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多様な作品と価値観に出会える場所 ドイツのミニシアターの今

昨今日本ではミニシアターの再ブームが来ているが、ここドイツでもそれぞれ歴史や理念を持ったミニシアターが各都市に存在している。メインストリームではない、さまざまな国や背景から生まれた作品を上映するミニシアター。ストリーミングによって自宅でも気軽に映画を鑑賞できる時代になっても、なぜ人々は足を運び続けるのか。本特集では、ドイツにおけるミニシアターの歴史を紐解くとともに、各都市の魅力ある劇場をご紹介する。 (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

劇場の赤いビロードの座席

そもそも「ミニシアター」ってなんだろう?

取材協力:フェリックス・ブルーダーさん(AG Kino - Gilde e.V. 事務局長)
参考:AG Kino – Gilde e.V.

ドイツのミニシアターの3本柱

1. 多様性
メインストリームから外れた映画、ドイツや欧州はもちろん世界中から集めた作品を上映する

2. 出会い
単に映画を見て帰るだけでなく、人々が出会い、そこにとどまって意見を交わすことができる

3. 情熱
映画館で働く人々、観客がミニシアターそのものや上映作品に対して情熱的である

定義がないのがミニシアター

日本で「ミニシアター」と呼ばれる映画館は、ドイツ語では「Arthouse / Filmkunst /Programmkino」などさまざまな呼び方がある(本特集では、日本語でよく知られている「ミニシアター」を用いる)。主に1970年代ごろから独自のプログラムを組む映画館のことを指すが、公式の定義はなく、映画館自身がミニシアターを自称するかどうかを決めることになる。日本のミニシアターのように建物自体が小規模であるとは限らず、ドイツには伝統的な大きなスクリーンを持つ施設から学生が中心となってつくる上映会場まで、多種多様なミニシアターが存在している。

ドイツの約380のミニシアターが加盟する映画館協会「AG Kino - Gilde e.V.」のフェリックス・ブルーダー事務局長によると、あえてドイツのミニシアターの特徴を述べるならば、右上のような三つのポイントがあるという。映画を愛する人々が境界線を持たず、さまざまな作品を通じて意見を交わし合う……。はっきりとした定義がないからこそ、ミニシアターは自由な場であり続けているのかもしれない。

ドイツのミニシアターを束ねるAG Kino - Gilde e.V.

先のAG Kino - Gilde e.V.はもともと二つの団体で、両者の性格は大きく異なっていた。1953年に設立された「Gilde deutscher Filmkunsttheater」に加盟したのは昔ながらの大型劇場が中心で、当時主流だった娯楽映画やドイツ映画にとどまらず、国際的な作品を上映することを試みていた。一方、1972年に設立された「AG Kino」では、1968年の学生運動や、1950~60年代のフランスで起きたヌーヴェル・ヴァーグ、1960~70年代のドイツにおけるニュー・ジャーマン・シネマなどに影響を受けた映画館が結束し、革命児ともいえる存在だった。AG Kinoは自分たちで配給会社をつくり、特にフランス映画をドイツへ紹介しようとした。

伝統のある大規模な映画館、オルタナティブな小規模の映画館という一見相反する両者の団体は、やがてシネマコンプレックス(以下、シネコン)とは一線を画した独自路線での運営を続けるために協力していく道を選び、2003年に統合した。今日、ドイツでミニシアターと呼ばれる映画館ではさまざまな作品を見ることができるが、AG Kino - Gilde e.V.の幅広いネットワークが背景にあるともいえる。

ドイツを含む欧州の映画市場は、ハリウッドを中心とする米国市場のように大規模ではないため、公的支援が欠かせない。ドイツの映画業界は、まずは映画制作への助成制度に力を入れることで発展してきたが、作品は見てもらえなければ意味がない。ミニシアターも同じように支援が受けられるよう、AG Kino - Gilde e.V.にとってロビー活動は重要な柱の一つだ。ミニシアターが文化施設、そして経済活動の場として認められ、映画館が存続できるように政治に対して、日々働きかけているのである。

また、同協会は加盟映画館に対して、例えば新しい法律ができた場合に映画館にどのような影響を与えるのかを共有したり、マーケティングやプログラム編成について学べる研修の機会を提供したりするなど、ネットワークにも重きを置く。なかでも特筆すべきは、毎年ライプツィヒで開催される「Filmkunstmesse」(映画芸術見本市)。見本市では配給会社が新作映画を紹介し、全国各地の映画館の運営者がそれぞれに合った作品を探すことができる。さらに、監督のトークイベントやワークショップなど、映画館関係者が互いに交流し、新しいアイデアをそれぞれ持ち帰る機会になっている。

