現在世界的に感染拡大している「サル痘」とは、一体どのような病気なのでしょうか?顔や手足に水ほうができると聞きました。ウイルスに感染しないために、どのような予防方法があるかを知りたいです。もし感染した場合、隔離は必要でしょうか?
Point
- サル痘ウイルスによる急性発疹
- 症状が天然痘に似ている
- 主に接触感染
- 治療は対症療法が主体
- 大半は自然治癒
サルの病気ですか?
● サル痘ウイルス
サル痘(Affenpocken)は、天然痘(痘そう、Pocken)と同じポックスウイルス科に属するサル痘ウイルスの感染で発症します。2本の遺伝子鎖を持つDNAウイルスで、長径が300nm(0.0003mm)を超える巨大ウイルスです(新型コロナウイルスは直径が100nm)。
● リスやネズミの病気
サル痘ウイルスの本来の保有動物はリスやネズミなどのげっ歯類です。最初に感染が発見された動物がサルだったことから、 サル痘と呼ばれるようになりました。サルは保有動物ではなく、サル特有の病気でもないため、WHOは病名の変更を検討しています。
● アフリカの風土病
人への感染は、ウイルスを保有しているリス、ネズミなどのげっ歯類動物の血液や体液に触れることで生じます。1970年のコンゴ民主共和国で初めて確認された人でのサル痘は、中央アフリカから西アフリカの森林地帯の風土病(ロベルト・コッホ研究所[RKI]の資料)として扱われていました。
● アフリカ以外での感染者は?
ガーナから輸入されたげっ歯類動物からの感染が米国で報告(2003年のWHO報告書)され、サル痘感染のリスク地域への渡航歴のある人の感染が米国、英国、シンガポール、イスラエルなどでも報告されていました。今回は動物との接触も渡航歴もない感染者が増えていることが問題となっています。
● ウイルスの型
西アフリカに流行する型と中央アフリカにみられるコンゴ型が知られています。コンゴ型は重症化することがあります(上記RKIの資料)が、現在世界で発生しているのは西アフリカ型です。
● 天然痘ウイルスとの違い
天然痘ウイルスは感染力が強く、致死率が高いのが特徴です(Variola majorでは20~50%)。天然痘はワクチン接種の普及により、1980年にWHOが世界根絶宣言をしました。
● サル痘の致死率
アフリカでのサル痘の致死率は10%で(2018年のFront Public Health誌)、WHOの近年の報告では全体で3~6%、小児ではより高いとされています。
代表的なポックスウイルス*
感染宿主 | 人での重症化 | |
天然痘 | 人のみ | 多い |
サル痘 | げっ歯類 | 少ない** |
牛痘 | ネコ科動物ほか | 少ない |
** アフリカでの発症例では重症化あり
世界での感染拡大
● 今は世界各国で、ドイツでも
2022年5月頃から感染増加が注視されるようになり、6月24日には世界47カ国で4147名の人がサル痘と確定診断されています(6月24日時点での集計)。RKIによるとドイツでは676名がサル痘と診断されています(6月24日現在)。
● 人から人への接触感染
サル痘感染者の皮ふ、顔、口による濃厚接触(enger körperlicher Kontakt)で人から人へ感染します。サル痘の症状を訴えている人のリネン類、衣服への接触によっても感染が起こります。
● 性的嗜好(しこう)とは関係なし
欧州では大規模パーティーイベントでの男性同士の性交渉による感染が一時示唆されましたが(WHO)、現在は性的嗜好に関係なく男女共に性行為を介して感染すると考えられています。
● なぜ今感染拡大?
