昨年9月、初めて重力波によりブラックホールが観測されたと話題になったことをご存知でしょうか? 米国と欧州が協力しての世界的な発見に大きな役割を果たしたのが、ハノーファーにある重力波を使って天体観測をするレーザー干渉計型重力波検出装置「GEO600」です。去る7月31日、年に一度の一般公開の日があり、行ってきました。
アインシュタインは、100年前ブラックホールの存在を予言していました。相対性理論やブラックホールの存在にワクワクした人も多くいるでしょう。しかしその後、ブラックホールの存在は長らく確認できませんでした。昨年9月と12月にやっと、米国で二つのブラックホールが衝突した重力波を捉えることに成功。その世紀の大発見に寄与したのが、ハノーファーの「GEO600」なのです。
「GEO600」は、ハノーファー郊外の農村地域ザーシュテット(Sarstedt)に設置されており、基調線600メートルの真空状態のトンネルを直角に2本作り、地下の設備でレーザーの反射速度から重力波を観測しています。
重力波を生み出す設備
ブラックホールの衝突はごくまれとされていましたが、観測を始めて1年足らずで2回も観測されたことから、実際にはもっと多いのではないかと予想されています。
この大発見により、「GEO600」は地元で600回以上新聞や雑誌の表紙を飾ったそうです。一気に知名度が上がり、今回の公開日には1000人以上が訪れました。昨年は約200人だったのに、今年は予想以上の人出で受け入れ側もてんてこ舞い。当日は、観測室や地下室、コントロール室などを見ることができました。防護眼鏡をかけてレーザー線を出す部屋に入ったときは、複雑な構造とコードの数に圧倒されました。この心臓部が、ブラックホール発見に大きな役割を果たしたのだと思うと、感慨ひとしおです。
説明を聞く人たち
一緒に見学していた子供から出た「重力波で何が分わかるの?」という質問に、副施設長のクリストフ・アフェルトさんは「これまでの宇宙学というのは天体望遠鏡などで見ることが主だった。しかし重力波により、聞くことができるようになり、真っ暗な宇宙に新しい窓が開かれたことを意味します」と説明しました。同施設の代表であるマックス・プランク重力物理学研究所所長のカルステン・ダンツマン教授も「宇宙の99.6%は闇の中だが、宇宙の声を聞くことによって、その部分を解明できるようになった」と話し、重力波には宇宙や地球を知る大きな可能性が秘められていると力説します。
「GEO600」は岐阜県の重力波望遠鏡「かぐら」とも協力関係にあり、各国が連携することで宇宙についての解明がますます進みそうです。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。