5月8日、第二次世界大戦でのドイツの無条件降伏から75年目となる終戦記念日を迎えました。
今年のこの日は、ドイツ16州の中でベルリン市だけが例外的に祝日に指定されました。当初はライヒスターク(連邦議会議事堂)前で1500人以上もの来賓を招いて大規模な公式行事が行われる予定でしたが、コロナ危機により中止に。その代わりに、メルケル首相ら国の代表者5人によってウンター・デン・リンデンに面したノイエ・ヴァッヘで小さな追悼式典が催されました。戦争と圧政の犠牲者を追悼するドイツの中央記念碑であるノイエ・ヴァッへの内部には、死んだ息子を抱きかかえる母親を描いたケーテ・コルヴィッツ作の「ピエタ」が置かれています。
ノイエ・ヴァッヘに置かれ たコルヴィッツ作の「ピエタ」
シュタインマイヤー大統領はスピーチの中で、戦後初めて5月8日を「(ナチス支配からの)解放の日」と位置付けたヴァイツゼッカー大統領による1985年の有名な演説を引き合いに出し、こう述べました。「(1945年の)あの日、私たちは解放されました。今日、私たちは自らを解放しなければなりません。ネオナチの誘惑、国家間の不信や分断、ヘイトや扇動、よそからの人に向ける敵意や民主主義をさげすむ動きなどといったものからです。それらは新しい衣装をまとった古くからの悪の亡霊にほかなりません」。ショイブレ連邦議会議長は、「この5月8日に私たちはハーナウやハレ、カッセルの犠牲者にも思いをはせます。それらはコロナ危機により忘れ去ってはいけません」と述べ、昨年からドイツで立て続けに起きた極右テロ事件への注意を喚起しました。
この日の21時45分からは、ダニエル・バレンボイムの指揮でシュターツカペレ・ベルリンのメンバーが無観客のベルリン国立歌劇場にて記念コンサートを行い、公共テレビチャンネルの3satが中継しました。コンサートは、最大14人の小編成。音楽家同士の間に十分な距離を取ったなかで、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」とワーグナーの「ジークフリート牧歌」が奏でられました。30分ほどの短いプログラムでしたが、久々にライブ中継で聴く音楽は心に染み入るものがありました。
5月8日夜、ブランデンブ ルク門に各国語で浮かび上がった「ありがとう」のメッセージ
23時半から30分ほど、ブランデンブルク門に「ありがとう」を意味する言葉がロシア語、フランス語、英語、ドイツ語で映し出され、夜空に浮かび上がりました。連合軍がヨーロッパをナチス支配から解放したことに対する感謝を表現したものです。今年の5月8日には、2015年の戦後70年の終戦記念日に見られた祝賀ムードが入る余地はありません。しかし、行動を制限されたなかで日常を送る私たちに、「自由」や「解放」の意味や価値を静かに問いかけてきた、今年の節目の日でした。