少し前になりますが、4月30日~5月4日まで「プロテスタント教会の日」(Deutscher Evangelischer Kirchentag)という催しがハノーファーで開かれ、ドイツ全土から30万人が訪れました。多くの人が一つの目的のために集まっている風景は一体感を感じさせ、部外者の私も温かい気持ちになりました。教会の日の催しは1949年にハノーファーで始まり、隔年に各地持ち回りで開かれています。ハノーファーでの開催は5回目で、今回のテーマは「勇気、強さ、心を込めて」(mutig - stark – beherzt)でした。
ろうそくを持つ人々
市内のあちこちが会場となり、 さまざまな団体が参加し、盛りだくさんのプログラムでした。今日では戦争や差別、そして気候変動などにより、不安が募っている人も多いでしょう。それでも問題から目を背けず、不確かな社会情勢の中で勇気を失わずにいようという話がありました。キリスト教ですから、もちろん神の話も出てきます。
市庁舎前の広場で開かれた開会式では協会関係者や市長、大統領が登壇し、合間には2000人の奏者による管楽器の演奏がありました。その音色とパワーは通常のコンサートでは味わえない力強さがあり、鳥肌が立ちました。人々のエネルギーがうねるように集結して、今ここにしかないものを作り出している。誰も強制しないし、されない。皆、自由意志でここに集まった。それだけですごいことだと感じました。
市庁舎前広場で野外コンサート
オペラハウス前の広場もコンサート会場となり、全国から招待された歌手やバンドが演奏しました。人種差別やLGBT、貧困など社会的テーマを扱った歌もあり、トークでは「現代社会と神」をテーマに話すアーティストもいました。ある歌手は「搾取は無くせる。人間が搾取しているのだから、それを人間はやめることができる」と話し、喝采を浴びました。一般的なコンサートのように見えるけれど、背後にはイエス・キリストがいて、神の愛が前提にある。何とも不思議でした。
折り鶴で平和を願う
夜9時半になると、来場者にろうそくが配られ、一日を締めくくる祈りの言葉が捧げられました。年配の神父だけでなく、女性や若者などさまざまな人が舞台上で話をします。ユーモアたっぷりの人もおり、 飽きることのないよう工夫されていました。その後、「月が昇った」(Der Mond ist aufgegangen)の歌詞で始まる「夕べの歌」(Abendlied)が会場いっぱいに広がると、一体感はますます増し、しんとした神聖な空気が漂いました。
この催しには総勢15万人が訪れ、4000人のボランティアが関わったといいます。それにしてもなぜ隔年なのか。合間に「カトリックの日」(DeutscherKatholikentag)が開かれるからです。カトリックとプロテスタントの催しが交代で開かれるというのは、キリスト教がいかにドイツ人にとって大きな意味を持つのかを表していると思いました。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。