ミニシアターのこれからの役割

今後、映画教育はもっと重要になっていくとブルーダー事務局長は考えている。映像で溢れかえる時代だからこそ、人は映画をどのように受け取るべきか、何に注意して見るべきかを学ぶ必要があるという。ミニシアターもそういった教育面でさらに重要になっていくだろう。その実践例として同協会が注目しているのがお隣の映画大国フランスだ。映画館の数や公的支援の充実をはじめ、学校教育の中にも映画文化が根付いているフランスは、ドイツにとって一つのモデルケースとなっている。

明確な定義を持たないからこそ、ドイツのミニシアターは時代や地域に応じて、その姿を変えてきた。その役割は、今後ますます広がっていくのかもしれない。そんなミニシアターを全国各地からピックアップしてご紹介。さらに、ドイツのミニシアターの実例としてデュッセルドルフの映画館に話を聞いた。

街の映画好きたちが集まるドイツ各地のミニシアター8選

映画好きなら一度は行ってみたい、ドイツの主要都市で愛されてきたミニシアターをピックアップ。住んでいる街の映画館に通いつめるのはもちろん、旅行先で地元の人に混じって映画を見るのもまた楽しい。プログラムをチェックして、ぜひ足を運んでみよう。

ドイツのミニシアター地図

1

ベルリン
東ベルリン生まれの大型劇場
Kino International

 Kino International

 Kino International

 Kino International

1963年に東ベルリンに誕生したKino International。東西分断時代は東ドイツの映画制作会社DEFAの作品上映が多く行われていた。東西統一後も、ドイツで最も重要な映画館の一つとして国内外の作品のプレミア上映が催されている。2年の改修工事を経て今年リニューアルオープンしたばかり。外壁のレリーフや重厚でレトロな内装はそのままに、最先端の映像・音響技術を誇る映画館へと生まれ変わった。1997年から続く「Mongay」では、毎週月曜に最新のクィア映画を上映。506席ある大スクリーンで歴史を感じながら映画を楽しもう。

Karl-Marx-Allee 33, 10178 Berlin
www.yorck.de

2

ハンブルク
自動車修理工場から映画館に
Abaton-Kino

Abaton-Kino

ハンブルクの学生街であるグリンデル地区にあるAbaton-Kino。1970年、「一般の映画館では上映できない映画を上映すること」をモットーに、自動車修理工場だった建物を改修して開館した。大中小あるスクリーンで年間300~400本の映画を上映し、150以上のイベントを開催するなど、街のカルチャーシーンを形作ってきた。ドイツを代表する映画監督の一人で、ハンブルク出身のファティ・アキンは何度もトークイベントに招かれている。毎週火曜は7ユーロでポップコーンとクイズ付き上映が。毎月発行されるプログラム冊子はオンラインでも閲覧可能だ。

Allendeplatz 3 / Ecke Grindelhof, 20146 Hamburg
www.abaton.de

3

ミュンヘン
フランス映画のファンが通い続ける
Theatiner Filmtheater

Theatiner Filmtheater

1957年に開館したTheatiner Filmtheaterは、1950年代の空気感がそのまま保存されたような映画館。オープン1年後に映画業界で働いていたマーリース・キルヒナー氏が支配人となり、現在に至るまでフランス、スペイン、イタリアの映画を字幕付きオリジナル言語で上映してきた。80代になってもチケット売り場に立っていた彼女は、優れたプログラム編成で数々の賞を受賞。映画業界の重鎮としても知られていた。2024年に若手のクレア・シュレーガー氏とバスティアン・ハウザー氏に経営を引き継ぎ、キルヒナー氏は今年3月に亡くなった。

Theatinerstrasse 32, 80333 München
https://theatiner-film.de

4

フランクフルト
三つの老舗映画館から成る
Arthouse Kinos Frankfurt

Arthouse Kinos Frankfurt

1970年代からミニシアターとして愛されてきた「Harmonie」(写真)、フランスのビストロをイメージした「Cinéma」、1912年にオープンした老舗の「Eldorado」の三つの映画館から成る映画館グループ。毎週月曜と日曜17時からはドイツ語字幕付きのオリジナル上映を行う。傑作映画をサプライズ上映する「Spotlight: Milestones」、食事やテイスティングが楽しめる「Culinarico」、日本アニメ作品を取り上げる「ANIMOTION」などのシリーズのほか、Eldoradoでは9月19~20日に第5回ギリシャ映画祭を開催。

Harmonie| Dreieichstraße 54, 60594 Frankfurt am Main
www.arthouse-kinos.de

5

ハノーファー
ドイツ最古の映画館の一つ
APOLLO

APOLLO

1908年に設立されたドイツ最古の映画館の一つ。フランス製の真っ赤なアームチェアがクラシックな雰囲気を醸し出している。1970年代に経営が厳しくなってきたころ、映画好きの学生が上映プログラムを提案。学生向けの作品を上映した結果、満席になるほど人気となり、やがてミニシアターとして認知されるようになった。大まかな上映スケジュールは数カ月先まで公開。毎週日曜はワインの試飲付き上映「Vino-Kino」などのイベントも。

