40年にもわたり東ドイツ政府の国家保安省(Ministerium für Staatssicherheit、通称シュタージ/ Stasi)のライプツィヒ支部として使われていた場所が、現在は記念館“ Runde Ecke(円い角)”として一般公開されています。実際に当時使われていた現場が公開されているのは、旧東ドイツでもここだけです。
「シュタージ」とは、東ドイツ時代に市民を監視することを任務とした秘密警察・謀報機関のことで、館内の様々な展示品から、その歴史を知ることができます。当時、ライプツィヒには約2400人がシュタージとして働き、そのうち約800人がこの建物内に勤務していました。東西の壁が崩壊した1989年には、さらに約1万人が非公式で、様々な「監視」任務に就いていたといわれています。
電話の盗聴器や監視カメラなど、実際に使用されていた機器の横には、監視場所に使われていた600以上にも及ぶ市内の建物をしるした地図と写真が貼られています。郵便物については、ライプツィヒ市民宛ては100%、ドイツ国内宛ての封書はランダムに開封され、検閲されていました。その数は、1日に1500〜2000通にも及びました。大方は特別な機械を使って開封し、形跡を残さないように再度封をして宛先へ届けられましたが、少しでも容疑のかかった宛先への封書は押収され、そのまま葬られた郵便物が山のようにありました。
(左)シュタージ職員が勤務していたオフィス、(右)監視場所をしるした地図
さらに、監視していることがばれないように、変装用のカツラや眼鏡、帽子や付けヒゲなど、変装パターンを示す写真も展示され、一般市民の生活にシュタージがどのように「監視」の手を伸ばしていたか、当時の様子が生々しく伝わってくるものばかりでした。
(上)容疑のために押収された手紙とやり取りに使われた鞄
(下)開封した手紙を再度封印するためののり付け機械
また、展示品だけでなく、当時シュタージの職員が働いていた簡素な執務空間をそのまま残した部屋や、スパイ容疑などにかけられた人たちが収容された独房、容疑者の顔写真を撮影していた部屋などもありました。展示室として公開されている以外の建物内の部屋には、国家保安省が取り扱っていた書類が保管されており、そのファイルを並べると、約10kmもの長さになります。その莫大な書類の量は、ライプツィヒ市民全員が、漏れなく監視されていたことを物語ります。この記念館は、社会主義時代の市民生活を知ることができる貴重な場所となっています。
Museum in der Runden Ecke:
Dittrichring 24, 04109 Leipzig
開館時間:10:00〜18:00(入館無料)
www.runde-ecke-leipzig.de
ドイツ建築家協会認定建築家。福岡県出身。東京理科大学建築学科修士課程修了後、2003年に渡欧。欧州各地の設計事務所に所属し、10年から「ミンクス・アーキテクツ」主宰。11年より日独文化交流拠点ライプツィヒ「日本の家」の共同代表。
www.djh-leipzig.de