(編集部:林 康子)
1. 所得確定申告は、しなければならないの?
申告は、基本的に所轄の税務署から要請の通達があった場合のみ行う必要があります。対象者は所得税法 ※8EStG(Einkommensteuergesetz) に定められている「無制限納税義務者」※16 Unbeschränkt Steuerpflichtigeで、対象期間は前年(納税査定期間)。会社勤務などの被雇用者の場合は通常、毎月の源泉徴収の段階で賃金税として雇用主が税務署※9 Finanzamtに納めているので、申告の必要はありません。
ただし、以下の場合には申告義務が発生します。
- 本業で稼いだ賃金※10Lohn, Gehalt以外の所得※6Einkommen(資産所得、賃貸所得、課税対象となる年金など)が月額410ユーロを越える。
- 賃金に代わる所得(両親手当、パートタイム労働の賃金、失業手当、失業扶助、疾病保険など)が月額410ユーロを超える。
- 同時に複数の雇用者から給与所得税カード※2Lohnsteuerkarteに基づく賃金を得た。
- 夫婦双方が給与所得税カードに基づく賃金を得た場合で、そのどちらかが給与所得税クラス※3Lohnsteuerklasse V (5)かVI(6)である。
- 査定期間開始前に必要経費※15Werbungskostenや特別出費※12Sonderausgaben、非常時の負担※14Außergewöhnliche Belastungen が生じることがわかっていて、税務署に所得減税措置を申請し、給与所得税カード上に控除額を記入してもらっていた。
2. 「任意で」所得確定申告をした方が良いの?
所得確定申告の必要がなくても、申告をして査定を申請することができます。というのも、雇用主は賃金税分類表※11Lohnsteuertabelleに基づいて賃金税を納めているので、控除の可能性がある場合にも規定額※1Pauschalbetragのみを支払い、減税について全く考慮しないことが多いためです。その結果、所得確定申告によって還付される可能性のある賃金税まで支払っていたということにもなりかねません。
以下の場合は、所得確定申告をした方が良いでしょう。
- 仕事関係で発生した出費(必要経費)が920ユーロを超える。
- 保険料が税金表に規定されている手当の額よりも多い。
- 教会税や寄付、職業専門教育費※5Ausbildungskostenなどの特別出費が、その規定額(36ユーロ、配偶者がいる場合は72ユーロ)よりも多い。
- 両親や子ども、未婚のパートナーの扶養、病気治療、葬儀費用、災害による家具の再調達、離婚費用、障害を負った場合の費用などの非常時の負担が生じた。
- 被雇用者が結婚し、配偶者が働いていないか、自分より所得が少なかった。
- 査定期間の内、一定期間しか働いていなかった。(途中で職を離れた)
- 結婚や離婚、配偶者との死別などによって給与所得税クラスが変わった。もしくは子どもの数が増えた。
3. いつまでに申告すれば良いの?
2008年度(2008年1月1日~12月31日)分は、2009年5月31日までに税務署に提出しなければいけません。電子データとして管理されていて、申告義務のある人がこの期日までに提出しないと、その後6~8週間の間に1カ月以内の提出を要求する通知が届くことになっています。それでも提出しないと、次は罰金(150~300ユーロ)の通告が……。その通知に従って提出した場合は罰金の支払いは免れますが、税務署から遅延金を要求されることもあるので、期日は守るようにしましょう。
期日までに書類が揃わないなどの事情で提出が遅れることが前もってわかっている場合には、税務署に6週間まで期限の延長を申し出ることができます。このほか、税理士に申告用紙の記入、提出を依頼する場合は、12月31日までの猶予が設けられています。
4. どこに提出するの?
申告用紙は、提出時に住んでいる地区の税務署に提出します。提出は郵送でも直接持ち込んでもどちらでもOK。地域によっては確定申告専用のインフォメーションセンターが設けられています。直接提出する際の利点は、記入上の不明点について質問でき、書類に不足があればその場で教えてもらえることです。
用紙は、いつでも税務署に取りに行けますが、インターネットからダウンロードすることももできます。また、税務署が申告義務があると判断した人の元へは、用紙が年始までに郵送されます。提出後の処理期間は州によって違いますが、大抵6~8週間といったところ。決して複雑でない申告にもかかわらず、提出後2カ月経っても返答がない場合は、1度税務署に問い合わせてみると良いでしょう。
※1 | 規定額:Pauschalbetrag | |
※2 | 給与所得税カード:Lohnsteuerkarte (給与計算、所得税額、給与所得税クラスなど、雇用主が源泉徴収に必要とする情報が記載された書類) |
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※3 | 給与所得税クラス:Lohnsteuerklasse 家族関係が反映された給与所得税のクラス分類。合計で6つのクラスがある。 |
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Ⅰ(1) | 独身者、単身赴任者 | |
Ⅱ(2) | 母子・父子家庭 | |
Ⅲ(3) | 既婚者で、配偶者に所得がない場合 | |
Ⅳ(4) | 夫婦共働きで、双方の賃金レベルに差がほとんどない場合 | |
Ⅴ(5) | 夫婦共働きだが双方の賃金レベルに大きな差がある場合で、所得の低い方(高い方はⅢ) | |
Ⅵ(6) | 2カ所以上から賃金を得ていて、給与所得税カードを2枚以上所持している、もしくはカードを所持していない場合 | |
※4 | 給与明細:Gehaltsabrechnung | |
※5 | 職業専門教育費:Ausbildungskosten (授業料、教科書、通学費など) |
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※6 | 所得:Einkommen | |
※7 | 所得確定(所得税年度)申告: Einkommensteuererklärung | |
※8 | 所得税法:EStG(Einkommensteuergesetz) | |
※9 | 税務署:Finanzamt | |
※10 | 賃金:Lohn, Gehalt | |
※11 | 賃金税分類表:Lohnsteuertabelle (賃金額に対する諸税額が詳細に記載されている表) |
