ジャパンダイジェスト

カンディンスキー、マレーヴィッチ、モンドリアン特別展 限りなく白い深淵


カンディンスキー、マレーヴィッチ、モンドリアン。
20世紀を代表する3人の抽象画家の作品を、
デュッセルドルフのK20が
「白」というテーマに基づいてセレクトし、特別展を開催する。
題して『限りなく白い深淵』。
通常はカンバスの上で脇役に甘んじる白という色に、
3人の作家はどのような想いを込めたのだろうか。

2014年4月5日(土)〜7月6日(日)
開館時間:火水日祝 10:00–18:00 木金土 10:00–22:00 月曜休館
入場料:大人12ユーロ、割引9.50ユーロ
Kunstsammlung NRW K20 Grabbeplatz
Grabbeplatz 5 40213 Düsseldorf
Tel: 0211-8381 204 www.kunstsammlung.de

ワシーリー・カンディンスキーはロシア出身、「抽象絵画の父」と称される作家だ。彼は、音楽が“対象”を介さずに聴く者の感性や感覚を直接喚起するのと同じように、絵画が具象の物語性から離れ、純粋な色彩と形態だけで見る者に働き掛けることを目指した。

カンディンスキー初期の抽象絵画は、野獣派にも通じる色彩の乱舞が特徴的だが、後期の作品では色彩と幾何学的造形が画面上ですっきりと統合されている。そこで「白」は重要な役割を果たした。色彩が“和音”を奏でる役割を持つならば、白は“無音”、つまり静寂の役割を果たし、画面全体に安定感を与えている。色と形の冒険を繰り返してきた画家にとって、白はすべての色が消えた世界、喜怒哀楽や創作の葛藤を包み込んでくれる宇宙の象徴だった。カンディンスキーは言う。「白は我々の精神に大きな沈黙として働き掛ける。それは死ではなく無限の可能性なのだ」と。

カンディンスキー

一方、同じくロシア出身のカジミール・マレーヴィッチは、色や形を画面からどんどん排除していくことで、創作の意味そのものを揺るがす作品群を世に送り出した。カンディンスキーが様々な色や形の心理的効果を作品に利用したのに対し、マレーヴィッチは白黒の円や正方形だけを使うことにより、作者の意図や鑑賞者の感想の一切を拒否したのだ。その過激さは、ロシア革命という時代背景抜きには語れない。新時代を創造するには、芸術においてもすべての既存のアプローチを超越する理念が必要だった。

マレーヴィッチにとっては、「白」こそが革命への回答だった。彼は、「白く自由な限りない深淵が我々の前に横たわっている」と語っている。色を超え、理念として立ち現れる「白」。マレーヴィッチはそこに、どこまでも自由な「無」を見ていた。それは停止や無気力感ではなく、色やフォルムを意識的に超えて勝ち取られた、未知数としての「無」だったのだ。

そして、オランダの作家ピエト・モンドリアンである。その作品は1度見れば、まず忘れることはないだろう。真っ白なカンバスが黒い縦横の直線で分割され、線の交わりによってできた四角形のうち、ごく一部が赤、青、または黄色で塗りつぶされている。同じ幾何学的抽象であっても、有機性を感じさせるカンディンスキーの作品に比べて、無機的で取り付く島がない印象だ。

マレーヴィッチ

しかし、モンドリアンにしても、自分が肯定する世界の原理を描こうとした点ではカンディンスキーやマレーヴィッチと一致する。モンドリアンは、そのミニマルな表現で、どこまでも静謐で均衡の取れた世界を表現した。2度の世界大戦の狂気と混沌を体験したモンドリアンにとって、作品上の完璧な秩序は作家として、そして人間としての意思表示だったのだ。「コンポジション」というタイトルの作品が多いが、カンディンスキーの同題の作品群が「作曲」へのオマージュであったのに対し、モンドリアンのそれは「構成」である。そこでは、白が画面のほとんどを埋めることで初めて、最小限の線と色が最大限の意味と効果を持つことになる。

作品にそれぞれのユートピアを託した3人の作家たち。彼らが描いた未来が実現したのかどうか、本展の「白」を見つめながら考えてみたい。

(Kunstsammlung NRW 非常勤スタッフ 田中聖香)

 
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