先日、たまたまキール美術館の前を通り過ぎた際、鮮やかな青地の宣伝用垂れ幕が目に止まりました。それは、海原を行く風が吹きすさぶ船の上で悠々と洗濯物を干している紫色のワンピースを着た若い女性の絵でした。気になったので家に帰って調べてみると、今、同美術館で「帆船の世界(Welten-Segler)」と題して特別展示されているテオドール・ルックス・ファイニンガー(Theodor Lux Feininger)の作品の1つであることが分かりました。
彼の父で画家のライオネル・ファイニンガーは、バウハウスの運営に携わった人物で、兄のアンドレアスもまたニューヨークで写真家として名を馳せたそうです。テオドールは上の2人ほど知名度はないものの、画家として活躍した人物とのこと。アメリカ人画家でありながらバウハウスで修行したこともあるという、ドイツと縁の深い人物の作品をぜひ観てみたいと思い、美術館へ足を運んできました。
キール美術館。「船長の娘」のポスターが目を引く
さて、快晴の夏日に行ったからでしょうか、週末だというのに美術館はがらんとしていて、まるで私たち親子のための貸し切りのような状態でした。同美術館では特別展示とともに常設展示の現代絵画や、芸術と科学の関係をテーマにした「海の歴史」というタイトルの展示コーナーなども鑑賞できるようになっています。シュレスヴィヒ地方出身の北ドイツを代表する画家エミール・ノルデの作品も数点展示されていました。
お目当てのT・L・ファイニンガーの生誕100周年記念展の会場は3階で、そこには彼が1929~42年に制作した34点の油絵と20点のスケッチ、写真が展示されていました。油絵はどれも帆船や港町を描いたもので、その一画は展示タイトルの通り、まさに「帆船の世界」。それらの作品を鑑賞しながら、まだ航海では帆船が主流であった当時の様子を想像することができました。また彼の絵は、油絵なのにまるで水彩画のような独特なタッチで描かれています。写実的でもなく、絵本の挿絵に出てくるような、少しばかりメルヘンチックな作品という印象を受けました。
鑑賞を楽しんだ後は、美術館の目と鼻の先にあるキール湾沿いをのんびりと散歩し、ヨットの群れや、水族館の屋外プールで泳ぐ愛嬌たっぷりのアザラシたちを眺めてから帰路につきました。
8月29日(日)まで
Kunsthalle zu Kielにて開催。
入場料:大人6ユーロ、家族10ユーロ
www.kunsthalle-kiel.de
「大洋の真珠」と題されたT・L・ファイニンガーの代表作
7月4日付Welt am Sohhtagより
福岡出身。2005年に渡独。夫と娘との3人家族。キール・フィルハーモニー合唱団所属の音楽好き。最近凝っているのは家庭菜園。