6月13日、ライプツィヒで初めて「自転車の夜(Radnacht)」というイベントが開催されました。約1時間半にわたって市内の主要道路から自動車が消え、自転車のみが滑走できるというこの企画。主催者は本誌972号(2014年2月21日発行)で取り上げた環境団体エコライオンで、6月13日~7月3日まで開催されたイベント「都市を自転車で滑走(STADTRADELN)」の初日のハイライトとして行われました。
スタート地点のニコライ教会前に集まった参加者
イベントの実施に当たって、市のハイコ・ローゼンタール環境局長は「自転車に乗る人と環境に優しいライプツィヒの姿を一緒に示しましょう!」と市民に声を掛けました。8kmに及んだこの夜のルートは、ドイツ自転車クラブ・ライプツィヒ(ADFC Leipzig) が誘導し、約200人の市民が参加。中には家族連れや小さな子どもを乗せたリヤカーを付けて走る人、自動車の騒音を録音したテープを拡声器で流しながら走る人など、皆思い思いに楽しみながら、車のいない道路を走っていました。この夜だけは道路上で何よりも自転車が優先され、路面電車も走行者も信号機の色にかかわらず、自転車の列が通り過ぎるのをただ待っている状態でした。
自動車のない道路を滑走する自転車の列
今回のルートのスタート地点は中心市街地のニコライ教会の前。ニコライ教会といえば、トーマス教会と並んで歴史上、ライプツィヒの主要な教会として信仰と音楽の分野で重要な役割を果たしてきました。さらに東ドイツ時代には、東西冷戦の緊張の中で「平和の祈り」となる月曜デモが開かれるようになり、次第にその規模が拡大していった結果、教会を飛び出してデモ行進へと発展。1989年には、教会に集まった7万人ものデモ隊が市内の広場や通りを埋め尽くしました。これが東ドイツ全域の平和革命に繋がり、わずか1年後に東西ドイツ統一が実現したのです。
このようにして、ニコライ教会は「東西統一の出発点」として名を残すことになりました。今回の自転車イベントも、「自由の象徴」であるニコライ教会をスタート地点にしていることは、市民にとって重要な意味を持ちます。
これまで、道路は1933年のアテネ憲章で提案された「機能的都市」の構想に則って、車の走行を中心に据えて計画されてきました。しかし、環境保護が叫ばれる現在は車の所有率も下がり、移動手段に自転車が使う市民が増えています。これからの道路は車のためだけではなく、自転車で走る人も歩行者も、皆が共有できる場所であるべき。そのような意図が込められた「自転車の夜」は、ライプツィヒの新しい道路の姿を示していたように思います。福岡県生まれ。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の建築設計事務所に所属し、10年に「ミンクス.アーキテクツ」の活動を開始。11年よりライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
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