頭痛と一口に言っても異なるのでしょうか?
頭痛(Kopfschmerzen)はいろいろな原因で起こります(表1)。最も頻度が高いのが、肩こりやストレスからくる筋緊張性頭痛(後述)です。その他、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎など頭蓋内の生命に関わる病気に伴う頭痛、通常の風邪による頭痛、アルコールによる二日酔いなどもあります。偏頭痛の患者さんは日本国内だけでも800万人以上います。
表1 更年期から起こる問題点 | |
一次性頭痛 | 二次性頭痛 |
・筋緊張性頭痛 ・偏頭痛 ・群発性頭痛 ・その他 |
・外傷、血管障害、腫瘍、感染症、耳鼻口の疾患に起因するもの |
良く耳にする偏頭痛とはどういう病気ですか?
ドイツ語ではMigräne。頭痛発作を繰り返す病気で、頭の片側にズキンズキンと脈を打つような強い痛みが出現します。痛みは4時間から72時間続き、最後は自然に治まります。これに伴う症状として吐気や光過敏、音過敏がみられます。日本人の年間発症率は8.4%で、女性は男性の4倍にもなります。特に30〜40歳の女性に多くみられ、同年齢の女性の有病率は18%近いとも報告されています。発作の前に視覚的な前兆(Vorzeichen、後述)を伴うことがあります。
何が誘因でなりますか?
睡眠不足だけでなく、寝過ぎも良くないといわれています。ストレスもそれ自体が誘因というのではなく、ストレスの原因が取り除かれ、緊張が解けた直後に頭痛が始まったりします。女性の場合は生理といったホルモン環境の変化も関係しています。一方、妊娠中は偏頭痛発作が起きにくくなります。
どんな前兆がありますか?
頭痛の発作の前に、ギザギザ型の光(閃輝暗点、せんきあんてん)が見えたり、頭の中の違和感、脱力、感覚障害などが予兆として感じられたりします。多くの場合、閃輝暗点が見えてから15分以内(60分を超えることはない)に頭痛、吐気、嘔吐などがみられます。頭痛出現時には前兆症状は消失しています。しかし、日本人では前兆のない偏頭痛の方が倍近いといわれています。
痛みは片側だけに起こるのですか?
脳の血管の支配領域は左右に分かれていますので、痛みは血管の拡張が生じている側のみに出現します。従って、両側の血管拡張が生じれば当然頭痛も両側にみられます。偏頭痛の発作がいつも頭の同じ側に起きるとは限りません。
発作は繰り返しますか?
偏頭痛は何カ月もそのまま持続するのではなく、月に1〜2度と一定の期間をおいて発作が繰り返されます。痛みは激烈ですが、発作が治まると以前と全く同様に正常な生活に戻ります。
頭痛以外の症状は?
ズキンズキンという痛みのほか、吐き気や嘔吐を伴うことが少なくありません。音や光刺激にも過敏となり、いつもは平気な電灯がまぶしく感じられたり、通常のテレビの音が非常にうるさく不快に感じられたりします。脱力感や下痢などを伴うこともあります。
偏頭痛の治療について教えてください
軽度~中等症の発作の場合は、一般にアセトアミノフェンや非ステロイド性の消炎鎮痛剤が用いられます。中等度以上の発作や軽症でも痛み止めが効かなかった場合にはトリプタン製剤(セロトニン受容体に作用する薬)が用いられます。制吐薬の併用は吐気、嘔吐に対し効果的です。エルゴタミン製剤は前兆の予防目的で、トリプタン製剤は再発が多い場合にも用いられます。
薬で注意すべきことは何でしょうか?
鎮痛薬の飲み過ぎは禁物です。頭痛が起こっていないにも関わらず不必要に服用を続けると、いざという時に効かなくなったり、胃腸障害などの副作用の原因となります。エルゴタミン製剤は全身の血管収縮を来たすため、虚血性心疾患や末梢血管障害のある人は避けなくてはなりません。トリプタン製剤は頭皮の血管だけに作用するので、その分安全と考えられています。
頭痛ダイアリー(日誌)とは?
