ジャパンダイジェスト

初めてのドイツ生活と健康 - 生活編

この4月に家族でドイツに来ました。ドイツの水は日本と違って硬水ですが、健康に影響はあるのでしょうか? ほかにもドイツ生活で健康を保つために気を付けるべきことがあれば、教えてほしいです。

Point

  • ドイツの水は硬水
  • 硬水による健康被害はない
  • ドイツにはスギ花粉症はなし
  • 太陽光に当たりビタミンD不足を予防
  • 温暖化でダニ脳炎流行地域が北上
  • 冬のうつ気分にも注意

硬水とは?(hartes Wasser)

ミネラルを多く含む水

水に溶けているカルシウム(Calcium)とマグネシウム(Magnesium)の量によって、飲料水(Trinkwasser)の硬さ(Wasserhärte)が定義されます。ドイツの水道水は地下の地層でろ過された水をくみ上げているため、ミネラルを多く含む硬水です。

健康への影響

硬水の水道水を日常的に飲むことによる健康被害は特に報告されていません。胆石(Gallstein)や腎結石(Nierenstein)が増えることはなく、血管の動脈硬化を促すこともありません(2010年のWHOの飲料水に関する報告書)。

ミネラル補給

硬水は微量ミネラルの補給に役立ちます(2009年のWHOの飲料水に関する報告書)。飲水中のカルシウムが大腿 (だいたい)骨の骨密度と関係があること(1999年の米国ミネラル研究学会誌)や、軟水に比べ硬水を飲んでいる人の方が脊柱の骨密度が高いという調査報告もあります(1999年のイタリアの内分泌学会誌) 。

便通への影響

マグネシウムには腸管からの水の吸収を妨げる作用があるため、マグネシウム含有量の特に多い市販のミネラルウォーターは便秘を改善するのに利用されることもあります。

皮ふへの影響

硬水のシャワーによる直接の皮ふ障害はありません。ただし水の硬度が高くなるほど石けんの泡立ちが悪くなり、石けんと硬水のミネラル成分が反応してできる石けんかすが皮ふを刺激する可能性が指摘されています(2010年のWHOの飲料水に関する報告書)。

硬水と日常生活

飲料水

日本で殺菌のために塩素消毒が行われますが、ドイツでは禁じられているため残留塩素は含まれていません。硬水の水道水をよりおいしく飲めるようにフィルターを用いた家庭用軟水・浄水器具も市販されています(Brita®など)。ミネラルウォーターのブランドVolvicは硬度60mg/lの軟水ですが、ミネラルウォーター商品の多くは硬水です。

食器洗浄後の白い斑点

水道水に含まれるカルシウムやマグネシウムの堆積物(スケール)によるものです。電熱ポットの底には水に溶けにくい石灰(りん)(Kesselstein)が付着しやすく、酢酸やレモン汁を加えた水に漬けて溶かすことができます。

飲み物や食事の味

緑茶や紅茶にはまろやかな味の軟水、コーヒーを楽しむには硬水が適しているとされています。和食のだしや野菜を柔らかくしたい煮物では軟水が、肉の煮込み料理のあくを取り除くには硬水が適しています。

花粉症(Heuschnupfen)

ドイツにスギ花粉症はなし

日本でスギ花粉症に悩んでいた人はドイツに来ると楽になります。しかしドイツに来て数年たつと、当地の草花の花粉に感作されて花粉症を発症する人もいます。以前に日本国外で生活したことがある人や日本で同じ系統の草花が育つ地域で暮らした人は、より早期に花粉症を経験する場合も。

花粉症カレンダー(Pollenflugkalender)

4~5月前半の時期はシラカバ(Birke)、初夏からはイネ科(Gräser)花粉が飛散します。地球温暖化の影響で花粉症の時期にも変化が生じています(4月18日のRheinische Post紙)。

ドイツの花粉症の頻度

大人の少なくとも15%が花粉症と診断され、子どもの9%が花粉症で悩んでいるといいます(ロベルト・コッホ研究所のKiGGS Welle 2調査、ミュンヘンのヘルムホルツ研究所のアレルギー情報)。

