子どもと一緒に日本に帰るとき、僕は地元の小さな図書室をよく利用します。子どもたちが日本語に触れる機会として、絵本の読み聞かせは貴重ですし、ゆっくり眺めながら手に取った本を、家で開く時間は贅沢です。小さな空間の方が子どもにとっては、かえって慣れ親しみやすい面がありますし、ちょっとした散歩で行ける距離は子連れにとっては、何よりありがたいことでした。
僕自身もドイツ語漬けの日々を送っていた時、突如日本語の活字に飢えたことがありました。その時はとにかく日本語に触れたくなって、自分の本を読み終わってしまうと、これまで興味を持っていなかった本でも知人に借りてむさぼり読んだものです。日本語の本には、起伏する精神状態を救ってもらった記憶が残っています。
絵本、漫画に加え、小説などもあります
ブラウンシュバイクに来て感動した場所の一つは、中央図書館です。本だけではなく、ボードゲーム、DVD、CD、朗読会、イベントなど、多岐にわたるものが充実しており、外国人である僕にとっても大いに喜びと学びが得られる空間でした。また英語、フランス語、スペイン語、トルコ語、ポーランド語など、多様な言語の書籍もありました。ここに日本語も加えてもらえたら、小さな日本人コミュニティーに受け継がれていく居場所になる……。そう思い、寄付するから日本語書籍を置いてもらえないかと、職員の人に掛け合ったこともあります。しかし、本を管理していくには、司書の専門的な知識を身に付け、かつ日本語が堪能な職員の力が不可欠とのことでした。そういった経緯があり、図書館に日本語のスペースをつくることは難しいと諦めていました。
ところが最近、郊外にある図書分室に日本語の書籍コーナーを設置できることになりました。そこは学校の一角にある、ボランティアの人が運営する図書スペース。コンピューターとバーコードではなく、図書カードとハンコで蔵書を管理しているところは、子どもの頃に通った昔の図書室を思い出させました。家から近く、手ごろな広さで、家族で定期的に利用させてもらう大切な場所だったのですが、最近利用者がだんだん減ってきて、図書室がなくなるかもしれないと、ボランティアの方から聞いていました。そこで、空いている棚に日本語の書籍を置いて、日本人の利用者を増やすという実験的な試みを、僕たち家族と共同でやってみることになったのです。
書籍の寄付も大歓迎です!
先日、日本人の親子コミュニティーに呼びかけ、みんなで日本語コーナーを利用しました。コロナ対策で、室内には10名までしか入れませんが、室外で日本語の読み聞かせを行い、子どもたちと楽しい時間を過ごすことができました。来ていただいた方々にも好評だったので、これからは月1回(第二金曜日)ペースで「日本語の本の集い」を続けていきたいと思っています。
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
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