頭痛は自覚症状のため、訴えがあまり主観的になりすぎると、担当医師に正確な情報が伝わらないことがあります。そのため、頭痛発症の時間帯、タイプ、随伴症状などをメモや「頭痛ダイアリー」として記入しておくことにより、客観的情報に基づく、より効率的な診療が可能となります。
筋緊張性頭痛とは何ですか?
偏頭痛が血管拍動性の痛みであるのに対し、筋緊張性頭痛は後頭部から頭全体にかけてヘルメットをかぶったような感じの、持続性のある締めつけられるような痛みが特徴的です。肩こり、後頚部の筋肉痛と関係することが多く、ストレスや姿勢異常などが誘因となります。「この件が頭痛の種だ」とか「借金で首が回らない」などの表現はストレスからくる筋緊張性頭痛のことを指しているのかもしれません。日本人の頭痛持ちの方の60〜70%はこの筋緊張性頭痛によるものです。
治療法を教えて下さい
まず第一にストレスを除く工夫をします。姿勢が関与している場合は姿勢の是正が大切です。体操や水泳などの運動や、散歩による気分転換も効果的です。ほとんど同じ姿勢で、コンピュータを何時間も扱っている人は、時々立ち上がって腕や体を伸ばすようにしましよう。薬を服用する以前に、肩を揉んでもらうだけでかなり軽減される場合も少なくあり ません。内服薬としては抗不安薬や筋弛緩剤などが用いられます。
二日酔いによる頭痛の予防法はありますか?
読者の中には、忘年会や新年会でついつい飲みすぎたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。二日酔いは人によって個人差が大です。飲んだアルコールは肝臓の酵素の働きでアルデヒドという物質に一旦分解され、さらに別の酵素により代謝されてから体外に排泄されます。このアルデヒドが体に有毒で、飲酒後の脱水症状とも合わさり、二日酔いや頭痛の原因となっています。適度な量を嗜むことが基本ですが、飲む前に必ず食事をとることや、飲酒後の就寝前に十分な飲水を心がけることなどで ある程度の予防は可能です。くれぐれも飲み過ぎには気をつけましょう。
表2 偏頭痛と筋緊張性頭痛 | ||
偏頭痛 | 筋緊張性頭痛 | |
痛みの特徴 | 拍動性(ズキンズキン) | 締めつけられる痛み |
持続時間 | 数時間から数日 | 持続性 |
誘因 | 生理、ストレスからの解放時など | ストレス、姿勢異常、運動不足、長時間のパソコン |
頭痛の前兆 | 伴うことあり | なし |
痛み以外の症状 | 吐気、嘔吐、光や音に対して過敏となる | 肩こり、後頭部の筋肉痛 |
治療 | 前兆時や痛みのある時の内服薬、制吐薬の併用は有効 | ストレス除去、姿勢の是正、肩のマッサージ、抗不安薬や筋弛緩薬 |
表3 偏頭痛のまとめ | |
前兆 | ・ぎらぎらと光るものが見える、稲妻のような光を感じる ・前兆のない偏頭痛の方が多い |
頻発年齢 | ・30〜40歳代の女性 ・女性は男性の約4倍 |
発症時期 | ・突発的に発症 ・ストレスや緊張から解放されたときに起きやすい |
部位 | ・頭の片側のこともあれば両側のこともある ・いつも同じ側とは限らない |
持続時間 | ・数時間〜数日間で自然に治まる |
表4 偏頭痛の誘因 | |
精神的因子 | 精神的緊張・ストレスからの解放 疲れ、睡眠不足、寝過ぎ |
ホルモン因子 | 月経周期 |
気象因子 | 温度差、天候の変化 |
食事因子 | アルコール |
表5 偏頭痛の治療 | ||
一般的治療 | 効果が乏しい場合 | |
前兆時 | ・エルゴタミン製剤 | ・月経周期を改善 |
軽症・中等症 | ・消炎鎮痛剤 ・制吐剤 |
・トリプタン系薬剤 ・制吐剤 |
中等症・重症 | ・トリプタン系薬剤 ・制吐剤 |
・再発が多い場合にはエルゴタミン製剤 ・制吐剤 |