会期:2020年2月7日(金)~ 11日(火)
会場:メッセ・フランクフルト
来場者数:13万6081人 出展社数:4460社 ※2019年実績
https://ambiente.messefrankfurt.com
毎年開催されるインテリアの総合見本市。国外からの出展・来場が多く、今年は92カ国が参加。3つのジャンルに分かれ、Diningではキッチンウェア、Livingでは家具や装飾品、Givingでは贈り物をテーマに展示。最近では環境に優しい製品をリストアップしたガイドを制作し、「エシカルスタイル」がトレンドの1つに。
世界一のオーガニック見本市
BIOFACH ビオファ
世界有数のビオ(オーガニック)食品の見本市
次回会期:2020年2月12日(水)~ 15日(土)
会場:エキシビションセンター・ニュルンベルク
来場者数:5万1488人 出展社数:2982社 ※2019年実績
www.biofach.de
1990年から毎年開催される世界有数のビオ(オーガニック)食品の見本市。2019年のジャパン・パビリオンでは、日本から14社・団体が出展。「日本の発酵と職人技術」をコンセプトに味噌、たまり醤油などの発酵食品を中心とするビオ製品をアピールした。和食ブームがある一方で、市場参入が難しい分野の1つでも。
最先端のロボット技術が見られる
Automatica オートマティカ
世界有数のビオ(オーガニック)食品の見本市
次回会期:2020年6月16日(火) ~ 19日(金)
会場:メッセ・ミュンヘン
来場者数:4万6000人 出展社数:890社 ※2018年実績
https://automatica-munich.com
2004年から隔年で開催されるオートメーションとロボット業界の見本市。ドイツ政府が提唱する、製造業の自動化を目指す計画「インダストリー4.0」を見据え、デジタル化、ロボット、人工知能(AI)がこの見本市の大きな柱に。メッセ・ミュンヘン日本代表部の報告によると、2018年には30社以上の日本企業が出展した。
一般来場者向け
世界が広がるおもしろメッセ5選
見本市は基本的にビジネス関係者のために開催されるものだが、一般開放日を設けている見本市も少なくない。最後に、子どもから大人まで楽しめる5つの見本市をご紹介。まずは気になった見本市へ出かけてみよう!
メッセに馬場?まるでふれあい動物園
Grüne Woche 国際グリーンウィーク
次回会期:2020年1月17日(金)~26日(日)
会場:メッセ・ベルリン
www.gruenewoche.de
ベルリンの黄金の20年代と称された、1926年に始まった食品、農業、園芸のための国際見本市で10日間かけて開催される。世界中の国々やドイツの連邦州が各ブースで特産品の紹介や販売をするほか、ビオ製品のブースや大きな庭園が設置される展示場も。なかでも目を引くのは、馬や牛をはじめとした動物のパビリオン。屋内に作られた馬場でショーが行われたり、実際に動物たちと触れ合うことができ、親子連れの姿も多い。
新作ゲームのためならドイツ人も並ぶ!
Gamescom ゲームズコム
次回会期:2019年8月20日(火)~24日(土)
会場:ケルン・メッセ
www.gamescom.de
ゲーム機からスマートフォンまで、さまざまな種類のゲームが紹介される見本市。2018年で10回目を迎え、オンラインゲームやバーチャルリアリティー(VR)、e スポーツなどが近年のトレンドになっている。新作ゲームには列ができ、コスプレ姿の来場者も見られ、毎年会場は大盛況。イベントやブースの最新情報がゲットできるアプリも配信しているので、出かける前にダウンロードしよう。
世界中から本の虫たちが集う
Frankfurter Buchmesse フランクフルト・ブックフェア
次回会期:2019年10月16日(水)~20日(日)
会場:メッセ・フランクフルト
www.buchmesse.de
毎年開催される世界最大級の書籍およびデジタルコンテンツの見本市。小説や児童書、アートブック、専門書まであらゆる分野を取扱っており、世界中から出版業界者や読書家が集まる。また新人作家の発掘の場でも。マンガやアニメ専門の展示場もあり、多くのコスプレイヤーが来場。グルメギャラリーも人気で、料理や旅行と関連付けたコンテンツの展示やクッキングショーなどが催される。
ボートにも乗れるド迫力の見本市
Boot Düsseldorf ボート・デュッセルドルフ
次回会期:2020年1月18日( 土)~26日(日)
会場:メッセ・デュッセルドルフ
www.boot.de
毎年開催される世界最大のボートショー。小型から大型のボートやヨットおよそ1500台が9ホールにわたって並んだ風景は圧巻で、実際に船に乗り込むこともできる。近年マリンスポーツの人気がさらに高まっており、今年は25万人の来場者を記録した。サーフィン用のプールが設置されたホールでサーファーのパフォーマンスが行われ、90メートルのコースではパドリングなどが体験できる。
外まで続く展示会場には本物の電車
InnoTrans イノトランス
次回会期:2020年9月26日(土)~27日(日)※一般開放日
会場:メッセ・ベルリン
www.innotrans.de
1996年からベルリンで隔年で開かれる公共交通機関・鉄道技術の見本市。基本的にはビジネス関係者が来場するメッセだが、週末の2日間は鉄道のエリアが一般開放される。本物の電車が屋外の会場にもダイナミックに展示され、実際に車両の中にも入れるなど、鉄道マニアや乗り物好きの子どもたちには夢のようなイベントとなっている。一日券は3ユーロで、子どもは無料で入場可能。