今年の5月は、記録が残る1881年以降2番目に雨の多い月となりました。1日中雨が降る日が毎日続いた後、ドイツのみならず、チェコやオーストリアなどの中欧地域が大洪水に見舞われ、約4万人が避難。ドイツではメルケル首相が80億ユーロの緊急支援を発表する事態となりました。
エルベ川が増水しているという話を近所の人から聞いて見に行くと、川沿いの道は冠水し、そこに建つレストランの前に土嚢が積まれているところでした。街の中心にあるアウグスト橋の上や両岸は、増水に見入る人々でごった返していました。川から700メートルの距離にある我が家に被害はありませんでしたが、知人が避難生活を送ったり、学校が閉鎖されて近所の子どもたちが早めに帰宅したりするなど、非日常的なことが続きました。
川沿いのレストラン前(右奥)にはバリケードや土嚢が築かれたものの、
その甲斐なく、後日浸水していました
川の水位上昇に伴ってエルベ川沿いの地区で緊迫した日が続いた後、ツヴィンガー宮殿やゼンパーオーパーが被害を受けた2002年の大洪水に迫る勢いだというニュースが流れ、再びアウグスト橋周辺に出掛けてみましたが、つい数日前の土嚢積み作業の甲斐もなく、前述のレストランは冠水していました。水は同店のビアガーデンを通り越してその先の地下通路を完全に満たし、川幅が異常に広くなったことで、好奇心旺盛な鴨や白鳥が普段では見られない場所で泳ぎ回っていました。
いよいよ増水がピークに達した日の夕方、車でエルベ川沿いの道を東へ走ってみました。川沿いの道路際には土嚢が積まれており、建物は水に浸っている状態。土嚢の下から水がしみ出していました。水は1mmでも低い方へ流れていくので、もし土嚢がなかったら、もっと広範囲に水が出ていたことでしょう。02年の大洪水後に増設された防護壁すれすれのところに水面があり、その水量の多さは不気味でさえありました。
橋の向こうの遊歩道は冠水。緊迫したエルベ川の前線
以前にご紹介したウビガウ地区(2013年2月15日発行948号)では、人海戦術による土嚢積み作業の掛け声が大きくこだましていました。ビール瓶を片手に歩き回って増水見学をする人々、土嚢の壁の前のビアガーデンに座って目の前の水の流れを見ながら談笑している人々の姿には驚かされました。確かに洪水の被害は川沿いの地域だけなので、それ以外の場所では、人々はごく普通に生活していたのです。
02年の大洪水後の洪水対策が、所々で功を奏していました。しかし、ドイツではコンクリートが嫌悪される傾向があり、コンクリートの防護壁に反対する住民もいます。景観と防災の妥協点を探るのは難しいことなのです。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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