欧州で見られる感染者のほとんどはアフリカの流行地への渡航歴のない人たちで、感染増加のきっかけは明らかになっていません。天然痘ワクチンを中止してから40年が過ぎて免疫力が低下した、空の旅が再開された、地球温暖化が関わっているなどの諸説がありますが、まだ分からないことが多いのが実情です(WHO)。
サル痘の症状と経過
● 潜伏期(Inkubationszeit)
サル痘ウイルスに感染してから発症までの潜伏期は5 ~21日(最大幅)です。
● 初発症状(Erste Symptome)
発熱(Fieber)、頭痛(Kopfschmerz)をはじめ、筋肉痛(Muskelschmerz)、背部痛(Rückenschmerz)、リンパ節の腫れ(geschwollene Lymphknoten)が見られます。濃厚接触者を除けば、初発症状だけからサル痘を疑うことは困難です。
● 顔に発疹(Ausschlag)
発症してから1~3日後に顔(Gesicht)、手のひら(Handflächen)、足の裏(Fußsohlen)に水ほう(小さな水ぶくれ)が現れ、その後全身に広がります。発疹が口内や陰部に出現することもあります。その後、発疹から膿が出てかさぶたとなり3週間ほどで消失します。
● 大半が自然治癒
世界中で増えているサル痘の予後は一般的に良好です。しかし免疫状態の低下した人、重篤な基礎疾患のある患者、高齢者、12歳未満の子どもでは重症化の可能性への配慮が必要です(RKI)。
● 併発症や合併症
皮ふの細菌感染(bakterielle Hautinfektionen,)、脳炎(Hirnentzündung)、肺炎(Lungenentzündung)の報告があります。結膜(Bindehaut)や角膜(Hornhaut)などの目の合併症は失明につながることもあります。
サル痘の臨床経過
潜伏期 | 5~21日間 |
初発症状 | 発熱、筋肉痛、倦怠感 |
発疹 | 発熱後 1~3日で皮疹(小水ほう)出現 |
かさぶた | 皮疹(膿疹)から膿が出て、かさぶた化。発疹出現から2~4週間でかさぶた消失 |
治癒 | 新たな発疹がなく、全てのかさぶた消失 |
サル痘の治療(RKIのSTAKOBによる)
● 対症療法
症状に対する対症療法が治療の主体となります。発熱、筋肉痛、頭痛に対しては解熱鎮痛剤が、水ほうに対しては軟膏やクリーム製剤が用いられます。細菌感染の予防も大切です。
● 抗ウイルス薬はある?
欧州連合(EU)で最近承認されたサル痘ウイルスに効果が期待できる抗ウイルス薬(テコビリマット、商品名TPOXX、Shiga Technologies)があります。ウイルスを包んでいる「エンベロープ」と呼ばれる膜の機能を阻害します。
● サル痘ワクチンはある?
天然痘ワクチンはサル痘に対しても約85%の予防効果があるとされています(米国疾病管理予防センター[CDC])。ドイツでは、濃厚接触者への天然痘ワクチン(Imvanex®)の暴露後ワクチン接種(PEP)が推奨されています。特に免疫不全者など重症化のリスクが高い人が優先されます(STIKO 6月21日)。
● 感染者の隔離
サル痘患者の他者との接触を避けるべく、皮ふのかさぶたが完全に落ちるまで(ただし最短でも21日間以上)の自宅隔離となります(RKI)。患者と接触があったペットに関しては、獣医局(Vtrinäramt)に連絡し、助言をもらうようにしましょう(フリードリヒ・レッファー研究所[FLI]のガイドライン)。
サル痘の予防について
● 直の身体接触を控える
サル痘は主に接触感染により広がっています。感染が疑われる症状のある人との身体的接触は控えましょう(顔に触れる、握手、抱擁、キス、性行為など)。患者が使用したリネン類や衣類も直接的な接触を避けましょう。自宅での自己隔離が終了した後も8週間は、性行為時にコンドーム装着が勧められています(RKI)。
● 手を洗う
外出(外勤、買物、食事)後の手洗い、よく触れる場所やもの(スマートホンなど)を清潔に保ちましょう。
● 規則正しい生活、充分な睡眠
過労、過大なストレス、寝不足は免疫力を下げます。一方、充分な睡眠は免疫力を保つのに役立ちます。