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唯一無二のオペラ歌手を目指して バリトン歌手
木村善明さん

西ドイツの中都市・ビーレフェルトの歌劇場で、一人の日本人オペラ歌手が活躍している。バリトン歌手の木村善明さんは、2014年に同劇場の専属ソリストとして契約を結び、2018年には楽劇王ワーグナー作品の主役に抜擢された。本場欧州の荒波にもまれながらも、自分らしく演じることを追求してきた木村さんの素顔に迫った。(Text:編集部)

アルベリヒを演じる木村さんアルベリヒを演じる木村さん(楽劇『ラインの黄金』より)

木村善明さん(きむらよしあき) 岡山県倉敷市出身。 2007年に渡独し、カールスルーエ音大オペラ研修所、シュトゥットガルト音大、トロッシンゲン音大、仏・トゥーロン音楽院、白・フランダース歌劇場オペラスタジオで研鑽を積み、ドイツ国家演奏家資格取得。2014年より、ビーレフェルト歌劇場専属歌手ソリスト。 www.yoshiakikimura.net

欧州のオペラ歌手は「歌うサラリーマン」

どこの街にもたいてい劇場があるドイツでは、人々は映画を観に行くようにオペラを観に行く。木村善明さんが活躍するビーレフェルトも例外ではない。オペラ歌手が一つの職業としてきちんと成り立っているのは日本との違い、と木村さんは言う。

「専属ソリストの契約は1年ごとの更新ですが、毎月決まった給料をもらえ、年金や保険も完備されています。いうなれば『歌うサラリーマン』ですね(笑)。この夏、スイスで屋外オペラで歌う仕事があったのですが、ビーチサンダルに短パン姿で来るお客さんもいました。みんなワインを飲んで、ほろ酔い気分でオペラを鑑賞。こんなアットホームな雰囲気も欧州ならではですね」

アジア人としてぶち当たる壁

しかし、身近で楽しいオペラの雰囲気とは裏腹に、本場欧州でアジア人として歌うことの厳しさも痛感している、と木村さんは続ける。

「常に欧州人よりも結果を出さないと、アジア人は厳しい目で見られます。公演後に、発音が変だった、間違ったキャスティングだったのでは、と言われることも。逃げ出したいことは何度もありました。でも、そこで毎回自分に問うんです。『歌いたいのか?歌いたくないのか?』。歌いたいんだったら、文句を言わずにやるしかありません」  

そう話す木村さんは、毎日のトレーニングを欠かさず、時間が取れる限り遠方の恩師のもとまでレッスンに通うなど、いいものを作り上げるための努力は惜しまない。公演のない平日も稽古三昧だという。

「10~14時が稽古時間、14~18時が休憩時間、18時からまた稽古……というのがスタンダードな平日の時間割り。土曜日は午前だけ稽古をして、その後公演があったり、日曜日にもよく公演があります。休憩時間にスーパーに買い物に出かけたり、自主トレーニングをしています。

忙しい時期は3つのオペラを掛け持ちするので、ドイツ語の公演をしながら、英語の稽古をし、次の日の公演はイタリア語……ということも。常にフル回転ですね」

また、出演作品の予習や役作りにも余念がない。とりわけ驚いたのは、歌詞をすべて日本語に訳していることだ。

「歌詞を自分の言葉で表現することで、役への理解が深まると思っています。キャラクターがもっと生き生きするし、稽古のときに『僕はこう演じたい』とディスカッションができるんですね。ただのイエスマンではなく、一緒に作り上げていくことで、唯一無二の歌手になれると信じています」

大役を終えても、まだまだ進化中

木村さんのそうした努力が実り、2018年に念願のワーグナー作品の主役に抜擢された。大役アルベリヒを演じた『ラインの黄金』では、キャラクターを徹底的に研究するなど準備を重ねてきたが、極度のプレッシャーからリハーサルで声が出なくなるというハプニングに見舞われたり、毎回の本番で2キロも体重が落ちたという。

「全8回の公演でさまざまな評価があって、オペラ歌手としての厳しさを痛感しました。お客さんの心に残る歌い手を目指して、人間的にも歌手としても成長していきたいです。数年後にまた同じ役を演じたら全く違うものになるかもしれません」と意気込みを見せた。

一見ストイックにも見える木村さんだが、最近音楽とは全く違う、新しい趣味ができたとか……。

「頭を空っぽにする時間をもったほうが良い、という友人からのアドバイスで、先日初めてお菓子教室に参加しました。もともと料理好きなのでとても楽しかったし、さまざまな分野の方と知り合えるし、これがいい気分転換になるんですよ」と、最後にチャーミングな素顔を見せてくれた木村さん。確実に進化し続ける木村さんのさらなる活躍に期待したい。

ウェーバー作オペラ「魔弾の射手」ウェーバー作オペラ「魔弾の射手」でカスパールを演じる木村さん

ガソリンレズニチェク作オペラ「ガソリン」で木村さんが演じたプラムケイク

木村さんが出演するオペラ公演情報

オペラ「椿姫」 ヴェルディ作曲 / マルケーゼ役
2018年10月6日(土)、10日(水)、24日(水)、28日(日)
11月2日(金)、11日(日)、17日(土)
12月6日(木)、11日(火)、29日(土)

オペラ「魔笛」 モーツアルト作曲 / 弁者役
2018年10月20日(土)、11月4日(日)、12月8日(土)

オペラ「ヘンゼルとグレーテル」 フンパーディング作曲 / ペーター(父)役
2018年12月1日(土)、4日(火)、7日(金)、23日(日)、25日(火)

会場はすべてビーレフェルト歌劇場
ビーレフェルト歌劇場 https://theater-bielefeld.de

 
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