フランクフルト大聖堂から程近く、ドーム通りにあるフランクフルト現代美術館(MMK)。ホールケーキをカットしたような三角形の建物で、5000点以上の現代美術作品を所有しています。現在MMKでは、フランス生まれの芸術家で、現代美術の父と呼ばれるマルセル・デュシャンの特別展が開催中です。
開館時間と同時に入館したにもかかわらず、すでにチケット売り場には行列ができていました。独特の建物の形と吹き抜けのホールの構造のため、スムーズに展示室を回れるように、入り口で館内案内図の付いた無料パンフレットを受け取るのがおすすめです。
MK IMAGE :三角の形が特徴的なフランクフルト現代美術館
入館するとすぐに、吹き抜けの明るい展示室に出ます。デュシャンの代表作が目次のようにホールに並べられたり、天井からつるされたりしていました。そのまま進むと、初期の絵画作品などが展示されています。デュシャンに絵画のイメージが全くなかったので、こうした作品も生み出していたのかと驚きました。
MMKの無料冊子。「泉」をはじめとする主要作品の解説も必見
やはり彼の代表作とされる「泉」はインパクトがありました。これは、サインを入れただけの男性用小便器に「泉」というタイトルを付けたもの。1971年に公募展で出品された当時、「これがアートと呼べるのか」と物議を醸しました。それこそがデュシャンの狙いであり、芸術を目で見るだけでなく、思考することを楽しむものへと昇華させたのです。これが、デュシャンが「現代美術の父」とされるゆえんです。
上の階ではロトレリーフと呼ばれる動くディスク作品が並びます。螺旋(らせん)や言葉遊びなどが描かれた円盤を回転させて立体的に見せており、さらにそれを使った「アネミック・シネマ」という7分間の短編映画作品も。視覚と錯覚を利用した光学実験的な作品で、視覚の不確かさと面白さを実感できる興味深い作品でした。
中央部分が吹き抜けになっている美術館内
さらに階下には、初期のものとは全く異なるキュビズム表現が特徴的な作品が並びます。人体を運動する機械のようなものとして表現した作品には、不思議な魅力を感じました。デュシャンはチェスの名手としても有名で、その腕前はフランス代表として国際大会に参戦するほど。チェスをモチーフにした作品や、自身がデザインしたミニチェスセットも展示されていました。
また「デュシャンに100の質問」と題したインタビュー映像があり、デュシャンの作品に対する考えや制作について、さらに理解が深まりました。さらに「大ガラス」と呼ばれる作品も、作品自体はもちろんのこと、制作過程をうかがい知れるメモやスケッチも展示されていてとても面白かったです。
「泉」などは教科書にも出ているほど有名な作品ですが、この展覧会では作品だけでなくコンセプトや考え方、制作過程や作品の変遷をたどることができます。芸術の概念に革命をもたらしたデュシャンならではの意図や構想に触れられる、刺激的な展示でした。
フランクフルト現代美術館:www.mmk.art
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。 Twittter : @nikonikokujila