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ジャパンダイジェスト
Mo. 13. Jul. 2020

どうなる? EUの未来 英国EU離脱後の
ドイツと欧州

2020年1月31日午後11時、ついに英国がEU離脱(ブレグジット)を達成した。ブレグジット後、ドイツおよび欧州の状況は具体的にどのように変わっていくのだろうか。また、ドイツに住む私たちにはこれからどんな影響があるのだろうか。欧州統合の歩みとブレグジットに至る経緯を改めて振り返ることで、ブレグジット後のドイツと欧州の未来を見据えてみよう。(Text:編集部)

そもそもブレグジットとは?

「英国または英国の(BritainまたはBritish)」と「退出する(Exit)」を掛け合わせた造語で、「英国の欧州連合(EU)からの離脱」とそれを取り巻く諸問題を指す。EU域内からの移民の増加に加え、世界金融危機などを契機に、2013年ごろから英国民の中で反EU感情が強まっていった。2016年に行われたEU残留か離脱かを問う国民投票では、僅差で離脱派が勝利。しかし離脱が実現されないまま国論が二分され、議会も混乱を極めた。2019年の英国選挙では離脱を公約に掲げる保守党が圧勝し、2020年1月31日についに離脱が達成。今後は関税ルールなどをはじめとする交渉が英EU間で進められる。

欧州諸国メディアが報じたブレグジット

1月31日、多くの欧州諸国メディアでも英国のEU離脱が報じられた。英国内の反応が離脱派と残留派に二分されるのに対し、欧州ではブレグジットへの怒りや悲しみ、そしてEUの未来について語られている。

参考:BBC「Brexit: Sadness and relief - European papers' view」、The Guardian「'Britain is retrenched on its island': Europe's papers react to Brexit day」

ブレグジットへの怒りと悲しみ

「何も変わらず、すべてが変わった日」
- Le Monde(フランス)

「真夜中の泥棒のように、金曜日の夜に英国はEUを去る。EUが歴史上初めて加盟国を失ったことは、誰にとっても悲劇的な敗北だ」
- De Morgen(ベルギー)

「私たちは笑うべき? それとも泣くべき?」
- Heti Vilaggazdasag(ハンガリー)

「これは欧州統合というアイデアの敗北。特にEUを欧州和平のためのプロジェクトと考えていた人にとって」
- Aftenposten(ノルウェー)

英国はどこへ向かう?

「ブレグジット後に、英国の政治が自国の本当の大きさに正直になれるかどうかだ」
- Die Welt(ドイツ)

「(ジョンソン首相は)とてつもなく大きな課題に直面している。それは、ブレグジットを『解放』と考える人々と、『悲劇』あるいは『歴史的な失敗』と考える人々とに二分された国の統一を回復することだ」
- El País(スペイン)

「英国には、未来への素晴らしいアイデアはない……。これまでのところ、私たちが見たのは考えの浅い現実逃避とつまらない問題だった」
- Süddeutsche Zeitung(ドイツ)

本当の交渉はこれから

「(EU本部のある)ブリュッセルにとって最大の懸念は、海岸から迫ってくる競争相手(英国)だ」
- Handelsblatt(ドイツ)

「今から数カ月後に、『合意なしの離脱』のリスクが再び現れる可能性も十分ある」
- Gazeta Wyborcza(ポーランド)

「本当に難しいパートは、ここから始まる」
- Dagens Nyheter(スウェーデン)

自己反省的な見解も

「国連安全保障理事会の常任理事国かつ主要なパートナーが去り、(残された27のEU加盟国は)ますます予測不可能なこの世界を(不安げに)見ている」
- Le Figaro(フランス)

「EUは自身の姿を鏡で見直すべき。そして英国をはじめとする多数の欧州の国々が経験している『嫌悪』について、そろそろ疑問を持ってもいいころだ」
- RTL Z(オランダ)

「(将来的に)英国がEUに再び加入するならば、EUは現在とは全く違う組織になるだろう。それは悪いことだろうか?」
- Der Standard(オーストリア)

「これまでのところ、EU離脱はEUにとって良い面もあった。(英国が去った後の)27カ国は団結している…(中略)…しかし、EUプロジェクトは新たな推進力が必要。動き出さなければならない」
- NRC Handelsblad(オランダ)

EUとBREXITをもっと知るためのQ&A

なぜ英国は欧州連合(EU)を離脱したかったのか、ブレグジットという選択肢は正しかったのだろうか……EUの歴史や存在意義を知ることで、その答えが見つかるかもしれない。そして、ブレグジット後のEUはどこへ向かっていくのか、EU情勢に詳しい栗田路子さんに話を聞いた。

お話を聞いた人

栗田路子さん Michiko Kurita ベルギー在住ライター、コンサルタント。上智大学卒業後、米国とベルギーの経営大学院にてMBA取得。EUやベルギーの政治・社会事情を発信している。EU Mag(駐日EU代表部公式ウェブマガジン)などで執筆中。

EU地図

EUへの加盟年と脱退年

1952年

ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダが加盟

1973年

デンマーク、アイルランド、英国が加盟

1981年

ギリシャが加盟

1986年

スペイン、ポルトガルが加盟

1995年

オーストリア、フィンランド、スウェーデンが加盟

2004年

チェコ、エストニア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロヴェニア、スロヴァキアが加盟

2007年

ブルガリア、ルーマニアが加盟

2013年

クロアチアが加盟

2020年

英国が脱退

Q1そもそもEUは、なぜできたの?

