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ドイツ生活におけるはしか(麻しん)の基礎知識

ニュースで「はしか」が話題になっていて驚きました。はしかは子どもの病気と思っていましたが、大人でも感染するのでしょうか? 38歳なのですが、子どものときに予防接種を受けたか、はしかにかかったことがあるのか分かりません。ワクチンを受けた方が良いのでしょうか?

Point

  • 肺炎、脳炎で重症化リスク
  • 極めて強い感染力
  • 大人も発症
  • 感染すると終生免疫
  • ワクチン接種2回で終生免疫
  • 生まれた年によってリスクが違う

「はしか」(麻しん)とは?

主な症状

はしか(麻しん、Masern)の主な症状は発熱、せき、目の充血、発疹です。発熱は2日ほどでいったん下がるものの、再び39度近くまで上昇するのが特徴で1週間ほど続きます。風邪のような症状が出て数日経過してから、少しかゆみのある赤い発疹が出現します。多くの場合、発疹早期に口の中にコプリック斑という白色点状斑が見られます。

接触感染・飛沫感染・空気感染

はしかは、ヒトからヒトへ感染する病気です。空気(飛沫核)感染もあるため、感染者が同時間に同じ場所にいなくとも空気中に漂うウイルスから感染します。はしかに感染した人から免疫のない10~12人に感染します(新型コロナウイルスは2~3人)。発疹が出る5日ほど前の風邪のような症状の時から、発疹がなくなって4日後までほかの人への感染力があります。

合併症で重症化、命取りのことも

はしかによる2大死因は、肺炎と脳炎といわれています。はしかに感染すると免疫力が下がり、合併症で重症化したり後遺症を残したりする危険があります。はしかにかかり、意識がもうろうとしてきた場合は要注意です。感染して数年後に、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という神経の病気が発症することもあります。

非常に強いはしかの感染力

インフルエンザの10倍の感染力

はしかウイルスは非常に感染力が強く、インフルエンザの約10倍といわれています(国立感染症研究所)。はしかに対する免疫のない人はほぼ100%感染します。

大人もかかるって本当?

ワクチン未接種の小児に多い病気ですが、日本で増加傾向にあるのは定期接種の対象年齢を超えた年齢層で、20歳代、30歳代の感染が多くなっています(国立感染症研究所の「麻しんアセスメント2024年第一版」)。はしかの予防接種が未接種で免疫のない人や予防接種が1回のみで免疫が獲得できなかった人、ウイルスにさらされる機会が減り免疫が低下した人が発症していると推測されています。

はしかは「二度なし現象」の代表例?

はしかは一度かかると終生免疫ができる「二度なし現象」の代表例といわれてきました。実際には、はしかに対する免疫が低下してきても、自然感染によるブースター効果(発症なし)で抗体価が再び上昇、免疫が維持されてきたと考えられています(平成30年の国立感染症研究所の麻疹対応ガイドライン)。

欧州でのはしかの流行

欧州の感染者数が30倍以上に

WHOによると2023年の世界の感染者数は30万6000人以上でその前年の1.8倍に増えました。欧州域では2023年の感染者数は5万8000人以上、2022年の30倍以上の増加となっています。ドイツは感染者数が比較的抑えられており、はしかの届け出は住民100万人当たり0.99人です。最も高いのはルーマニアで92.16人でした(2024年2月の欧州疾病予防管理センター[ECDC]の報告書)。

日本のはしか感染者数

2015年に「麻しん排除国」に認定され、2020年以降は年間6~28名程度まで少なくなり(国立感染症研究所の「麻しんアセスメント2024年第一版」)、近年は主に海外からの輸入例と、輸入例からの感染事例のみを認める状況となっています。

はしかの予防接種

はしかの予防接種

1回接種だけでは予防効果が不十分(12人に1人の子どもは予防効果が得られない)であるため、2回接種が基本です。2回接種後は抗体価も上がり、ほぼ全員(99%)が予防効果を得られます(ロベルト・コッホ研究所[RKI ])。

ドイツでは接種義務あり

ドイツでは、STIKO(RKIの予防接種委員会)より2歳になるまでに2回の接種を完了させます。2020年からはしかのワクチン接種は法律によって義務化され、子どもが保育園や幼稚園、学校に通うには、はしかの予防接種を2回受けたか、すでに感染したことを証明しなければなりません。

日本からドイツの幼稚園に入る際は注意

日本では1歳(生後12~24カ月未満)の時に1回目の接種を受け、2回目接種は5~7歳未満で小学校就学前に行います。日本のはしかの予防接種スケジュールにのっとって予防接種を受けていても、ドイツの幼稚園に入園するには2回のワクチン接種証明が必要になるので注意が必要です。

日本の予防接種制度の推移と感染リスク

未接種の空白世代(1972年以前生まれ)

子どもの麻しんワクチン接種はなかったため、はしか予防の空白時代に属します。ドイツでは1970年以前に生まれたほとんどの人(95%以上)は自然感染による免疫があるとされています(RKI)。

追加接種が必要な世代(1972~2000年生まれ)

日本ではしか予防接種の1回の定期接種が始まったのは1972(昭和47)年10月1日からで、1990(平成2)年からは定期以外の2回目接種も受けられるようになりました。

定期接種が2回となった世代(2000年以降生まれ)

2000年4月2日より2回の定期接種が始まりました(2006年4月1日からは麻しん・風しん混合[MR]ワクチンによる2回接種)。

感染リスクの高いのは?

上記のうち1972年以降生まれでワクチン未接種あるいは1回しか接種しておらず、はしか未感染の人です。

ワクチン接種歴、感染既往を確かめるには

過去の感染、接種記録の確認

ワクチン接種は日本の母子手帳に記録されています。実家などに母子手帳がある場合は、原本かコピー(画像)を本人の手元に置いておくといいでしょう。

抗体価で予防状態にあるかを調べる

血中のはしかの抗体測定をすることにより、はしかに対する現在の予防状態を知ることもできます。

接種記録が分からない場合

ワクチンを1回しか受けていない、あるいは接種や感染の有無が分からない場合、ドイツでは1回の追加接種が推奨されています(RKI)。接種漏れを防ぎ、集団としてのはしかの免疫を高めるためです。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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