ジャパンダイジェスト

子宮頸がんワクチンの日独の違い

日本で子宮(けい)がん予防ワクチンの接種が再び推奨されていると聞きました。来年中学に入る子と現在高校3年の子がおり、子宮頸がんワクチンについて知りたいと思っています。日本とドイツではワクチン製剤や投与方法に違いはあるでしょうか? 日本の対象年齢で接種を受けなかった場合は、もう接種はできないのでしょうか?

Point

  • ワクチン接種は子宮頸がんの予防効果あり
  • ドイツは9〜14歳の男女に推奨
  • 日本は小6〜高1相当の女子が接種対象
  • 日本にはキャッチアップ接種あり
  • 9価ワクチンは原因ウイルスの90%以上をカバー

ヒトパピローマウイルス(HPV)

ウイルス持続感染が原因

子宮頸がん(Gebärmutterhalskrebs)は、主に35〜59歳の若い世代の女性のがんです(ロベルト・コッホ研究所、以下RKI)。子宮頸がんの95%以上はヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren、以下HPV)の持続感染が原因です。

HPV陽性率は?

性経験のある女性の50%以上が生涯で一度はHPV感染するといわれています。ほとんどの感染は自然に消えてしまいますが、ウイルスの持続感染が続くと子宮頸がんの原因になります。日本での子宮頸がん検診受診者のHPV陽性率は、 6.8%(2018年のCytopathol誌)〜11.7%(2017年のCancer Epidemiol誌)と報告されています。

子宮頸がんの頻度

日本では年間約1万人に子宮頸がんが見つかっており、そのうち約2800人が亡くなっています(2020年、日本産婦人科学会)。50歳未満の若い世代を含め、日本でも患者数・死亡者数とも増加傾向がみられます(国立がん研究センター)。

性経験で感染

HPVは性的接触により感染する一種の性感染症ともいえ、男女を問わず感染する可能性があります。男性では尖圭(せんけい)コンジローマ、陰茎がん、咽頭がん、肛門がんなどの原因になり、ワクチン接種は尖圭コンジローマの予防にもなります。

HPVが関与するがん疾患

HPVが関与するがん疾患

子宮頸がん予防ワクチン

子宮頸がんの予防効果は?

スウェーデンの調査では、予防ワクチンの非接種者と比べ88%(接種年齢が17歳未満、2020年のNEJM誌)、デンマークでは86%(同16歳以下、2021年のJNCI誌)、英国では87%(同12〜13歳、2021年のLancet誌)の子宮頸がん(高度異形成)発症率の低下が報告されています。

接種年齢が低い世代ほど高いワクチン効果

英国の調査では、12~13歳の女子でのワクチン予防効果は87%であったのに対し、16~18歳の年齢層では 34%でした(2021年のLancet誌)。ワクチン接種による抗体価は接種年齢が低い方が高いとの報告もあります(2021年のLancet誌)。

接種年齢とワクチン接種の予防効果

調査国 ワクチン接種時の年齢
英国* 12~13歳
97%
14~16歳
75%
16~18歳
39%
デンマーク 16歳以下
86%
17歳以上
68%
スウェーデン** 17歳未満
88%
17歳以上
53%
米国* 14~17歳
73%
18~ 20歳
41%
20歳以上
効果なし
*高度異形成・上皮内がん、 **浸潤がん

ワクチンの2価、4価、9価とは

「価」は予防可能なヒトパピローマウイルスのタイプ(型)の数を示します。「2価ワクチン」では子宮頸がんの原因の60〜70%を占める16型と18型に対して、「4価ワクチン」は前者に加えて尖圭コンジローマの原因となる6型、11型にも予防効果が期待できます。「9価ワクチン」では、さらに31型、33型、45型、52型、58型ウイルスにも効果があるため、子宮頸がんの原因となりうる90%以上のウイルス型に対して予防効果が期待されます。

ドイツの場合

使用ワクチンは2種類

2価ワクチン「Cervarix®、GSK」(日本のサーバリックス)と、9価ワクチン「Gardasil®9、MSD」(日本のシルガード9)の2種類です。

ドイツでは9〜14歳の男女が対象

2007年より9〜14歳の女子(Mädchen)、2018年より同年齢の男子(Jungen)への予防接種が推奨されています(RKI)。未接種のまま年齢枠を過ぎてしまった場合は、18歳の誕生日前のできるだけ早い時期の接種が勧められています。

ドイツのワクチン投与回数

ドイツでは5カ月以上を挟んでの2回接種が行われます(2回接種の間が5カ月未満の場合は3回目接種が必要)。15歳を過ぎてから1回目接種を行う場合は、3回接種が必要です。

日本の場合

ワクチンは3種類(保険適応は2種類)

日本で接種できるのは2価の「サーバリックス」、4価の「ガーダシル」、9価の「シルガード9」です。定期接種として公費対象となるのは2価と4価のみです(シルガード9は2023年4月よりの改定準備中、厚生労働省)。

接種の対象者は?

小学校6年(12歳になる年度の4月1日)〜高校1年相当(16歳になる年度の3月31日)の女子が対象です。自己負担ですが、2020年から男子へのガーダシル接種もできるようになりました。

日本は3回接種が標準

2価のサーバリックスでは初回、1カ月後、6カ月後の3回接種、4価のガーダシルでは初回、2カ月後、6カ月後の3回接種が基本です(厚生労働省)。

日本のキャッチアップ接種とは

1997年4月2日〜2006年4月1日生まれの人

積極的な接種が控えられていた時期にワクチン接種を逃した女子、あるいは過去に合計3回の接種を受けていない女子のために、公費での接種(キャッチアップ接種)の機会が設けられています(厚生労働省)。

キャッチアップ接種の背景

大阪大学の研究グループより、子宮頸がんワクチン接種が激減した2000年度生まれの女性の子宮頸がん検診で、細胞診異常率の上昇が報告されました(2021年のLancet Regional Health誌)。ワクチン接種が事実上停止した9年間の空白世代への対応が必要とされています。

日本とドイツの接種対象年齢、接種回数

ドイツ 接種 推奨 可能 対象外
年齢 9~14歳 15~17歳 18歳以上
接種回数 2回 3回 -

日本 接種 推奨 可能
年齢 小6〜 高1相当 1997年〜2006年生
接種回数 3回 3回
※ キャッチアップ接種

子宮頸がんワクチンの種類

ワクチン 日本
(女子*)
ドイツ
(男・女)
予防効果が期待できる
原因ウイルスの割合
2価 60~70%
4価 -
9価 △** 90%以上
*男子は私費負担、**私費負担

Q&A

接種は大人になるまで待っても良いでしょうか?

最近の報告によると12〜13歳での接種の予防効果が最も高く(2021年のLancet誌)、16~17歳以降では低下(2020年のNEJM誌、2021年のJNCI誌)、20歳を過ぎてからの接種では予防効果がないか(2018年のLancet Child Adol Health誌)、期待できる効果が相当小さくなります(2021年のJNCI誌)。

ワクチンを受ければ子宮頸がん検診は不要ですか?

子宮頸がん検診、ワクチンともに有効な子宮頸がんの予防方法で、どちらも受けることが重要です。ワクチンはHPV感染の全てを予防できるわけではないので、早期発見・早期治療のために子宮頸がん検診も定期的に受けるようにしましょう。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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