法定後見人が大切な理由 その1
「お世話になります……」
人は誰でも、「老後を元気に過ごしたい、そして人生の最期はすっきりと」と、思うものです。「自分はきっと大丈夫」と信じている人も多いでしょう。ところが周囲を見渡してみると、現実はなかなか厳しいものだと分るはずです。
自分と家族の老後のために、今回は「Betreuer」について考えてみましょう。
事故や病気で、あるいは自然に年を取って、ドイツで介護が必要になった際に、決定的な役割を果たすかもしれないのが、この「Betreuer」です。人によっては「世話人」と訳し、介護法施行以前の法律用語の「後見人」と区別しているようです。しかし、世話人という言葉がもたらすイメージと、「Betreuer」が実際に担っている重要な役割とは、どうもしっくり結び付かないので、ここでは仮に「成人の要介護者に対しての法定後見人」という意味で「後見人」と呼びます。
なぜ後見人が重要な役割を担うかというと、本人が自分で判断したり、決めたことを表現・実行できなくなったりする状況に陥ったとき、その人が事前に「全権委任の代理人*」を定めていなかったという場合に裁判所から任命されて、実に様々なことを決めていくからです。
ドイツでは、夫婦、または親子だからといって、自動的に被介護者の医療処置や財産に関する発言権・決定権を持つわけではありません。本人が存命中は、代理人か後見人になる(後見人であれば裁判所から選任される)ことで初めて、その権利を持つのです。後見人には、家族やボランティアなどの無償の後見人のほかに、弁護士や職業後見人会(法人)に所属する有償の(職業)後見人もいます。
一般的な流れとしては、まず介護が必要だという医者の診断があり、本人が自分で物事の処理や決定ができないようなら、裁判所は被介護者が望む人の中から後見人に任命する人を選びます。そして被介護者の必要に応じて、後見裁判所が後見人の関与すべき範囲を決めます。介護保険がカバーする範囲以外の必要事項、たとえば役所への事務処理(被介護者が財産などについて代理人を決めていない時は)や家計の管理のほか、裁判所の許可を得て被後見人の居住地の決定なども行います。
後見人が判断を下す際、一番基本となる指針は、「後見人は自分が看ている被後見人の利益のためにのみ行動しなければならない」ということです。被後見人が分別のつかない状態になっていて、自分に不利な売買契約をしたら(例えば、携帯電話を20個も購入してしまったり……)、それを解約するのも後見人の仕事です。
また、被後見人が、すでにこのコーナーで扱われた「医療事前指示書」(10月5日発行939号、11月2日発行941号に掲載、意思表示ができなくなる場合に備え、医療処置について患者自身が事前に指示すること)を書いていればそれに従って、書いていないときには「自分がこの人だったらこうしたいであろう」と、その本人に代わって医療上の最重要事項を決めることもあります。後見人の役割は、実に多様かつ重要なのです。
次回は、ドイツ国内で暮らす邦人にとっての後見人と文化の違いに拠る問題点などを考えていきましょう。
- Pflege (f) 介護
- Betreuung (f) 世話・後見
- Betreuungsgericht (f) 福祉・後見 裁判所
- Betreuer (m) (ここでは成年の要介護者のための)後見人
- Bestellung (f) 後見人の任命(書)
- Bevöllmächtigter (m) 全権を委任された代理人
(m) 男性名詞、(f) 女性名詞、(pl) 複数