ザクセン選帝侯アウグスト強王(1670〜1733)が日本や中国の陶磁器コレクションを陳列することを夢見て建てたドレスデン市内の日本宮殿(Japanisches Palais)では、2月22日まで「Logical Rain―雨の形跡― Die Logik des Regens」と題し、日本の染色の型紙の展覧会が開催されています。最もセンセーショナルだったのは、これらの型紙が、強王が愛妾に贈ったピルニッツ城(Schloss Pillnitz)の装飾美術館の倉庫の中で約125年間、一度も展示されたことがないどころか、人知れず眠り続けていたところを発見されたことです。その数は1万5000点以上に上り、92箱もの保管箱に納められていたそうです。この発見により、ドレスデン市は一気に世界最大の日本の染色型紙コレクターとなりました。そして、この大発見に対する驚きと誇りは、展覧会広告にストレートに表現されていました。
100枚以上の型紙の長い展示は圧巻
型紙は19世紀の欧州を熱狂させたジャポニズム・ブームに乗ってこの地へもたらされ、当時のアーツ・アンド・クラフツの分野や、興隆しつつあった工業デザインに多大なる影響を与えました。このような場所で日本の型紙が大量に発見されたのはなぜか……と不思議に思うかもしれませんが、ザクセン選帝侯自らが東洋陶磁の愛好家であったこともあり、ドレスデン市における日本への関心は、昔から比較的高かったことが要因であったのかもしれません。
今回の展覧会では、その膨大なコレクションの中から140枚が展示されました。キーワードは「雨」。その理由は主催者側いわく、多雨で米作に頼る国にとって、文化的にも精神的にも雨は重要な役割を担っているから。入り口前には、昨夏の台風時に降り続けた雨の映像が映し出され、入り口を入るとその正面には安藤広重作の浮世絵「唐崎夜雨」が。雨に煙る夜の松を、墨の濃淡と直線を駆使した独特の描写方法で表し、来場者はこの先の展示へと誘われます。日本人にはお馴染みの幾何学模様から抽象化された自然のモチーフである花鳥風月に至る型紙が、展示会場の長方形の大空間に1列に展示された様は圧巻です。明らかに雨をモチーフにした型紙もありますが、松葉や、直線だからといって雨の表現ではないと思われるデザインも展示されており、外国の人々と日本人の視点の違いが表れていて新鮮でした。片隅に積み上げられた年季の入った92個の箱は、大切に保存しようという当時の人々の気持ちが伝わってくるようです。入場無料。
型紙が保管されていた92個の箱
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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