A 一国の暴走を防ぐため、資源を共同で管理するところから始まった。

隣国同士で戦争を繰り返してきた欧州。なぜ争いが起きるのかというと、国力のベースとなる資源を奪い合ってきたからだ。1920年代にはすでに欧州統合の構想はあったものの、具体的に始動したのは第二次世界大戦後。1950年にフランスの外相シューマンが「シューマン宣言」を発表し、石炭と鉄鋼を共同管理するために超国家的機構の創設が提唱された。そして1952年、フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの6カ国により「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」が発足されたのだった。

その後、1958年には「欧州経済共同体(EEC)」と「欧州原子力共同体(Euratom)」が発足し、1965年にこれまでの3つの共同体が「欧州共同体(EC)」として統合。経済分野とエネルギー源管理で密接な協力関係となり、英国をはじめとした欧州諸国も少しずつECに加盟していった。1993年に現在の「欧州連合(EU)」に発展。その後も加盟国は増え続け、2013年に28カ国(英国含む)の超国家組織へと成長した。

Q2EU市民はどんな恩恵を受けているの?

A 経済分野だけでなく、感じれられる恩恵は個々によってさまざま。

EUを語るとき、EU域内の物・人・金・サービスの移動の自由が挙げられることが多い。その昔、ベルギーからドイツに行くのには国境検査を受けなければならなかったが、現在は通関も入国管理もなしで行き来ができる。これは、移動の自由で守られているおかげだ。ほかにも、EU市民が直接感じられるメリットとして、EU域内の送金には手数料がかからなかったり、EU域内では国内と同料金で電話やデータ通信をすることが可能。しかし、これは実感できるメリットのほんの一部に過ぎず、実際はEU市民はさまざまな分野でEUの恩恵を受けている。

教育分野では、市民がEU域内外で自由に学べるような留学制度や移動費助成制度がある。さらに、研究開発助成制度は多年次で複数加盟国チームに支給されるため、各国のブレーンが共同で研究開発を進めることができる。また、安全性が懸念される農薬や遺伝子組み換え種子の使用、そうした農作物の輸入をEU法で禁止。農薬や遺伝子組み換えは農作物の大量生産を可能にするためコスト面では経済的かもしれないが、EUが重視するのは目先の損得ではなく、「安全性に不安があるものを食べたくない」と主張するEU市民の基本的な権利。一般的に、即効性のある実利主義的な関税同盟や単一市場など経済分野ばかりがEUのメリットかのように取り上げられるが、それは一面でしかない。ビジネスマン、学生、子どものいる人……など、感じられる恩恵は個々によって違うのだ。

Q3なぜ英国はEUを離脱したかったのか?

A EUが何でも決めてしまい、自己決定権がないから。でも実際には……

英国のEU離脱派がよく批判していたのは、予算や政策などもEUがすべて決めてしまい、自己決定権がないこと。自国の得意な産業に合わせた独自の通商政策ができないことも、英国経済に不利という認識だ。また、分かりやすい例では移民問題が挙げられる。移民増加に伴い、国内の雇用が奪われ、福祉を圧迫しているというのが彼らの主張。しかし、実際には英国政府も英国市民もEUの立法プロセスに直接または間接的に関わっており、大半のEU法では具体的な措置や管理の裁量は各国に任されている。また、英国市民が問題視した移民の多くは、ポーランドやリトアニアからのEU市民。本来は欧州在住の英国市民と同じように権利が保障されるべきだ。特に日本では、これらの移民が2015年の難民危機と関係があるように語られることもあるが、実は全く別次元の問題である。

EUには、アキ・コミュノテール(フランス語で「共同体に蓄積されたもの」の意)という、EUの法体系を指す言葉がある。新規加盟するには、すでに蓄積されてきた法令を受容することが条件であることを意味しており、1973年に英国がECに加盟した際もすでにこの原則は存在していた。つまり、これまで決められてきたことに対して文句を言ったり、自国に都合の良い政策だけに加わるような「いいとこ取り」は許されていない。もともとEUは一国の暴走を防ぐために始まった共同体だったが、ブレグジットはEU市民の目にどのように映ったのだろうか。

Q41月31日午後11時に英国がEUを離脱し、何が変わったのか?

