足の親指がくの字に変形し、靴に当たって痛むことがあります。母には「ばね指」があり、朝起きて立ち上がったときに足首が痛むのでリウマチではないかと心配しています。手足の腫れや痛みを起こす病気には、どのようなものがあるのでしょうか?
Point
- 女性に多い手指、足趾(そくし)の痛み
- 妊娠・出産が誘因になることも
- 最近はマウス腱鞘炎、スマホ腱鞘炎も
- 局所の安静と保持装具が効果的
- 過体重は足の障害の要因に
手に生じる主な障害
ばね指(腱鞘炎、Schnellender Finger)
● 指がカクンと跳ねる
指を伸ばそうとすると途中で引っかかり、バネのようにカクンと跳ねます。中指(Mittelfinger)、人さし指(示指、Zeigefinger)、親指(Daumen)に多く見られます。腱鞘炎(Tendovaginitis)によって、指を曲げる腱(Sehne)とそれを包む腱鞘(Sehnenscheide)に通過障害(ひっかかり)が生じます。中年の女性に多く見られます。
ヘバーデン結節(Heberden-Arthrose)
● 指先端の関節が腫れる
指先端の第1関節(DIP関節)が腫れ、物をつまむと痛みます。関節の背側に小さなコブ(Knoten)や水疱が見られることも。変形性関節症(Arthrose)の一種で、妊娠中や40代以降の女性に多く見られます。関節部の隙間が狭くなり、時に骨のとげ(骨棘(こっきょく))が出現します。
ド・ケルバン病(Tendovaginitis de Quervain)
● 親指側の手首が腫れる
手首の親指側が腫れて痛み、手を握って小指側に曲げると痛みが強まるのが、ド・ケルバン病です。親指の使い過ぎることによって、親指につながる腱とそれを手首で包んでいる腱鞘に炎症と傷が生じます。コンピューター作業に従事する人、バドミントン選手、産後や更年期の女性に多く見られる傾向があります。
母指CM関節症(Rhizarthrose)
● 親指の根元の手背が傷む
親指に力をかけると親指根本の手背が痛み、瓶のふたなどを開けられなくなることも。マウスの使い過ぎや加齢の影響で、母指CM(手根中手)関節の軟骨がすり減り、炎症を生じます。親指の根本が皮膚から突出して見えるときは、亜脱臼を疑います。
関節リウマチ(Rheumatoide Arthritis)
● 手指の痛みと変形
左右対称性の多発関節痛が特徴です。進行した関節リウマチでは、特徴的な手指関節の変形を生じます。
● 膠原病(Kollagenkrankheit)
免疫の異常による全身性の関節の炎症です。朝の手のこわばり(Morgensteifigkeit)が続くときは疑ってみます。日本人の約200人に発症、女性は男性の4倍、40〜60歳が好発年齢です(日本リウマチ学会の資料)。
● 早期発見、早期治療が大切
早期に治療を開始することにより寛解へ導くことができます。血液検査でリウマチ因子(RF)や抗シトルリン蛋白(CCP)抗体が陽性の場合は、疑いが高まります。
反復運動過多損傷(Repetitive strain injury Syndrom, RSI-Syndrom)
● 同じ動作の反復による障害
コンピューター作業(本誌 919号「コンピューターと健康」を参照)による「マウス腱鞘炎」、スマートフォンの「スマホ腱鞘炎」、テニス肘、野球肩のような「スポーツ腱鞘炎」など、一定の姿勢で同じ動作を長時間繰り返すことによる障害の概念です。
足に生じる主な障害
外反母趾(Hallux valgus, Großzehenballen)
● 親指が「く」の字に変形
親指(母趾)が「く」の字に変形します。親趾付け根部分が靴に当たって痛み、偏位した親指が隣の指と重なることも。加齢により足底(Fußsohle)の横アーチが崩れて親指が扇状に開き、さらに先の細い靴で指先が圧迫され三次元的な変形が生じます。
扁平足(Plattfuß)
● 大人の扁平足(成人期扁平足)
足底のアーチ(土踏まず)が消失して平らになった状態が偏平足です。くるぶし内側の腫れと痛みで発症し、つま先立ちや歩行で痛みが強まります。体重負荷と加齢の影響で、足底アーチを形成する腱がくるぶし付近で断裂、アーチを支えられなくなります。肥満者、中年以降の女性に多く、長時間の立ち仕事やスポーツによる負荷も誘因の一つです。
足底腱膜炎(Plantarfasziitis)
● かかと内側前方の痛み
起床して立ち上がったときの1歩目に痛みを感じます。長時間の歩行・立ち仕事、つま先立ち、ランニングで増悪します。足底筋膜が骨と付着するかかと部分に、反復負荷がかかってできる傷が原因です。かかと部分の筋膜に石灰化(骨棘)が見られることも。
モートン病・神経腫(Morton-Neuralgie/neurom)
● 足趾の間がピリピリ
靴を履いたときに趾間(第3・4趾間、第2・3趾間に多い)にしびれ、痛みを感じます。好発年齢は50歳前後、男女比1対10と女性に多く見られます(日本足の外科学会)。足底を走る神経が二つの指の骨と骨に挟まれて生じます。圧迫部分に痛みを伴う腫脹(神経腫)ができることも。
痛風(Gicht)
● 親指の腫れと激痛
親指が赤く腫れ、文字通り「風が吹いても痛い」痛風発作。高尿酸血症の人が肉を多食したり、アルコールを多飲したりすると発症します。激しい運動、尿酸降下薬の開始が発作の誘因になることも。尿酸の結晶は針形状のため、針で刺される痛さを伴います。予兆としてムズムズ・チクチク感を感じることも。男女比が20対1以上と、圧倒的に男性に多い病気です(2018年の日本人間ドック学会、ランチョンセミナー要旨)。
● 治療方法
局所を安静にさせることのほか、冷湿布(Pflaster)、鎮痛薬(Schmerztabletten)が用いられます。植物製剤のコルヒチン(Colchicin)は痛風発作の予防と寛解に有効です。患部のマッサージは厳禁です。
手足の症状に対してできること
● 基本は安静(Ruhigstellung)
固定装具(Korrekturbandage)、湿布、鎮痛軟こう(Schmerzalbe/-gel)、経口の痛み止め、時には局所注射なども用いられます。改善しない場合は、整形外科(Orthopädie)の手術が必要になることもあります。
● 装着具や整形靴も
手指に用いる装着具(Handgelenkschienen)は薬局(Apotheke)でも入手できます。扁平足や足底筋膜炎では、足底のアーチを支えるインソール(中敷き、Orthopädische Einlangen, Schuheinlage)が効果的です。足趾が圧迫されない、素材の柔らかいものを選びます。専門の靴職人が作る「整形靴」(OrthopädischeSchuhe/Maßschuh)も有用です。
● 外反母趾体操
グー、チョキ、パーと指の開閉を繰り返す「足趾じゃんけん」、足元に敷いたタオルを指を握り開きしながら手繰り寄せるタオルギャザリングなど、指の屈伸運動が勧められます。
● 体重過多は要注意!
BMIは(体重[kg])÷ (身長[m]の2乗)で計算される肥満度の指標で、25kg/m2 以上が肥満(Obese, Über gewi cht)です(日本肥満学会の基準)。足への負担が大き過ぎないよう適正体重を心がけましょう。