ジャパンダイジェスト

マイナーな品種の魅力

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このごろは、ドイツワインといえば白ならリースリング、赤ならシュペートブルグンダー(仏語: ピノノワール)というイメージが定着しています。いずれもドイツワインを代表する伝統的な品種で、ミュラー=トゥルガウやケルナーなどの交配品種が人気だった時代は、過去のものとなりました。

それぞれの地域に固有の伝統品種への回帰は世界的な現象で、失われつつある伝統品種を発掘すること、再発見することに関心が高まっています。加えて、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどのフランス品種もすっかり定着し、オーストリアやイタリアの伝統品種を栽培し始めている造り手もいます。また、ビオワインへの関心から低農薬栽培が可能な新たな交配品種が誕生しており、ドイツワインに使われるぶどう品種は現在、多様化の時代を迎えています。

本連載では10回にわたり、ドイツで栽培されているぶどう品種を網羅しましたが、今回はまだご紹介していないマイナーな伝統品種を取り上げてみます。

そのうちの一つが白品種のオクセロワ。オクセロワは、19世紀に中欧で盛んに栽培されていた白品種ホイニッシュとピノ系品種(ブルグンダー系品種)の自然交配といわれています。ホイニッシュは東欧や南欧から中欧にもたらされた品種、ピノ系はブルゴーニュがルーツの品種です。ホイニッシュとピノ系の自然交配品種にはほかに、ブルゴーニュの白品種であるシャルドネとアリゴテなどがあります。

オクセロワの名称の由来は、フランス、ブルゴーニュ地方の伯爵領だったオセール(Auxerre)だという説が有力で、現在もオセールという場所が存在します。オクセロワは、かつてシャンパーニュ南部地域やブルゴーニュで、混植されていたようで、それが他国に伝わったのは、17世紀後半以降、迫害に遭ったユグノー教徒(フランスのプロテスタント教徒)が新天地に苗を持ち込んだからだといわれています。

オクセロワは現在、ドイツ以外ではフランスのアルザス地方とルクセンブルクで栽培されています。出来上がるワインはヴァイスブルグンダー(仏語: ピノブラン)を思わせますが、より果実味が感じられ、酸味の穏やかな魅力的なワインに仕上ります。 従来、オクセロワはピノ系の白ワインにブレンドされることが多かったのですが、その魅力に気付いた造り手たちが、単独でワインとしてリリースするようになっています。

オクセロワ以上にマイナーなのがオルレアンという白品種(第49回醸造所& ワインナビ)。この品種も19 世紀までは広範囲で栽培されていましたが、現在では絶滅の危機にひんしています。カール大帝(シャルルマーニュ大帝、在位768~814年)がフランスからラインガウにもたらした品種だといわれ、12世紀にラインガウ地方エーベルバッハ修道院のシトー会修道士らが本格的に栽培を始めたそうです。オルレアンはかつて、ラインガウの急斜面の畑など、条件の良い畑で栽培され、優れたワインを生み出していました。

19世紀後半以降、リースリングの栽培面積が急増したため、オルレアンはすっかり姿を消してしまいましたが、1980年代にリューデスハイムの畑で古木が見つかり、いくつかの醸造所が再び栽培しています。独特のスパイシーさと力強さを持つオルレアンは、おそらくドイツで最もレアなワインでしょう。

 
Weingut Wöhrle
ヴォルレ醸造所

Weingut Wöhrle
マルクス & タニア・ヴォルレ夫妻

1979年よりシュヴァルツヴァルトのシュタット・ラール醸造所を借りてワイン造りを行っていたハンス&モニカ・ヴォルレ夫妻が、1997年に同醸造所を購入、2013年に名称を変更し、誕生した醸造所。当初から厳格なエコ基準に従ってワイン造りを行っている。現在は息子のマルクスと妻のタニアが中心となって、ワイン造りを行う。畑の多くがフランス、アルザス地方を見渡すシュッターリンデンベルクの斜面にある。畑の土壌は石灰質が混ざる礫岩(れきがん)をレス土が覆う。2004年にVDP会員となり、VDP格付けの一級畑と特級畑から偉大なワインを生産。なかでもラールの特級畑キルヒガッセはヴォルレ醸造所の単独所有で、グラウブルグンダーとシュペートブルグンダーが生産されている。

Weingut Wöhrle
Weinberg Str. 3
77933 Lahr
Tel. 07821-25332
www.woehrle-wein.de


Lahrer Auxerrois trocken 2015 Lahrer Auxerrois trocken
2015年 ラーラー・オクセロワ 辛口 9.50€

ラールでは1950年代からオクセロワ種が栽培されていたという。ヴォルレ家では創業時から生産しており、現在の栽培面積は2ヘクタール。その後、植え替えを行い、樹齢は15~25年を迎えたところ。ぶどうが熟しすぎると酸味が失われるので、収穫のタイミングには細心の注意を払う。オクセロワはピノ系品種の中でもとりわけ繊細でエレガントなワインに仕上る。控えめな味わいゆえ、軽快で繊細な料理に合い、和食との相性が良い。VDP基準のオルツワイン(村名ワイン)としてリリースしている。

(※2015年は完売、http://www.vicampo.deで購入可能)

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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