芸術の街ミュンヘンに5月21日、新しい美術館がオープンしました。現代美術収集家のブランドホルスト夫妻が集めた19、20世紀の作品が展示されている「ブランドホルスト美術館」です。
3つのピナコテークをはじめ、名立たる美術館が集結している地域にこの美術館は加わりました。ここは「芸術エリア(Kuns tareal)」と呼ばれ、古代から現在に至る人類の芸術の軌跡を辿ることができます。美術館同士は広々とした芝と木陰の涼やかな小道で繋がれています。
ブランドホルスト美術館は美しい暖色系のグラデーションで包まれています。近寄ると、山折り谷折りの壁面に焼き物の棒が彩り良く並べられていることに気付きます。なんでも23色の棒が3万6000本取り付けられているとか。建物に太陽の光が当たると壁面の表情が変わります。棒の影が壁面に落ちると、そこにジグザグの彩色が施されているような、あるいは棒が浮き上がっているような目の錯覚が起こります。建物自体が現代美術なのです。
光によって表情を変える美術館の外観
館内は白壁とオーク材の床に自然の優しい光が注がれ、爽やかな雰囲気。地上階、地下階、上部階の3フロアは、それぞれ広い階段で繋がれています。
アンディ・ウォーホルは知っていても、ほかの芸術家については無知だった私ですが、展示物は十分に堪能できました。金属をつなぎ合わせただけのような巨大オブジェから、毛細血管までを精密に再現した妊婦の人形、医療廃棄物を詰めた透明な箱、消しかけの黒板など多岐にわたり、「何だこれ?」「リアルすぎて怖い!」と騒いでいるうちに、脳のいろんな箇所が刺激されます。後から調べたところ、みんなアートに革命を起こした芸術家でした。
上部階のメインはアメリカを代表する抽象表現主義画家・彫刻家サイ・トゥオンブリの作品。彼の作品が一番美しく見られるように設計された特別なフロアです。半円形のフロアには、巨大なキャンバスに刷毛で大胆に描かれた抽象画がぐるりと飾られています。中央のベンチに腰掛けて脳の赴くままに視線を走らせていると、次第に展示室自体がとてつもなく美しい宇宙に見えてくるから不思議です。
この美術館の作品たちは、決してわかりやすい芸術ではありません。芸術って何だろう?と首をかしげたらもう作者の思うつぼです。普段認識しているアートは大衆から与えられた記号に過ぎないと、観る者に訴えかけてきます。論理的なものばかり追い求めてしまう現代。たまには美術館を歩きながら、普段は使わない感覚を刺激してみては?
地下にも自然光が隅々までいきわたる設計
日本地ビール協会ビアテイスター。日本での7年間の看護師生活の間にビールの魅力に取り付かれ渡独する。現在はミュンヘンに拠点を置いて美味しい情報を発信中。「ビアテイスターのドイツビール&ワイン紀行」http://gogorinreise.blog34.fc2.com/