A移行期間に入っただけで、市民レベルではほとんど何も変わっていない。

移行期間(2020年12月末まで、詳しくはP12)が終了するまでは、引き続きEU法が英国に適用されるため、EUや英国在住の一般市民の生活はこれまでと何も変わらない。一方、英国は今後EUの意思決定に参加しないため、EUの英国代表は主要機関から撤退。例えば、欧州議会では英国選出議員の73議席が空席となったため、そのうち27議席は14カ国に振り分けられた。500ページ以上にわたる離脱協定の中で、特に大事なポイントは以下の3つだ。

離脱協定の3つのポイント

1. 市民の権利
引越しや就職、結婚などは「ライフチョイス」として、誰にとっても人生の大事な決断だ。そうした権利を守ることは、離脱協定の最優先事項。よって、離脱前からすでにEUに在住する英国市民、英国に在住するEU市民は現在の居住地から追い出されることはなく、引き続き同じ権利が保障される。

2. お金の精算
英国がEU加盟国として誓約した分担金を支払うことをが定められている。欧州中央銀行の資本金は返金されるが、欧州投資銀行などではプロジェクトごとに投資しているため、最終的な返金はプロジェクト終了まで待たなければならない。

3. アイルランド国境
英国議会が最後までもめていた項目が、アイルランドの国境問題。アイルランド島には、EUに属するアイルランド共和国と英国に属する北アイルランドが共存しているため、ブレグジットは両国間の物理的国境の復活を意味する。かつて両国市民の人権を脅かした国境問題の再燃を避けるため、北アイルランドを英国の経済特区的な扱いとし、EUの関税同盟に残留させることを決定。しかし、北アイルランドからEU基準に適合しない製品がEUに流入しかねないとの懸念が残る。

栗田さんのEU未来予想!?

EUはブレグジットから何を学んだのか

EU加盟国に限りませんが、世界がブレグジットから学んだことは、国の命運を左右するような重要案件をたった1度の国民投票で決めてはならない、ということでしょう。例えば、投票を3択にする、予備選をして決勝投票をするなど、各国の国民投票のあり方をどうしていくのか、それぞれが肝に銘じたと思います。

各々が意見を持つことは民主主義の基本ですが、同時にその脆弱さでも。昨今、ブレグジットに代表されるように右派ポピュリズムが世界で蔓延していますが、その思想を否定することはできません。ならば、人々がメディアリテラシーを身に付け、かしこくなるしかないのです。

例えば、EUの教育政策に「エラスムス」という、若者を留学や研修でEU圏内を移動させるプログラムがあります。エラスムスを利用した人はこの30年で300万人以上。若いときに客観的な視点で自国を見つめ考えることは、何事にも代えがたい経験になるはずです。時間はかかりますが、ほかのEU市民を仲間だと思える経験をした人を増やすことは、EUの多国籍枠組みを受け入れることにつながると信じています。

昨年の欧州議会選挙では、選挙期間中にフェイクニュースやディスインフォメーションが有権者を操作しないよう、EUと加盟国の情報機関が徹底チェックしました。その結果、米大統領選挙時のような個人データの大量操作や出所不明な怪しい情報の大量拡散も起こりませんでした。市民の意思決定の際に意図的な情報操作が行われないよう、今やこうした影の努力は不可欠なのです。

新体制のグリーンディールに期待

昨年欧州委員会のトップとなったドイツ人のフォンデアライエン氏は、初の女性委員長として注目されています。同氏が率いる新欧州委員会は6つの優先課題を挙げ、特に力を入れているのが「欧州グリーンディール」という環境政策。2030年までに温室効果ガスを55%削減することを目指すため、今後10年で1兆ユーロを投じる計画です。産業界からは、厳しい政策内容のために EUの産業を減速させるとの声も上がっています。

しかし今だからこそ、EUが環境政策に力を入れることをアピールする意味があると思います。環境問題にここまで取り組む国や地域はほかにないので、EUはこの分野で世界をリードしていける可能性があり、環境のための抗議運動Fridays for Futureで立ち上がった若者たちへの応答でも。また、EUはこの20年で風力発電や太陽光発電に力を入れてきたので、すでに先行利益も出ています。道は険しいかもしれませんが、今後さらに投資することで、世界に先駆けた産業構造革新が進むと信じたいです。

ブレグジットを受けて、EUの未来についてさまざまな議論がなされています。その1つの道が、軌道修正をしながら新しいEUを目指していくというもの。大きな政府と小さな政府の理論と同じなのですが、これまで通り全加盟国で同じ政策をやる、国によっては産業政策だけ参加する、地域開発政策からは抜けるなど、フレキシブルなやり方です。例えば、EU全体で夏冬の時間変更を一斉に行わないことが決められ、今後どうするのかは加盟国の裁量に委ねられました。さまざまなシナリオを議論することは、前ユンケル委員長の置き土産。今後、EU全体で意識的に話し合われるべきでしょう。今日、多国籍枠組みの中から出ることが主権回復のシンボルのような風潮がありますが、それに対してEUがどう対応できるのか、EUの未来に期待したいと思います。

 
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