ビタミンD不足(Vitamin-D-Mangel)

骨を強くするビタミンD

カルシウムが骨に取り込まれるにはビタミンDが欠かせません。ビタミンDの80~90%は太陽の紫外線が皮ふに当たって作られますが、北緯度に位置するドイツではビタミンD不足を防ぐことが課題になります。

ビタミンD生成に関与する因子

緯度、日照時間、皮ふのメラニン量(肌の色、2013年のDermatology誌)、年齢(2014年のEndocrinol Metab Clin North Am誌)が関係します。高緯度ほど紫外線が弱く、太陽光に浴びる機会が少ない人はビタミンD不足を生じやすくなります。

ビタミンD不足を防ぐには

日の長い春から秋にかけて屋外活動で十分なビタミンDを作っておくこと、冬の晴れた日には30分でも40分でも週に何回か太陽光に直接触れることが勧められます。ドイツでは1歳未満の赤ちゃんへのビタミンDの補充投与が行われます。大人でも血中ビタミンD値が低い場合はビタミンD製剤が用いられます。

乾燥した空気

湿度の低い夏

蒸し暑い日本の夏に比べると、ドイツの夏は快適です。外気温が30度近くあっても風通しの良い日陰では涼しく感じることも。それゆえ脱水症状に気付かないことがあるため、ハイキングやスポーツの際には定期的な水分補給を心がけてください。

冬の空気乾燥

天気予報(Wetterbericht、Wettervorhersage)で湿度は高くても、冷たい空気が含むことのできる水分量は限られているため、暖かい室内では飽和水蒸気量が増えて湿度が下がります。さらに冬は皮ふの皮脂や汗も減り、皮ふが乾燥してかゆみや手指のあかぎれなどが生じやすくなります。

保湿クリームを丹念に

乾燥による皮ふの症状の多くは保湿クリーム(Cetaphil Feuchtigkeitskcreme®など)を丹念に塗ることで改善します。かゆい部分を石けんで洗い続けると皮ふ表面のバリアが壊れ、シャワーを浴びてピリピリするという状態になることも。また加湿器を使っていると、冷たい窓や温度の低い部屋の壁が結露し、カビの原因になることもあるので注意しましょう。

ダニ脳炎(初夏脳炎)

マダニが媒介するウイルス性脳炎

森林地帯に生息するマダニ(Zecke=ツェッケ)にかまれて感染するウイルス感染症です。初夏頃から増えるため、「初夏脳炎」や「初夏脳髄膜炎」(Frühsommer Meningoenzephalitis、略してFSME)と呼ばれます。

以前は南ドイツまで、現在は北上

感染が多く報告されているのは南ドイツ各州やスイス、オーストリア、チェコ、ポーランドの森林地域です。温暖化に伴い、最近はノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のアーヘンやゾーリンゲンでも発症が報告されています。

予防ワクチン

感染・発症後に対する効果的な治療法がない現状では、ダニ脳炎のワクチン接種が最も確実な予防法です。山や森林地域でのキャンプやハイキングを好む人は、事前にワクチン接種を考えてみましょう。詳しくはこちら

冬季うつ病

気が沈み、過眠、過食

秋も過ぎて木枯らしが吹く頃から真冬にかけて起こる「冬季うつ」(Winterdepression、ウィンターブルー)では、うつ気分に過眠や過食が加わるのが特徴です。なぜか朝から疲れを感じ、1日中眠く、家事や仕事も前に進まず、甘いお菓子(炭水化物)などが食べたくなるといった症状がよく知られています。春になると自然に治ります。

太陽光の不足が原因

日照時間が減り、体内時計をつかさどるメラトニン分泌に変化が生じるためと考えられています。動物の「冬眠」の名残だという人もいます。強い光を浴びる光療法(Lichttherapie)が治療に効果的で、家庭用の光療法機器(Tageslichtlampe)も販売されています。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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