ハノーファーは、観光地としてはあまり知られていませんが、見本市の街として有名です。その代表格が、毎年春に開かれるハノーファー・メッセ(産業見本市)。今年は4月8~12日に行われ、世界各国から約6550社が出展、来場者数は約22万5000人を数えました。
今回の産業見本市で特に注目を集めたのがエネルギー分野。2020年までの脱原発を決めたドイツは現在、再生可能エネルギーを促進しており、この分野での技術革新を急ピッチで進めています。風力や太陽光、バイオマス、地熱による最新の発電技術をはじめ、熱と電気を同時に生み出す新型コジェネレーション(エネルギー供給システム)が披露されました。再生可能エネルギーは従来の集中大型発電と異なり、小型で各地に散らばっているのが特徴ですが、送電方法や、いかに効率良く消費者に届けられるかが課題とされています。
今年の見本市では、風力発電装置の技術が話題に
フォルクスワーゲンは、0.9リットルの燃料で100kmを走る車「XL1」を展示。空気抵抗を抑えたコンパクトな2人乗りの車は、真っ赤なスポーツカーのような外観をしていますが、究極の低燃費車です。また、今年秋に発売予定の天然ガスによる「ブルーモーション」もお披露目されました。わずか3リットル足らずで100kmを走るゴルフ・ブルーモーションは、すでにハノーファーのカーシェアリング「クイッカー」で使われています。天然ガスだと燃費が良いのはもちろん、CO2の排出量も走行1km当たり92gに抑えられます。
日本企業も、約40社が出展しました。中でも製造業者のインターネット活用を促進する企業「NCネットワーク」による中小企業の合同ブースでは、日本の製造業界の底力となっている様々な技術を紹介。関プレス社の割裂加工技術など、日本の質の高さと独創性に多くの人が興味を示していました。グローバル化が進む中、世界に向けて発信することの大切さを実感します。
NCネットワークによる日本の中小企業の合同ブース
ハノーファーでは年間約70の見本市が開かれていますが、3月のIT見本市Cebitと4月の産業見本市は世界最大級です。この街はどちらかというと地味な地方都市ですが、この時期ばかりは国際都市に様変わり。街は見本市を訪れる外国人で溢れ、レストランやホテル、小売店は大混雑します。ホテルの宿泊料も通常の数倍に跳ね上がるため、「民泊」をする人もいます。これは、一般家庭が部屋と朝食を提供し、バスルームなどは家族と共同で使用するというもの。毎年同じゲストを迎え、「メッセ・ママ」と親しまれている人もいて、見本市の時期の名物となっています。このようなところにも、ハノーファーが「メッセ都市」である様子がうかがえます。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、ドイツ語通訳に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。