初めまして、ニーダーザクセン州ブラウンシュバイク在住の国本隆史です。今号から隔月でハノーファー周辺についてレポートすることになりました。今回は「旅するうどん屋さん」をテーマにお届けします。
秋雨が降りしきるブラウンシュバイクで行われた、本格讃岐うどんを作るワークショップ。自分の手でこねた生地が、麺カッターで均等に切られていくと、参加者の笑顔がこぼれました。講師である谷村ジョンさんは、広告代理店で働いていましたが、馴染めぬ仕事を辞して、うどんの修行をすることを決意したと言います。香川県でうどん学校を卒業した後、ワーキングホリデーで渡ったオーストラリアで、「店を持たないうどん屋」を開始。打ち立てのうどんを、ホームパーティーなどで1000人以上に振る舞うなかで、新しいアイデアが頭をよぎります。そのアイデアとは、旅をしながらうどんを作り、ワークショップを行うというもの。今春日本を出発し、アジア、ヨーロッパと、水や粉が違う土地でその特性を考慮しながらレシピを変え、現地の方の台所を借りて、おいしいうどんを提供してきました。初めて訪れたドイツでもSNSを活用しながら、ケルン、フランクフルト、デュースブルク、ヴォルフスブルクなどでイベントを開催してきました。
自作のうどんの味は格別!
「粉と塩と水を混ぜて足で生地を踏み、麺棒で伸ばしていった生地は、同じ材料であるにもかかわらず、でこぼこしていたり、表面の輝き方に個性が表れていて面白い」と谷村さん。ドイツ人は、ほかの国の人と比べるときっちりと作業をするので、見た目がきれいでおいしいうどんができることが多いとも言います。そういった文化の違いで話が盛り上がるのも、谷村うどんワークショップの醍醐味。子どもたちは、初めての体験に目を丸くしながら、茹で上がるうどんを箸を握りしめて待っていました。うどん好きのドイツ人男性は、これまで自分で作ったうどんよりも、格段においしかったと満足気に帰っていきました。
生地を均一の厚みに延ばすのが難しい
谷村さんには、うどんをツールにして世界中の人と繋がっていきたい、という思いがあります。デュースブルクでの会に参加した14歳の男の子の母親からもらったメールには、自分で作ったうどんを父親がおいしいと食べてくれたことで、息子が自信をつけたみたいだと綴られており、谷村さん自身のモチベーションも高まったと語ります。うどんを囲んだ後は、現地の人の家に泊めてもらうことも。「その土地に暮らす人にしか聞けない話を聞き、自分の無知に恥じ入ることもあります。自分が旅のなかで感じたことを話しながら、世界にはさまざまな働き方や生き方があることを示し、たくさんの方に人生の選択肢の幅を広げてほしいと願っています」と谷村さん。世の中を良くするために自分には何ができるのかと模索しながら、うどん文化を届ける谷村さんの旅は、さらにオーストリア、トルコへと続いていきます。
参加家族と講師で集合写真。右から5番目が筆者
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net