詩情豊かな作風で時代を超えて愛されている画家、パウル・クレー。デュッセルドルフのNRW州立美術館が100点目のクレー作品購入を記念して、9月29日からK21で全収蔵作品を一挙公開する。題して『パウル・クレー×100 絵の物語』。クレー作品の芸術的価値だけでなく創作プロセスもじっくり検証し、さらにはその社会的側面も紹介する斬新な展覧会だ。
会期:2012年9月29日(土)~2013年4月21日(日)
入場料:大人12ユーロ、割引9.50ユーロ、子ども2.50ユーロ
Kunstsammlung Nordrhein-Westfalen K21
Ständehaus Ständehausstrasse 1, 40217 Düsseldorf
Tel.: 0211-8381 204
http://www.kunstsammlung.de/
スイス生まれのパウル・クレーは、20世紀のドイツを代表する画家である。1911年にワシーリー・カンディンスキーと知り合い、表現主義のグループ『青騎士』に参加。20年代には造形学校バウハウスのマイスター、そしてデュッセルドルフ美術アカデミーの教授を歴任するが、ナチスの台頭後まもなく“退廃芸術家”とみなされて国を追われ、1940年にスイスで死去している。
60年の生涯で遺した作品の数は約9000点。モザイク状のカラフルな幾何学的抽象画や、謎めいた表情を湛える魚や猫の絵、晩年のシンプルな天使のスケッチなどを、読者の皆さんもご存知ではないだろうか。作品のほとんどが小品なのに、クレーの絵は不思議と観る人を引き込んで放さない。作風こそ時代とともに変わったが、クレーの絵には常に静かな詩情とバランス感覚が通底している。キュビズムやシュールレアリズムなど、様々な美術の潮流が押し寄せては去っていった20世紀前半、クレーが結局はどの流派にも属さず独自の位置を確立できたのは、自然から学んで人間を相対化する、東洋的とも言える世界観が作品に反映されていたからだ。
クレーは、「芸術家は人間であり、人間は自然界の一部で、宇宙の座標のようなもの」と説いた。自然を観察し、木の葉や苔などを集め、自然界に存在する「数」や「比率」を分析した。自然の法則は造形にも生かせるし、生かすべきだとクレーは考えたのだ。造形は恣意でなく必然。そう認識したクレーだから、作品も過剰さやアグレッシブさと無縁に控えめで、調和の感覚に満ちたものになった。「絵画とは目に見えるものを写し出すのではなく、見えないものを見えるようにすることだ」とも発言している。
さて、展覧会ではクレーのこうした精神世界を改めて検証すると同時に、作品に使用されたマテリアルにも焦点を当てることで、その創造プロセスをより深く掘り下げる。クレーは伝統的な画材にこだわらず、様々な素材を投入してその芸術的効果を確認する堅気な職人でもあった。たとえば油彩、パステル、墨、チョークといった異なる画材はもちろん、カンバス表面に厚紙、絹、ジュートなど異色の素材を使って効果を試した。額縁もクレーにとっては作品の一部で、作品ごとに慎重にフレームを選んでいる。今回の展覧会では、有名な「ラクダ」(1920年)などの作品を、表だけでなく裏からも見えるように展示し、クレーの素材研究の軌跡を明らかにする。
本展はまた、クレーを支援した画商やコレクターの存在もクローズアップする。たとえば州立美術館の100点にしても、もともとは1960年に州が米国のコレクターからクレー作品88点を一括購入したことが決定的であり、その裏には当時の州首相に働きかけたスイス人コレクター、エルンスト・バイエラーの存在があった。さらに、絵の裏側に記された貸出記録をもとに、過去半世紀の間にクレー展が催された各国の政治事情と当時の世相もドキュメントしている。クレーの作品世界だけでなく、クレーを起点に広がる現実世界を十分に満喫できる展覧会だ。
(NRW州立美術館非常勤スタッフ・田中聖香)
* 読者の皆様を、9月28日(金)午後7時からのオープニングにご招待いたします。お誘い合わせの上、どうぞお越しください。また28日(18 時以降)、29~30日(全日)には会場前の公園Ständehausparkで「光の祝祭」が開催されます。オープンエアコンサート、美しいイルミネーション、ロマンチックなボートツアーなどの催しがあります。9月28~30日までの3日間は、展覧会、「光の祝祭」ともに入場は無料です。
* 展覧会会場は、クレー作品を常設しているK20でなく、K21です。ご注意ください。
* 日本語によるガイドツアーは10月28日(日)、11月11日(日)、12月9日(日)の11:30~12:30に予定されています。
お申し込み、お問い合わせは田中まで。
Tel: 0160-944 64 170,
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