ジャパンダイジェスト

U12 EURO-JAPAN代表 世界大会への挑戦 欧州に暮らす
日本の子どもたちに
サッカーで夢を与えたい

ドイツや欧州各地に、日系のサッカースクールがあることはご存知だろうか。教室の人気は年々高まり、多くの日本の子どもたちが欧州の地でサッカーをしている。この秋、欧州各都市から選ばれた子どもたちがU12のインターナショナルカップに出場する、という大きな挑戦に立ち向かった。この欧州における日本サッカー界の新たな動きについて、本プロジェクトを率いた加藤康人さんにお話を聞いた。(Text:編集部)

お話を聞いた人

加藤康人さん
日本の大学卒業後、サッカー指導者を目指して渡独。DFBサッカー指導者ライセンス取得した後、日系サッカースクールをフランクフルト、ブリュッセル、シュトゥットガルトに設立する。各々のスクールで指導に当たり、EURO JAPAN 代表チームの初代監督を務める。

インターナショナルカップにて、代表チームの子どもたちインターナショナルカップにて、代表チームの子どもたち

なぜドイツで日本人向けサッカー教室?

ドイツの国技といえば、もちろんサッカー。この国でサッカーをすることには、さまざまなメリットがあると加藤さんは話す。「ドイツではプロだけでなく、アマチュアチームもスタジアムを所有していたり、子どものころから選手育成に家族が協力的であるなど、恵まれた環境が整っています。特に夏場は日が長いので、放課後にゆっくり練習したり、親の退勤後に一緒にボールを蹴ったりできることも、日本との大きな違いですね」

日系のサッカースクール設立前は、日本人の子どもたちがそういった環境を享受するには難しい現実があったという。「私はドイツ人チームを指導しながら、FCフランクフルト・ジャパンという、成人日系チームにも所属していました。それに参加する方々から、子どもたちにもサッカーを教えてほしい、という要望があったんです。特に駐在のお子さんの場合は、言語の問題もあり、現地のチームに参加するのはなかなかハードルが高いもの。また、ドイツで生まれ育った子は週末に補習校があるなどで、物理的に現地のサッカーチームの試合に出場することが難しいという現状もあります」

そして2011年、日本の子ども向けのサッカースクールを立ち上げるべく、ほかのコーチとともにフランクフルトでKM Sportsを発足。初めは公園などで5人ほどで練習していたが、正式に募集を始めると瞬く間に100人規模に。2014年に法人化し、シュトゥットガルトとベルギーのブリュッセルにも教室を開校するまでに成長した。

日系子どもチームの欧州公式戦「EURO J Jr.CUP」

教室に通うのは、幼稚園から小学校低学年の年齢層が中心だ。中学年以降になると、現地のチームに参加するパターンも少なくない。

「まずは私たちの教室に通ってもらい、サッカーを好きになってもらう。最終的に、現地のチームに入ってもらう橋渡しをすることが私たちの目的です。

KM Sportsの教室は週1回のみ。子どものやる気をどう保つかが課題でした。そこで、モチベーションを高めるために2015年に始めたのが、『EURO J Jr.CUP』という欧州の日系子どもチームのための公式戦。今では年2回開催し、交流の場にもなっています」

この公式戦には、ドイツや英国など9カ国のチームが参加し、年々規模が拡大。さらに今年7月に行われた大会では、新たなプロジェクトも始動した。「子どもたちにより大きな夢を抱いてほしいという願いのもと、10月にオランダで開催されるインターナショナルカップへの出場を目指すことに。まずはクラウドファンディングで支援金を募り、EURO J Jr.CUPでメンバーを選出。各都市の11~12歳の選手で構成されるU-12 EURO-JAPAN代表チームが誕生しました」

子どもたちの成長が日本サッカー界の活力に

代表メンバーは欧州各地に住んでいるため、大会当日まで全員で集まれなかったという。「1番重要なことは心の距離を縮めることでした。そこで、スカイプでのミーティングを実施し、特に大会のために掲げた3つコンセプトの共有に力を入れました。1つ目の『人間性の成長』では、技術や戦術よりも人間性を育てること。2つ目の『代表意識』では、自分たちが多くの方に支援され、日本代表であると自覚すること。そして、3つ目の『青春の時を築く』では、大会に全力を注ぐことでかけがえのない青春を味わってもらうこと。この3つを選手たちに伝えて準備しました」

スカイプミーティング代表チームの選手が住むフランクフルト、デュッセルドルフ、ミュンヘンのほか、
8都市をつないでのスカイプミーティングの様子

そして、迎えた10月18~20日の本番。オランダに集まった代表メンバーにコーチ陣はできるだけ話しかけ、相互のコミュニケーションを図った。「初めはなかなか輪に入れない選手もいましたが、最終日には何年も一緒にいたかのような仲間意識が芽生えたことが印象的でした。選手たちが3つのコンセプトを理解し、しっかり実践してくれたことが、彼らの成長と大会の結果につながったと感じています」

合計6試合を戦い抜いた選手たち。最終成績は3勝2分1敗で、惜しくも準優勝という結果に終わった。「最終戦で優勝を逃したときの選手の涙は、まさに『青春』を物語っていました。私たちも子どもたちから『青春の時』をプレゼントしてもらった思いでした。

私の当面の目標は、近年増加している欧州に点在する日本のサッカー少年や指導者をさらにつなぎ、1つの組織を作り上げること。それが、欧州における日本サッカー界への貢献につながったらうれしいです。いつかここから日本代表選手が生まれ、ワールドカップ優勝が達成されることを心から願っています」

欧州を拠点とした日本サッカー界の歴史はまだ始まったばかり、と加藤さん。今回の大会はその歴史の1ページとして刻まれ、日本サッカー界の希望の光となったはずだ。未来へと歴史を紡いでいく日本の子どもたちの活躍は、これからも見逃せない。

準優勝カップを手にして喜ぶ選手たち準優勝カップを手にして喜ぶ選手たち

EURO J Jr.CUP 2020 in Frankfurt am Main
(EURO-JAPAN代表 選考大会)

開催日程:2020年7月5日(日)
※単願でのエントリーも可能です。ご興味のある方は下記までお問い合わせください。
Web: www.km-sports.com/euroj_jr
E-Mail(加藤): このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

 
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