ジャパンダイジェスト

法定後見人が大切な理由 その2
「お寿司が……」

執筆 : 渡辺・レーグナー 嘉子

ドイツで暮らす皆様の中には、ドイツが第2の故郷になっている方もいらっしゃるでしょう。そして、長年ドイツを生活の拠点にされてきた方の中には、多少の不安はあるにしても、老後も引き続きドイツで過ごそうと考えている方が多く存在するのではないでしょうか。

老後 ドイツで老後を迎えるに当たり、前もって準備すると良いことは、ドイツ語を今ほど巧みに操れなくなるような状況に備えて、日本語ができる人にお世話を頼んでおくことです。また、日本食が食べたいとき、その気持ちをしっかりと理解し、用意してくれる人や団体などとコンタクトを取っておくことです。高齢期に外国暮らしで起こりうる最大の問題点は、まず「言葉」と「食事」だと言われています。

病気やけが、老齢などを理由に介護を要し、介護手続きなど諸々の対応が自力でできない人には、代理人や後見人が必要になるということについて、前回はお話ししました。その後見人が、日本文化を理解していない場合、様々な問題が起こり得ます。

例えば実際にあった例ですと、ドイツで介護を受けている日本人は必ずと言っていいほど、お寿司を恋しがります。ところが、後見人がお寿司に違和感を抱いていたり、衛生上の不安を感じていたりする場合、お寿司が本人のところに届くことはありません。

寿司 このような場合、お寿司が多くの日本人にとって、とても懐かしい食事であること、時には生のお刺身を食べたい気持ちになるということを後見人に説明し、しっかり納得してもらった上で、お寿司を調達してもらう必要があります。本人が自分で説明できない場合は、家族なり友人なりが後見人と話し合う機会を持たなければなりません。こういった精神面に大きな影響を与える食事の補助も、文化の違う国で老後を過ごす場合はなおさら、後見人の大切な仕事となります。

さらに、現在のドイツの介護方針では、介護を受けている人が旅行を希望する場合(友達に会いたい! もう一度日本で温泉に入りたい! など)、健康状態や経済状態に応じてその旅行を実現してもらうことができます。その場合、裁判所への申請など、準備をするのも先に述べた後見人です。

日本への旅行の手続き、同行に際しては、後見人が日独両方の言語に通じている人であれば、比較的スムーズに進みます。とは言え、ドイツで介護を受ける場合、事務手続きの点でも、ドイツの事情に通じていると言う点でも、やはりドイツ人の後見人が有利かもしれません。その場合は、日本語や日本の事情によく通じている人を「第2の後見人」に決めておくようお勧めします。日本旅行をする場合には、日本での金銭的な処理、住居や、医療についての決定権など、通常は後見人が裁判所から任命される権限を、日本への旅行中だけ、日本人の「第2の後見人」に移行してもらいます。そして、それを証明するアポスティール(一種の国際証明書付箋)を持って日本に行けば、被介護者のために日本滞在中に必要な様々な決定を、第2の後見人がすることができます。なお、滞在中の医療費などは、診断書、領収書をもらっておいて、ドイツに帰国してから保険会社と清算します。

そのほかにも、日本に家族や友達がいたり、財産があったりする場合、日本語が堪能な人が代理人や後見人になっていると助かることがたくさんあります。友達、家族同士でよく話し合って後見人を決めておくことをお勧めします。

関連ドイツ語
  • Apostille (f)付箋としての国際証明書
  • Vertretung (f) (第2の後見人等の) 代理(の者)
  • Amtsgericht (n) (後見人等を管轄する)簡易裁判所

(m) 男性名詞、(f) 女性名詞、(pl) 複数
渡辺・レーグナー 嘉子(わたなべ・レーグナーよしこ) 公益法人文化を配慮した介護 DeJaK-友の会の代表。2011年、"老後を考える会"の代表として、ノルトライン=ヴェストファーレン州の厚生大臣より表彰を受ける。日本語教師。 「ドイツ会話と暮らしのハンドブック」(三修社)、「 Bildwörterbuch zur Einführung in die japanische Kultur : Architektur und Religion」(Buske)など、日本とドイツで出版した著書多数。
 
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