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※12 | 特別出費:Sonderausgaben | |
※13 | 被雇用者のための簡略化された確定申告: Vereinfachte Einkommensteuererklärung für Arbeitnehmer |
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※14 | 非常時の負担: Außergewöhnliche Belastungen | |
※15 | 必要経費:Werbungskosten | |
※16 | 無制限納税義務者: Unbeschränkt Steuerpflichtige (ドイツ国内に居住し、賃金税の課税対象となる賃金所得とは別の月額410ユーロ以上の所得がある人) |
必要な申告用紙
申告に必要な用紙は、所得の形態によって異なります。ドイツにおける所得形態は、農林業所得、事業経営所得(個人事業や合資会社(KG)、合名会社(oHG)など)、自営・自由業所得(フリーランス)、非自営業所得(給与所得)、資本所得(利子や株の配当金)、賃貸所得、雑所得(配偶者からの扶養料や土地、貴重資料の売却、年金以外のその他の所得)の7つに分かれている。所得形態に合った用紙は以下の通り。
本紙 (下図参照) |
全所得に共通 | ||
添付書類 | 1. 農林業所得 | 添付用紙L | (Anlage L) |
2. 事業経営所得 | 添付用紙G | (Anlage G) | |
3. 自営・自由業所得 | 添付用紙S | (Anlage S) | |
4. 非自営業所得 | 添付用紙N | (Anlage N) | |
5. 資本所得 | 添付用紙KAP | (Anlage KAP) | |
6. 賃貸所得 | 添付用紙V | (Anlage V) | |
7. 雑所得 | 添付用紙SO | (Anlage SO) |
会社に勤務する被雇用者の場合は通常、本紙と添付用紙Nの2つを記入すれば足りるが、それ以外に得た所得に対しては、必要に応じて提出すべき用紙を確認し、記入しよう。
1つの雇用契約を結んでいて、ほかからの所得がない被雇用者の場合、もしくは失業手当や失業扶助などの賃金に代わる所得を得た場合には、被雇用者のための簡略化された確定申告※13Vereinfachte Einkommensteuererklärung für Arbeitnehmer (本紙と添付用紙Nが融合されたもの)を利用することもできる。
個人情報 (1~27行)名前、住所、納税番号、配偶者の情報、銀行口座、サインなど。19行には、夫婦一緒の査定か、あるいは別々かを選択できる。記入がない場合は、夫婦一緒の査定とみなされる。 |
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添付用紙、賃金以外の所得、損失 (31~39行)本紙のほかに、どの用紙を添付するかを記入。 (40~54行)賃金に代わる所得(両親手当、疾病手当、育児手当など)について。 (54、55行)事業や株の利子・配当などで前年に損失があったが、当該年にそれを補う利益を得た場合は、その損失分の控除申請。 |
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特別出費 (61~88行)雇用関係で賄われる分以外に生じた保険料。教会税や寄付、職業専門教育費などの特別出費。 |
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非常時の負担、 家事と同類の労働、サービス (91~105行)入院費、介護費用など。 (106~113行)修理保全や庭仕事、清掃など、個人宅の家事全般のサービスにかかった費用に対する減税措置の申請。 |
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多くの被雇用者にとって、所得確定申告をする際に特に興味深いテーマが添付用紙Nに記載される「必要経費」だ。これは直接業務に関連する費用のこと。基本的には、業務上必要があって発生した諸々の経費の内、雇用主によって支払われた分以外は、すべて控除の対象となる。なお、被雇用者に考慮される必要経費の規定額は920ユーロ。この規定額分は税金分類表に記されており、税率に加味されている。必要経費がこの規定額を超える場合は控除されるので、申告した方がオトクということになる。(例参照)
ただしここでの問題は、対象が本当に税制的に控除されるべき業務上の用途で使われたものなのか、それとも私用で使われていたのかの区別が付きにくいことだ。控除の対象となるための前提は、それがもっぱら業務に使われていたということのみ。机や椅子、電気、本棚、パソコン、業務服、書籍など業務に必要な物品のほかにも、失業中の場合は就職活動にかかった費用(履歴書用写真や証明書作成費、プレゼン資料、交通費など)も対象となりうる。
● 年所得 36000ユーロ | |
● 支払うべき税金(所得の20%)7200ユーロ | |
● 申告すべき必要経費 | |
実際に生じた必要経費 2000ユーロ-規定額 920ユーロ =1080ユーロ |
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● 新たな税額の算出方法 | |
36000ユーロ - 1080ユーロ = 34920ユーロ | |
この金額から税金分20%を差し引くと 6984ユーロ | |
すなわち、 7200ユーロ - 6984ユーロ = 216ユーロ が控除額となる |
記入アドバイス!
記入した申告用紙やその他の税務署関連書類は、すべてコピーを取って保存し、年ごとにファイリングしておくと、翌年の申告時に役立つだろう。また、税務署に各証明書類の原本を送ると戻ってこない可能性があるので避けたい。大抵はコピーで間に合う。
オンラインでも申告できる!
所得確定申告を自分で行うための手引き付きソフトウェアは書店でも販売されているが、簡単・便利な無料オンライン申告制度を利用するのも1つの手。ユーザー登録をして証明書を発行してもらい、その後はソフトをダウンロードして、手順に従って記入するだけ。手書きの際に生じる記入ミスがなくなり、提出後の審査・処理時間も短くなる。個人情報漏れがないよう、保護管理も税務署がしっかり行っているので安心だ。
www.elster.de