昨冬はインフルエンザが少なかったようですが、コロナ禍が続いている今年もインフルエンザの流行はないのでしょうか? 高齢の親にインフルエンザ予防接種を勧めた方が良いか迷っています。
Point
- 今季はインフルエンザ流行予想も
- 現時点では流行の兆しはまだ見られず
- 高齢者、妊婦、慢性病患者はワクチン接種を
- ワクチンで感染リスクを減らせます
- ワクチンで重症化リスクを減らせます
- コロナワクチンとの同日接種も可
- 今季から高齢者用の高用量ワクチンも
昨季(2020/2021シーズン)の状況
● 危惧された流行は?
昨年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザ(Grippe、Influenza)の同時流行が心配されました。しかし、日本で報告されたインフルエンザの累積患者数は例年の1%にも達しませんでした(日本の厚生労働省の定点調査)。
● 患者数が少なかった要因
コロナ対策がインフルエンザ対策にも有効だったこと、医療機関への受診自制、さらに「ウイルス干渉」(Virusinterferenz)の可能性も指摘されています。
● ウイルス干渉とは
一つのウイルスが流行すると、異種のウイルスの流行が抑えられる現象を「ウイルス干渉」といいます。ウイルス同士で縄張り争いをしているような状況です。この干渉の仕組みにはいくつかの説がありますが、十分に解明されているわけではありません。
今季の流行予想
● 日本感染症学会の予想
今年9月に日本感染症学会はインフルエンザ「大流行」の可能性を予想し、積極的なワクチン接種を推奨しました(2021年9月28日の提言)。
● 流行予想の背景
昨季のインフルエンザ感染者が極めて少数だったため、インフルエンザの基礎免疫を持つ人が少なく、社会全体の集団免疫が形成されていない可能性が考えられています(日本感染症学会)。新型コロナのワクチン接種が進んでコロナ感染が抑えられてくると、ウイルス干渉にも変化が生じると考えられます。
● これまでの実際の発生状況
日本の厚生労働省発表の今年9月から10月17日までの定点当たりの報告数は計31名で(昨年は23名)、一昨年同時期までの3万2690名に比べてはるかに少ないことが分かります。今季の流行の予測はまだ難しいところです。
インフルエンザ予防接種
● 予防効果は10日〜2週間後から
接種後すぐに予防効果が期待できるわけではありません。体の中で十分な抗体が作られるまでには日数が必要です(ロベルト・コッホ研究所、RKI)。
● いつの接種が適切ですか?
10〜12月中旬までの接種が望まれます(RKI)。流行時期とワクチン効果の期間を考えると、理想的には11月までに済ませるのが望ましいです(日本感染症学会)。
● 感染と重症化を抑えます
ワクチンを接種すればインフルエンザに絶対にかからないというわけではありません(厚生労働省)。インフルエンザ罹患のリスクを減らし、発症しても症状が軽くなり、肺炎や脳炎などの合併症リスクを減らすことができます。
ワクチン接種が望ましい人
● コロナの高リスク者と同じ
インフルエンザで重症化しやすい人たち(妊婦、高齢者、慢性疾患のある人)は、コロナ感染で重症化リスクのある人とほぼ同じです。RKIはこれらの人への積極的な接種を推奨しています(RKI、2021年9月)。
● 妊婦のワクチン接種は?
妊婦(Schwangere)は感染症にかかりやすい上、発症すると重症化しやすく、そのために母子ともに危険な状態になるリスクが高いことから、ワクチン接種が勧められています(ドイツの予防接種常設委員会[STIKO])。
● 妊娠のどの時期に?
インフルエンザワクチンは妊婦での安全性が確認されており、妊娠中の時期を問わずワクチン接種を受けることができます。基礎疾患の合併症のない健康な妊婦で時期的にゆとりがある場合には、妊娠3カ月以降の接種が良いとされています(STIKO)。
● 同居人や介護人も
高齢者、慢性疾患患者、妊婦と同居する人、身の回りの世話をする人は二次感染を予防するためにワクチン接種が望まれます(STIKO)。
● 日本へ一時帰国する場合
この冬に一時帰国を予定している人は、出発2週間前までにワクチン接種を終えると良いでしょう。
さらに知っておきたいこと
● コロナワクチンと同時接種できますか?
インフルエンザワクチンとコロナワクチンの同日接種は可能です(RKI)。各ワクチンを別々の腕に接種するようにします。
● 小児のワクチン接種は?
小児では注射製剤と点鼻製剤(後述)ワクチンの選択ができます。慢性疾患がある子どもへは積極的な接種が勧められています(RKI)。小児へのインフルエンザワクチン接種は、欧州各国内でも推奨の有無や対象年齢はさまざまです。
● ワクチンの有効性は?
感染状況と流行株によって異なります。若年成人での感染予防の有効率は最大80%、成人では60〜67%、
65歳以上の高齢者では41〜60%との報告があります(2012年のHum Vaccin Immunother誌)。高齢者での死亡リスクを68%抑えると報告されています (1995年のAnn Intern Med誌)。● 接種を控えるべき人
急性の感染症患者、38.5度以上の発熱者ではワクチン接種を控えます(点鼻ワクチンに関しては後述)。強い卵アレルギーのある人は医師に相談してください。
インフルエンザワクチンの注射製剤
● 不活化ワクチン(Totimpfstoffe、 inaktivierte Impfstoffe)
ウイルスもしくはウイルスの一部を不活性化して作られるワクチンには病原性がありません。2021/2022シーズン用として、ドイツでは12種類の注射製剤が認可されています(パウル・エーリッヒ研究所)。
● 60歳以上用の高用量ワクチン
今季より高齢者には、約4倍量の抗原を含む高用量ワクチン(Hochdosis-Impfstoffe)も用いられます(製剤名:Efluelda 2021/2022 ®)。より高い抗体価が得られますが(2014年のNEJM誌)、死亡率の抑制効果は従来ワクチンとあまり差はないとされています(2021年のJAMA誌)。
インフルエンザの点鼻ワクチン
● 若年者用の生ワクチン(Lebendimpfstoffe)
ドイツで2〜17歳までの若年者に対して用いられる点鼻型ワクチンです(製剤名:Fluenz Tetra 2021/2022 ®)。生ワクチンのため、接種後4週間はほかのワクチン接種を控えます。
● 点鼻ワクチンを使えない人
免疫低下の病気、アスピリン治療者、重症の気管支喘息を患っている小児には点鼻ワクチンは使えません(RKI)。
新型コロナとインフルエンザ
● コロナ対策はインフルエンザにも有効
コロナ感染対策の「AHA-Formel」(1.5メートル以上の対人間隔、手洗い、マスク着用)は、インフルエンザ予防にも有用です。十分な睡眠、栄養バランスの取れた食生活、適度な運動も大切です。
- ワクチン接種
- 手洗い
- 人混みでのマスク着用
- 密集を避ける(対人間隔)
- 十分な睡眠(昼寝も可)
- 栄養バランスの良い食生活
- 適度な身体運動
- 日光に当たる
● 風邪、インフルエンザ、新型コロナの相違
冬風邪は鼻水、のどの痛み、インフルエンザは筋肉痛と節々の痛みを伴う突然の高熱、新型コロナは味覚・嗅覚の消失が特徴的です。同じような症状も多いため3者の鑑別は必ずしもは容易でありません。