コロナワクチンで副反応が大きな話題になりましたが、副反応と副作用の違いを知りたいです。また、薬の副作用の原因は何ですか?複数の薬を同時に飲むのは良くないのでしょうか?
Point
治療目的以外の作用は副作用
● 薬の「主作用」(薬効)とは?
治療に必要な薬効が「主作用」です。例えば、咳止めは咳を止めること、降圧剤は血圧を下げることが主作用となります。
● 「副作用」(Nebenwirkung)
主作用(薬効)以外の作用は全て「副作用」と呼ばれます。危害のある作用だけを意味するものではありません。マグネシウム補給は時に便を柔らかくしますが、便秘の人には好ましく、下痢を来す人には望ましくない副作用(unerwünschte Arzneimittelwirkung)といえます。
● ワクチンの「副反応」(Nebenwirkung)
ワクチン接種に伴う好ましくない副作用を「副反応」といい、日本特有の表現です。この場合、ドイツ語も英語(side effect)も同じく副作用と表現されます。
● 「有害事象」(unerwünschtes Ereignis)
薬との因果関係が明らかでないものも含め、投薬後に見られた好ましくない反応や現象を「有害事象」と呼びます。アストラゼネカ社のワクチンによる血栓症は、当初有害事象として報告されました。
● 薬物間の相互作用(Arzneimittelwechselwirkung)
二つ以上の薬の併用で、片方あるいは両薬の作用が強まったり弱まったりすることです。併用の組み合わせにより重大な副作用も生じます(1993年に起きた抗ウイルス薬のソリブジン事件など)。
副作用の現れ方
● 症状として現れるもの
皮疹(Exanthema)、頭痛(Kopfschmerz)、顔面紅潮、動機、ふらつき、胃腸症状、日光過敏症などさまざまです。アナフィラキシーショック(Anaphylaxieschock)のような重篤な副作用もあります。
● 検査で分かる副作用
薬による肝機能障害、白血球数・血小板の減少、サイアザイド系降圧利尿剤による血中カリウム値や尿酸値への影響などは血液検査にて把握します。
副作用の原因
● 有効成分から予測されるもの(Arzneistoff)
アレルギー治療の抗ヒスタミン薬による眠気、鎮痛解熱薬による胃もたれ、ぜんそく治療の吸入剤(β2刺激薬)による動機などは、それぞれの薬の有効成分によって引き起こされます。
● 医薬品添加剤によるもの (Pharmazeutischer Hilfsstoff)
薬の形を整える乳糖や、溶ける時間を調整するための物質(カプセル製剤のカプセルなど)でも副作用が生じることがあります(2019年のScience TranslationalMedicine誌)。
● 薬の用量(Dose)
薬用量が大きいほど副作用も現れやすくなります。同じ成分でも日本とドイツで用法・用量が異なっている薬も少なくありません(例えばイブプロフェンは日本では1錠100mgか200mg、ドイツでは1錠400mg、600mg、800mgの製剤も)。
● 化学構造が似ている場合
ペニシリンアレルギーの人は、同じ化学構造を持つβラクタム環というセフェム系抗菌薬(抗生物質)でもアレルギー反応を起こすことがあり、注意が必要です。
副作用のリスク因子
● 過去の薬の副作用歴
過去の薬やワクチンによる副作用(疑い)やアレルギー歴は、 薬の副作用やワクチンのアレルギー反応の回避に役立ちます。
● 肝臓病、腎臓病
肝臓病の人では肝臓で代謝される薬、腎機能が低い人では腎臓排せつする薬の血中濃度が高くなるため、効果が強すぎたり副作用が現れやすくなったりします。
● 緑内障、前立腺肥大
腹痛治療薬のブスコパン(Buscopan®)は、緑内障(Glaukom)や前立腺肥大(Prostatahypertrophie)の症状を悪化させることがあります。
● 抗不安薬、睡眠薬
ベンゾジアゼピン系の安定剤(Anxiolytikum)や睡眠薬(Schlafmittel)は、連用で効果が薄れる「薬剤耐性」や薬なしで不調を感じる「依存性」を生じ、服用量が増すほど副作用の問題が大きくなります。
● 薬物代謝の個人差
肝臓の薬物代謝酵素の活性は遺伝により決まっています(遺伝的多型)。同じ薬でも人により、治療効果が弱かったり、副作用が生じやすかったりします(例えば、タモキシフェン、抗結核薬のイソニアジドなど)。
長期使用で明らかになった副作用
● 空咳の出る降圧剤
降圧剤のアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ラミプリルなど)は突然の空咳が止まらなくなり、コンサートや観劇中にひんしゅくを買った人も出ました。
● 悪い夢を見る降圧薬
頻脈や高血圧の治療薬のピンドロール(β遮断薬)をはじめ、いくつかの薬には悪夢を見るという副作用があります。薬剤の服用を中止することにより悪夢は起こらなくなります。
● 夜中に足がつるコレステロール低下薬
世界的に用いられているスタチン系のコレステロール降下薬(日本の遠藤章氏が発見)は、時に夜中に足がつる(こむら返り)という副作用が知られています。
食品と薬の関係
● 納豆の影響
ビタミン Kを多く含む納豆やクロレラの多食は、ビタミン Kを抑えることによって作用する抗凝固薬のワルファリンの治療効果を弱めます。
● グレープフルーツの影響
グレープフルーツのジュースや果肉は薬物代謝酵素の働きを抑えることにより、降圧薬のCa拮抗薬の血中濃度を上げるといわれています。
● チーズの影響
熟成チーズに含まれるチラミンは体内ですぐに代謝されます。しかし、抗結核薬のイソニアジドなどの薬剤はチラミンの代謝を抑えるため、チーズを食べた後に動機、血圧上昇、頭痛などチラミン中毒の症状を来すことも。
● 牛乳の影響
牛乳に含まれるカルシウムは一部の抗菌薬成分と結合して、薬の吸収や作用を低下させます。抗菌薬の服薬後2時間は牛乳を飲まない方が良いとされています。
日常での留意点
● 妊婦・授乳婦での注意
母親の治療のため服用した薬が胎盤を通して胎児に移行したり、母乳に排せつされたりする薬、妊婦・授乳婦での安全性が分かっていない薬は控えます。
● 薬の副作用かなと思ったら
副作用を疑う症状が出たら、一旦服薬を止めて医療機関に連絡してください。夜間に呼吸しづらい、血圧低下、全身の浮腫や発赤が見られたら、病院(Krankenhaus)の救急外来(Notfallambulanz)へ(救急車は「112」)。
● 副作用の記録
副作用・副反応歴は大切です。初めての薬の処方を受けるときや、ワクチン接種の際は必ず伝えてください。
● 薬効と副作用のバランス
薬効の「利益」と副作用の「不利益」を比べ(BenefitRisk Abwägung)、得る利益の方が大きいと判断される場合に薬剤が用いられます。
診察の際に |
・診察の際に過去の副作用(疑)を話す ・ワクチンによる副反応歴があれば告げる ・服用中の薬があれば医師に伝える |
薬の服用 |
・内服薬は「水」で服用が基本 ・服薬に関する医師の指示を守る ・体形が小さければ半分量でも |
副作用が疑われたら |
・副作用は医療機関に伝える ・症状があれば服薬をいったん止めることも ・非常にまれな副作用もあり得る |
息苦しいとき | ・すぐ医療機関を受診 |