Limmerstr. 50, 30451 Hannover
www.apollokino.de

6

エッセン
劇場の数だけ個性がある
Essener Filmkunsttheater

Essener Filmkunsttheater

1928年から存在し、1250席を要するドイツ屈指の大型劇場Lichtburgと五つのミニシアターからなるエッセンの映画館グループ。1950年代の歴史的建造物に大スクリーンを擁するEulenspiegel(写真)、毎月第4水曜にフランス映画を上映する「Astra Theater」、毎月最終火曜にスペイン映画を上映する「Filmstudio Glückauf」、ルール地方で最も小さい映画館「Galerie Cinema」、ミュールハイム唯一のミニシアター「Rio」がある。

Eulenspiegel | Steeler Straße 208-212, 45138 Essen
https://filmspiegel-essen.de

7

ライプツィヒ
ボランティアで運営する映画館
Cineding

Cineding

プラグヴィッツ地区の中庭にひっそりと佇むCinedingは、1997年にザクセン州映画サービス協会によって設立されたミニシアター。日中は学校向けの上映会などに利用され、夜間はインディペンデント系映画を全てオリジナル言語字幕付きで上映する。ボランティア主体で運営されており、チケットも通常料金が7ユーロとリーズナブルだ(2026年8月時点)。最近ではクルド映画祭や型破りなドイツ映画シリーズ「Grenzgänger」などの特集を企画。

Karl-Heine-Str. 83, 04229 Leipzig
www.cineding-leipzig.de

8

ロストック
子ども向けプログラムが充実
li.wu. (Lichtspieltheater Wundervoll)

 li.wu.

1910~93年までMetropol(写真)と呼ばれていた映画館で、2012年にli.wu.となった。2014年には学校を改装したFrieda23が加わり、2拠点で運営されている。若手の映画監督や既成概念を打ち破るアーティストの作品を中心に扱う。子ども向けには年齢層別のプログラムが組まれ、13~19歳までが上映作品を決められる「Querbeet」では随時アイデアを募集中。2025年にはメクレンブルク=フォアポンメルン州映画基金の年間プログラム部門を受賞した。

Barnstorfer Weg 4, 18057 Rostock
www.liwu.de

デュッセルドルフの映画館にインタビュー 私たちがミニシアターに出かける理由

ミニシアター

デュッセルドルフにも四つのミニシアターがある。中心街にあるAtelierとBambi、旧市街のCinema、大学近くのMetropol。それぞれ歴史を持つこれらの映画館は、現在「Metropol Düsseldorfer Filmkunstkinos」(以下、Filmkunstkino)としてグループ運営されている。かつてこの街に100以上もあったという映画館のほとんどが姿を消したなか、Filmkunstkinoはどのように生き残り、何を守ってきたのか。共同設立者のカレ・ゾムニッツさんとプレス担当のエリック・ホルストさんにお話を聞いた。

ホルストさんとゾムニッツさんホルストさんとゾムニッツさん

街の映画館を守ってきた人たち

Filmkunstkinoでは、最近話題の映画から外国語作品、ドキュメンタリー、アニメまでさまざまな作品が上映される。観客の平均年齢は40歳以下と若い。最近では月額20ユーロで映画が見放題になるサービスを導入した。「まるで家を解約したのかと思うほど、毎日のように来る常連さんもいますよ」と笑って話すのは、プログラム責任者として同社を率いるカレ・ゾムニッツさんだ。

ゾムニッツさんはデュッセルドルフ大学の学生だった1980年代に、学内映画館「MEK-Film」を立ち上げた。その後、Metropolの経営者だったウド・ハイマンスベルク氏と出会い、1994年には市内の映画館「Souterrain」の経営者に。一方で、市内では大型シネコンの建設計画が進行中だった。1998年にハイマンスベルクさんと共にFilmkunstkinoを設立すると、街のミニシアターを守るべく、経営困難となった映画館を買収して今に至る。ミニシアターをグループ運営する例は他都市でも見られるが、スクリーン数が増えることで配給会社にとって魅力が増すほか、各映画館の個性を活かしたプログラムを組めるため、より多くの作品を上映できるという利点がある。

「シネコンはいわばチェーンのバーガーショップで、ミニシアターは個人経営のレストランです」。両者の違いをこう語るのは、プレス担当のエリック・ホルストさんだ。「私たちはお客さんに話しかけ、メニュー(映画)をおすすめすることができる。ただ入って食べて出ていく場所ではなく、とても社交的な場なのです」とホルストさんは続ける。Filmkunstkinoは映画館そのものだけでなく、地元の人々の交流も守ってきたともいえそうだ。

語るべきテーマがある映画

映画館のプログラム編成には、事前鑑賞が必須だ。Filmkunstkinoでは、コロナ禍前はほぼ毎日試写会を開き、スタッフや地域のジャーナリストが共に映画を鑑賞してきた。現在はスクリーナー(試写用サンプル)が当たり前になってしまったが、実際のスクリーンで観るよう心がけている。さらに、ゾムニッツさんはベルリナーレをはじめとした映画祭にも足を運ぶ。

「作品を選ぶ基準は『その映画に語るべきことがあるかどうか』です。観客が自分を重ね合わせられるか、現代社会の問題が映し出されているか、あるいは歴史を描き、今と比較できるかどうか。本当に優れた作品とは、娯楽性とメッセージ性の両方を持っています。例えば、フランスの映画『最強のふたり』はその好例です。コメディ要素が多いですが、背景には人種差別、障がいのある人との向き合い方といったテーマがある。映画を観た人は、車椅子に乗った隣人のことを思い出したり、今まで挨拶しなかったことを反省したりするかもしれない。そんな気づきを与えてくれる映画なのです」(ゾムニッツさん)

選び抜かれた作品は、上映する劇場、時間帯などが吟味され、観客に届けられる。さらに、週に2回は監督や専門家を招いての上映イベントを行い、ミニシアターならではの交流の場を設けている。「価値のある作品なら観客が少なくても3週間上映します。それは映画に対しての責任でもあるし、そうした作品を上映できることは私たちの誇りでもあるのです」とゾムニッツさんは胸を張る。

フリーペーパー「biograph」デュッセルドルフのカルチャー専門フリーペーパー「biograph」には、毎回Filmkunstkinoのスタッフによる上映作品のレビューが掲載される

ミニシアターの中の小さな民主主義

コロナ禍前と比較して、Filmkunstkinoにはまだ完全に人が戻ってきたわけではない。ストリーミングが台頭する一方、それでも映画館に足を運ぶ価値。それは、映画が人に語りかけ、人と人とが出会うミニシアターの存在そのものが物語っているだろう。その価値をより多くの人に感じてもらうため、ゾムニッツさんたちは常に新しい客層、特に若い人たちに来てもらうよう努力している。

取材で訪れたBambiでは、ちょうど学校のクラス上映が行われていた。こうしたスクリーンの貸出は、街の子どもたちにミニシアターの存在を知ってもらう機会になる。また、およそ40人いるアルバイトスタッフは学生が中心だ。「映画ファンでなければ、ここで働けません」とホルストさん。スタッフは映画を無料鑑賞できるが、学生スタッフたちが気に入った映画を周囲の人に広めてくれるため、結果的に観客層の若返りにもつながっているという。

国際色豊かなプログラムも、新たなお客さんとの出会いになる。イタリア週間では、地元のイタリアンにチラシを置かせてもらい、そこから多くのお客さんが映画館に足を運んだ。また、Bambiでは日本映画を月に1本は上映するが、最近では映画「国宝」の反響が大きかったと話すゾムニッツさん。「上映時間が3時間もあり、配給会社もどう売ればいいか分からず、まずは日本人街のど真ん中にあるBambiで上映しようと。そこで週末の昼と夜に試しに上映したのですが、どれも満席になったんです」と嬉しそうに語る。日本人も多く訪れ、結果的に2カ月のロングラン上映となった。

さらに、これまでOmU(字幕付オリジナル言語上映)ドイツ語字幕が主流だったが、最近は英語字幕付上映も少しずつ増やしている。これはベルリンの映画館に倣ったもので、これまでドイツ語ができずに鑑賞をあきらめていた人に間口を広げる戦略だ。

「人々は同じ映画を見て、意見を交わし、賛成したり反対したりする。映画館はまさに民主主義の場です」とゾムニッツさんは言う。さまざまな意見や背景を持った人々が集うFilmkunstkinoには、そんな小さな民主主義が息づいている。私たちはミニシアターに足を運ぶことで、街の一員であることをどこかで感じているのかもしれない。そして、そのミニシアター文化を守っていくのは、街に生きる私たちなのだ。

デュッセルドルフで日本映画といえば! Bambi

Bambi

1963年にオープンした老舗映画館で、プレミア上映も多く行われる。天井に星空があしらわれたサーカスのテントのような内装が特徴だ。年会費10ユーロで毎回チケットが2ユーロ引きになる「Gildepass」の加盟映画館。

Klosterstr. 78, 40211 Düsseldorf
https://filmkunstkinos.de

 
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